閑話 家族
「イアン様!バーロん所の酒屋で喧嘩だ!」
「イアン様、今月の売上でさぁ」
「イアン様~、飲み行こうよ~」
俺の一日は毎日こんな感じで大忙しだ。
おっと…自己紹介が、まだだったな!俺はシボラ区域を
仕切っている四獅王のイアンって者だ。宜しくな!
このシボラ区域って所は荒くれ者ばかりでよー。
とくかく治安が悪い。毎日が犯罪のオンパレードよ!
だから俺が仕切ってバランスを取ってるって訳だ。
スゲーだろ?四獅王の中で一番若いんだぜ?
おおっと!若いからって油断したら大怪我するぜ?
こんな治安の悪い場所を仕切ってるんだから強ぇーに決まってんだろ。
腕っ節なら誰にも負けねぇ!
アアル区域を支配していたコーネルと殴り合いだって
何度もしたんだぜ。
ただ、最近急に出て来た下等生物の人間に殺されちまったがな。
ったく!人間になんて殺られやがって!
もう殴り合いが出来ねぇじゃねぇか…馬鹿野郎。
でよぉ、先日コーネルの馬鹿を殺した人間に会って見たんだが
とんでもねぇ野郎だったぜ。
普通、人間ってのは俺達を見ると速攻逃げて行くのに
あの野郎ときたら、会談に遅れて来やがった癖に
敵になるなら殺すとまで言って来やがった!!
チョームカつくぜ!人間如きが俺様に向かってよ。
……だけどよ、あの人間がヤバイってのは俺の本能で解る。
度を越したヤバさだな。
何っーか、雰囲気が俺の知ってる人間じゃねーんだよな。
特にバベルを護衛してた奴がヤバイ!
何がヤバイって、俺と同じ四獅王のゲインって野郎の
強化兵を一瞬で殺しやがったんだ。
あー、強化兵っーのは身体強化の魔法を使っている私兵な。
そいつらを瞬殺した時は、流石に焦ったぜ。
だってよ、強化されてる連中は普段の倍以上に力を出せるだ。
それを、人間が殺すなんて聞いた事もねぇぜ。
そんで会談の結果、バベル達を始末する事に決まった。
山猫一族って言う殺しを生業にしてる連中に依頼を
掛けたんだが手下からの報告だと失敗したらしいんだ。
耳を疑ったね。山猫って言ったら裏社会でも上位の
暗殺集団だぜ?
それが失敗するなんてよー!参ったぜ。
「イアン様~、飲み行こうよ~、ねぇ~」
目頭を抑えているイアンに、数人が
艶かしい声で胸を押し付ける。内の美人さん達だ。
野郎ばかりだと思ったか?
内には、イリスん所に比べりゃー多くは無いが
美人が多いんだぜ。
こんな美人に誘われるのは悪い気分じゃないが
残念ながら俺には嫁がいるんだ。
イアン「悪ぃな!嫁が待ってるんだ」
「も~、また~?」
「ホントに、奥さん愛してるわね~」
イアン「あったりまえだろ!世界一の嫁だぜ!」
何とか酒の飲みを断り家族が待つ家に帰る。
数キロ走ると白い塀に囲まれた石と木材で出来ている
スラムに不釣り合いな大きい家が見えてくる。
門番の手下に軽い挨拶と報告を受け、敷地に入り、
少し歩くと大きな扉が見えドアノブに手を掛ける。
ガチャ。
「お父しゃん~、おかえりー」
「あなた、おかえりなさい」
扉を開けると、太陽の女神の様な笑顔の娘ルルナと
お淑やかで月の女神の様な妻ララナが出迎えてくれる。
イアン「ただいま!ララナ、ルルナ!」
自分の半身であるルルナを抱き上げる。
最近は、よく食べる様になっているせいか少し
重くなって来たな。
ララナ「あなた、夕食の支度が出来ていますよ」
イアン「あぁ!今行く。さぁ、ルルナ皆で御飯を
食べよう」
ルルナ「うん!」
家族でテーブルを囲い夕食を食べる。
仲間達と馬鹿騒ぎをしながら飯を食うのも良いが、
やっぱり家族と一緒に食う飯は格別だぜ。
美しい妻、可愛い娘、暖かい食事。
あぁ…幸せだ。昔の俺だったら信じられなかっただろうな。
馬鹿ばっかりやって、金は全部酒か女に費やした。
気に入らねぇ事があったら誰彼構わず噛み付いてさ。
そんな俺を救ってくれたのが同じ区域で育ったララナ。
ララナが居なかったら今の俺は無かっただろう。
楽しい食事を終え、ルルナと遊ぶ。
最近の遊びは、勇者ごっこだ。
誰が、勇者役をするのかだって?そんなもんルルナに
決まってんだろ!
ルルナ「悪の王め!ルルナが倒しちゃうよ!えい!!」
イアン「ぐわあぁぁ!やーらーれーたー!」
ルルナ「正義は、勝ちゅのだ!」
魔王を勇者が倒す王道の遊びだぜ。
けど、内心複雑なんだよなぁ…だって俺も悪人だぜ。
最近は、正義の味方になる!って言ってるみたいで
ララナが苦笑いしてるみたいだ。
◇
イアン「ララナ、ちょっと良いか?」
遊び疲れたルルナを寝かしつけてからララナを呼ぶ。
今後の話だ。
俺達は現在、バベル達と敵対関係になっている。
殺し屋なんか仕向けたんだから当然ちゃー当然だ。
いつ報復されるか解らない。
今までも、こんな事は何度かあったが今回は奴等の
行動が読めないんだ。コーネルを生きたまま焼き殺す
様な連中なので念には念を入れる。
ララナとルルナには此処から数十キロ離れた小さな別荘に
護衛と一緒に移動させるつもりだ。
俺の話を聞いたララナは静かに頷く。
そんなララナを優しく抱き寄せ頭を撫でる。
イアン「いつも、すまないな」
ララナ「大丈夫よ。でも…無茶だけは、しないで」
イアン「あぁ、しないよ。必ず迎えに行くから」
ララナ「はい。待ってます」
お互い見つめ合い唇を近づけ優しくキスをする。
イアン「愛してる」
ララナ「私も愛しています」
頬を紅く染めたララナの顔を愛おしそうに撫で
ながら必ず守ると強く思うイアンであった。
◇◇
夜も更け明かりも疎らなイアン邸を監視する
黒尽くめの男。
身長は2mもあり腕が異様に長い監視者が
人間に手渡されていた無線機と言う魔道具の
スイッチを入れる。
「見付けたでやんす」




