閑話 暗殺者
「た、助けてくれ!」
夜の貴族街の屋敷で懇願する声が響き渡る。
助けを求める者の周りには、護衛の者達が血を
流し息絶えており、その光景を冷徹な眼差しで
見下す一人の黒尽くめの女が立っていた。
「か、金なら、いくらでも出す!だから命だけは
助けてくれ!!」
恰幅が良い中年の男が腰を抜かしながら
決まり文句の様な言葉を言い後退りする。
「仕事だ」
黒尽くめの女が一言そう呟き素早く短剣で
男の首を切り裂く。
美しいとさえ思わせる程の切り口からは、鮮血が激しく
吹き出し天井や壁を紅く染める。
男の命が潰えた事を確認し、黒尽くめの女は
闇に溶けるように消えていった。
◇
「お疲れ様です。リー様」
平民街にある一角の小さな家に黒尽くめの
女性を迎え入れる顔に特徴的な刺青を入れている
山猫族の女性。
リー 「あぁ、今帰った」
出迎えをしていた女性に黒尽くめのローブを
渡すと彼女の身体が露になる。
髪は艶の有る灰色で長い髪を幾何学模様の装飾が
施された特殊な紐で後ろに束ねている。
眼は鋭く肉食動物を連想させ細く短い眉が
更に眼力を強く見せ付ける。
肌は健康的な褐色で身体は女性らしさを
保ちながら鍛えこまれており無駄な脂肪は一切無い。
但し、胸だけを除けばだが。
女の武器の一つで有る豊満な胸を揺らしながら歩く
リーに並走しながら次の依頼の報告をする。
「リー様、次の仕事は貴族街に住む男爵の始末と
お抱えの商人の始末です」
リー 「そんな雑魚共は、お前達でも始末出来るだろ?ツヴァイ」
ツヴァイ「しかし、依頼人から直接の依頼で」
リーの鋭い眼光にも物怖じせず淡々と内容を
報告する彼女にリーは深く溜息をついた。
リー 「正直つまらんのだ。雑魚ばかりで全く歯応えが無い。
それに、そんな連中ばかり相手にしていたら我が一族の
腕が鈍ってしまう」
暗殺を生業としている一族の族長の娘として殺しの感覚が
鈍る事だけは絶対に避けねばならない事だと言うのに
相手にするのは戦いのタの字も知らない素人ばかり。
仕事には誇りを持ってはいるが正直歯応えが無さ過ぎて
うんざりしていた。
ツヴァイ「承知致しました。では、この者達は私共で
始末致します」
ペコリと頭を下げるツヴァイも山猫一族で育った生粋の
暗殺者だ。
私より少々幼い外見をしているが今まで何人もの強者を
屠っている実力者で一目置いている。
ツヴァイ「では、こちらは如何でしょう?」
そう言ってツヴァイが写石で映し描かれた顔付きの手配書を
差し出す。
リー 「これは?」
ツヴァイ「四獅王が賞金を賭けた賞金首です」
リー 「私達は、暗殺者だ。賞金稼ぎの様に表立って仕事は
出来んぞ?」
暗殺者は、賞金稼ぎと違い完全に犯罪者。どちらかと
言うと我々が狙われる側なのに表立って仕事をすれば
厄介事に巻き込まれるのは必須だ。
ツヴァイ「承知しております。ですから賞金稼ぎとしてでは無く
暗殺者としての依頼がありました。
依頼人は四獅王のイアン様です」
リー 「ほう…あの餓鬼か。しかし、人間に随分な金額を
賭けたものだ」
ツヴァイ「最初に話だけ聞いた時は耳を疑いました。
ですが、この人間達…」
手配書を睨みつけながら口篭るツヴァイ。
リー 「あぁ、解っている。この者達は我等と同類だ」
手配書を見た瞬間、毛が逆立ちそうになるのを必死に抑え、
歓喜に震えそうになった身体を何とか耐えた。
同類。この人間達は我等と同類なのだ。いや、それ以上かも知れない。
羊皮紙に写し描かれただけでも解る程の凄味と射殺す様な眼付き。
殺した人数は100や200じゃきかないだろう。
これ程までの強者は騎士団団長のリヒト以来だな。
多分、殺す事だけの能力を見れば、この人間達の方が上。
しかも人間とは…世の中解らないものだ。
ただ、顔を隠している人間と獣人の餓鬼は対した凄味は
感じ無いが一応、用心するか。
ツヴァイ「では、今回は?」
リー 「勿論、私が殺る!ツヴァイも付き合え!」
リーは久々の強者の出現に口元を釣り上げ自然と
笑みが溢れていた。そんな、リーに付き合えと言われた
ツヴァイも普段、無表情の顔が緩んでいる。
ツヴァイ「承知致しました。念の為、他の者達も同行させます」
リー 「うむ!解った。イアンの餓鬼にも仕事を受ける旨を
報告しておけ。但し、邪魔だけはするなと念を押す事も
忘れるな」
ツヴァイ「承知致しました」
ペコリと頭を下げスゥっと闇に溶けるように消えたツヴァイを
見た後に用意されていた赤ワインで軽く口を湿らす。
あぁ…楽しみだ。こんなにも心躍るとは。
暗殺とは心静かに無心で相手に悟られず殺す事。
なのに、今の私は身体が火照り疼いている。
ふふっ…暗殺者として一流だと思っていたが私も、まだまだだな。
自分の身体に指を這わせながら戦いの欲求を抑え
部屋に艶かしい声が響いていた。




