ファルシア大国「召集」前編
ファルシア大国 王都フンケルン・ヴォルフ城内では
かつてない程の騒ぎになっている。
慌しく動く執事やメイド達。それに指示を出している
城で働く者達。それもこれも先日起こったファルシア大国に
通ずる大門前で起こった事件のせいだ。
首謀者を調査した結果、例の人間達の仕業だと言う事が
解り聖騎士団や王族、貴族の主要人物が
召集されているのだ。
集まっている部屋は細やかな装飾が施され大きな
シャンデリアが天井に吊るされている。
20人以上の主要人物と護衛が入っても狭さを
全く感じさせない大広間にドワーフの名工が
作製した長テーブルを囲む様に座っている重鎮達。
「皆、よくぞ集まってくれた。感謝する」
その重鎮達が座っている椅子の中で一際、細かで豪華な
装飾が施さりている椅子に座り集まった者達に
労いの言葉を掛ける方が、この大国の国王
ファルシアール・ヴォルフ・バルバトロス国王陛下だ。
民や貴族、騎士達からも信頼が厚く慕われている。
平民にも分け隔てなく接するので少々国王としての
威厳が欠けている所があるが、そこが国王の良い所だと思う。
だが、そんな心優しい国王でも寄る年波には勝てず
病に伏してしまったのだ。
その時は国中が大騒ぎになり、平民や貴族が王都に
押し寄せ今日みたいに召集されたものだ。
だが、今日の召集は違う。
国王が病に伏した時もピリピリとした雰囲気だったが、
今日は、それ以上に緊迫している。
何より、病で体力が衰えている国王自ら今回の事件の件で
非常召集を掛けたのだ。
当然、今回の召集には敬愛するリヒト団長も呼ばれている。
私も副団長兼補佐役として召集された。
国王 「リヒト団長よ、皆に報告を頼む」
座っている重鎮達が一斉にリヒト団長に視線を向ける。
中には、団長の身体を舐め回す様に見ている馬鹿も居る。
よし!この馬鹿には後で脅しを掛けておこう。
リヒト「はっ!今回、皆様に集まって頂いたのは先日起こった
300名以上が死亡した事件の件です。
死亡したのは、アテゴレ地区シボラ区域を支配している
イアン率いる部下達。
首謀者は、私達が追っている人間達です」
リヒト団長が今回の事件の犯人を人間と言い切った瞬間、
座っていた重鎮達が響めき出した。
此処に居る者達も先日の事件の事は知っている。
だが、人間が犯人などと言う荒唐無稽な話は俄かに
信じられずにいたのだ。
しかし、騎士団団長の口から伝えられれば信じない訳にも
いかず皆、険しい顔をしている。
リヒト「首謀者のリーダーは、バベルと言われている男です。
この男が起こした事件では、バルダットファミリー襲撃、
ギルド施設の破壊及び殺人、兵士達の殺人未遂、コーネル殺害、
他にも、強盗、強奪、獣人売買に手を染めており、
今回の300名以上が死亡した大門事件の首謀者です」
改めてリヒト団長の説明を聞くと目眩がする。
人間が起こした事件の中では常軌を逸しているのだ。
これまで人間達が起こした事件なんて人間同士の
小競り合い程度だ。
なのにバベル達は獣人を少なくとも300名以上殺し
間接的に殺した人数も入れれば600名以上に上る。
獣人売買として売られた者達も報告では50名を超えていると
聞いたが氷山の一角だろう。
リヒト「この者は、既にアテゴレ地区のアアル区域とシボラ区域を
支配しています。
人間が、あのスラムで2つの区域を支配など前代未聞ですが
紛れもなく真実です」
2つの区域を支配していると聞いた重鎮達の何人かは不敵な
笑みを浮かべている。
大方、ハベルを利用しようと考えているのだろう。
政の専門なら露骨に顔に出す事ぐらい我慢したらどうなのだ?
そんな馬鹿だが、リヒト団長の言葉で顔色が変わる。
リヒト「これだけの事件を起こしているにも関わらず、
人間側の死傷者は全くありません。私的な考えですが
彼らは狡猾かつ用意周到に計画し下調べを
怠っていないと思います。
相手の弱みや弱点を徹底的に調べ上げ行動しています。
先日の事件もイアンの妻子を誘拐し優位な立場に立ち
イアンを殺害しています。
あの人間は、女子供だろうと全く容赦しません。
敵対する者、裏切る者、利用しようとする者は
ことごとく殺されています」
その言葉を聞き、馬鹿は汗を流している。
まぁ、当然だろう。この馬鹿にも妻子が居るはずだ。
万が一失敗して妻子が危険に晒されたら最悪だし、バベルは
徹底的に相手を調べ上げると思うからな。
「恐ろしい人間が居るのですね。ですが、その様な
者が支配していたら民も反抗するのでは無いですか?」
国王陛下の隣に座り、リヒト団長に声を掛けたのは、
ケイト・ヴォルフ・バルバトロス第2王女だ。
彼女は、まだ12歳と幼いが王族としての振る舞いが堂に入っている。
ウェーブ掛かった金髪の長い髪、明るい青色の瞳で凛っと
している彼女は一目見ても王族と解る雰囲気を出している。
因みに彼女は、リヒト団長と親交も有り騎士派の方だ。
「ふん!人間に屈するなどスラムの民は誇りが無いのか!
その様な野蛮の者など我が兵を駆り出して討伐すれば
良かろう!全く騎士は軟弱で困る!」
ケイト第2王女の次に声を上げたのは、国王の長男で、
セイント・ヴォルフ・バルバトロス第1王子だ。
彼は、王国軍派の筆頭で騎士団や騎士派の事を良く
思っていない。事あるごとに横槍を入れてくるので参っている。
しかも、騎士団は認めない癖にリヒト団長に惚れており
しつこく嫁になれ!と五月蝿いったら無い。
確かに顔は整っているが性格が傲慢で最悪。
そのくせ、愛人や娶った妻が10人以上いるのだから
充分だろうに!
絶対に、こんな男に嫁がせたりさせないですからね!
リヒト「…では、まずケイト様からの質問をお答え…」
セイント「おい!何故、ケイトからなんだ!?俺が意見を
出してやっているのだ!その意見を無視しケイトが
先とは、どーゆう事だ!!」
机を両手で叩き立ち上がる。
リヒト「ケイト様が先でしたので」
セイント「馬鹿にしているのか!?俺は第1王子だぞ!!
ならば、俺を優先するのが当然だ!
これは未来の夫を侮辱する行為だぞ!?」
はぁ…リヒト団長も大変だ。この様な馬鹿…おっと失礼。
この様な世間知らずに好かれてしまって。
王族じゃなかったら私が切り捨ててやるのに…はぁ。
リヒト「馬鹿になどしておりません。ケイト様が先に
私に質問されたので、お答えするだけです。
それと将来の事を決められるのは困ります。
私は騎士としての勤めがありますので」
セイント「ふんっ!騎士としての勤めだと?笑わせるな!
知っているぞ!お前達、騎士は人間達の捕縛に
失敗したそうでは無いか!
騎士団の真似事など辞めて俺の嫁になった方が
身の為だぞ?」
この言葉に一瞬、リヒト団長の雰囲気が変わったが
すぐに平静を保つ。
国王 「辞めんか!!今は争っている場合では無い!
一度、休息を取る」
国王の言葉でセイントは納得出来ない様な顔つきで
渋々と腕を組みながら黙り込む。
はあぁぁ~、今日の会議は長引きそうだなぁ…。
レスタは、リヒトに気付かれない様に深い溜息をついた。




