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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
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閑話 子鬼

魔物が闊歩する深淵の森、獣人、亜人、人間は

この森を、そう呼ぶ。

そして私も、深淵の森に住む魔物だ。

子鬼のゴブリン。魔物として醜悪で決して強いとは

言えない魔物が私だ。

世間ではゴブリンは雑魚扱い。間違っていない。

冒険者と一騎打ちなどしようものなら瞬殺だ。

だから我々ゴブリンは徒党を組む。

1匹なら雑魚だが100匹なら?

1000匹ならどうだ?

私の父は昔、1500のゴブリンを率いた大頭だった。

その軍団を率いて村や小国を襲い、食料を奪い、

犯し、殺し、悪の限りを尽くした。

だが、当然そんな事も長くは続かず、あっという間に

討伐されてしまった。


私は、そんな父を見て育ち常に力を欲した。

もっと強く、もっと大きな軍団にしようと努力した。

ふふっ、魔物の私が努力などと笑われてしまうかもな。

私は、少し異質なのかもしれん。

しかし、その甲斐あって今では150匹の頭まで

昇り詰めた。

父の1500の大軍団には、まだまだ遠く及ばないが

良い調子で子分が増えている。

だが、そろそろ子を産む人間が欲しいな。

獣人の雌でも構わないが抵抗されても面倒だ。

やはり子を産ませるなら人間の雌が良い。


力も非力で良く叫ぶ。ククッ、また村でも襲うか。

いや、確か、このから離れた所に大きな廃墟があったはず、

確か…刑務所と言ったか?どうでも良い。

野営をするには、少々数が増えてきたからな。

そこを占領して今後の拠点として数を増やすとするか。


そう思い私は軍団を引き連れた。

だが、それが間違いだった。


「グゲェ!!」


「ゲギャアア!!」


廃墟に向かう途中の森には、無数の罠が仕掛けられていた。

その罠に同胞達は次々に事切れる。

くそ!しくじった!此処は、冒険者達の縄張りか!?

子分を増やす為の行動で減らすとは……んっ?

あそこに居るのは…人間の雌か?

髪は短めだが、躰つきは申し分無い。

装備は、見た事が無いが、今はどうでもいい事だ。

多分、はぐれた冒険者だろう。


犯す。


この女を襲い陵辱の限りを尽くし死んでいった者達の

補充をしよう。

ククッ、悪く思うなよ。さぁ!お前達!

あそこに居る人間を襲え!!


……

………


私は、夢でも見ているのか?

最初に襲いに行った10匹の同胞が一瞬で殺されてしまった。

人間の雌は、武器を持っていない!

素手?素手で我等同胞を殴り殺したのか!?馬鹿な!

ありえん!

獣人なら未だしも人間の非力な雌が魔物である我等を

素手で殺すなど。


「あははー、ファンタジーな世界にゴブリンは付き物よねー」


一匹、また一匹と頭を砕き、首をネジ折り、腕を引き千切る。

同胞の返り血を浴び子供の様に笑う人間の邪悪な笑みに

背筋が凍った。


「嬉しい!此処は私の力を縛り付ける物なんて無い!!

 あははははは!!思う存分戦える!殺せる!加減しなくても

 良いんだー!イヒヒ!最っ高!」


い、いかん!!この人間は危険だ!獲物では無く敵だ。

ならば、全力で殺すまでだ。

私は、前に冒険者から奪い取った剣を抜き構えた。

それを見た人間もまた腰の後ろに挿してあった二本の

鎌状の刃物を出す。

そして何の躊躇も無く私の方に走ってきた。

速い!なんと言う速さだ。

私の前に居た鉄の鎧を着込んでいる同胞の首を

一瞬で刈り取り周りに居た同胞達も数秒で惨殺した。

馬鹿げている!!

なんなのだ!あの速さと命を絶つ正確差は!!

我々は立派では無いが、それなりの装備をしているのに正確に

急所を狙っている。

しかも、あの速さを維持しながら動きっぱなしだ。

前に倒した冒険者達でも、あそこまで非常識な動きを

しなかった。いや、父達を討伐した騎士という

大国の精鋭よりも速く強い!


まるで死神が大鎌を振るい狂宴を楽しんでいるかのようだ。

くっ!駄目だ!我々には手に負えん!

撤退だ!殿は私に任せ全員逃げろ!!


「へぇー、ゴブリンでも仲間意識とかあるんだねー。

 立派よ!」


ふんっ!私は、この者達を率いている頭だ。

子分を守るのは当然の事!

行くぞ!人間の女!!うおおおおお、おお…お…えっ?

消え…た…?魔法?くっ!一体何処に…

私が放けている一瞬で女は這う様な姿勢で視界の死角に居た。


ドゴォ!っと音がした瞬間、私は吹き飛ばされ大木に

激突していた。


「ごほぉ!ギギッ」


人間に殴られ口から血を吐き蹲る。

なんという力だ。まるでオーガの上位クラスに

殴られたような衝撃だ。

着込んでいる鉄の鎧に眼をやると、鉄製の鎧が

ひしゃげている。

駄目だ…足に力が入らん。


「あら?ちょっと楽しもうかと思って手加減したんだけど

 終わりかなー?」


手加減?

これだけの力で手加減していたと言うのか!!

こ、この化物が!


「じゃ…もう終わりにしよっか」


…無念だ。我々が安住出来る場所を求める野望も終わりか。

しかも人間によって終わらせられるとは…ククッ。

所詮、我々はゴブリン。狩られる魔物よ…。

死を覚悟した時だった。


「ゲギャ!!」

「グゲゲ!!」


同胞の声が聴こえる。ああ、これが死ぬ間際の幻聴か?

朦朧とした意識で辺りを見渡すと逃げたはずの同胞が

ボロボロの短剣を手にし人間の女を威嚇している。


なっ!?お前達!何をしている!?この女は怪物だ!

私なぞ捨て置け!

そんな私の言葉を無視し手足が震えながら懸命に

私を守ろうとしている。馬鹿者共が…。


「あっははは!!良い!あんた等、良いよ!!気に入った!

 ゴブリンって下衆の集まりかと思ったけど良いチーム

 持ってるじゃない。

 あんた、私の部下になりなさい。強くしてあげる。」


部下…?今、部下と言ったのか?

他の同胞は女が何を言っているか理解出来ていないようだが

私には鮮明に聴こえた。


「あんた、私に殴られる瞬間、少し後ろに退いたでしょ?

 良い感覚してるわ。私は、あなたの様な優秀な者が欲しいの」


そう言った人間の眼は真っ直ぐ私を見ていた。

美しい……。

本当に美しかった…。

醜悪なゴブリンである私を、こんなに真っ直ぐ美しい眼で

見てくれた者が今まで居ただろうか。

この女なら…いや、この御方なら我々に安住の地を

与えてくれるかもしれない。

そう思ったと同時に、言葉が口から溢れ出ていた。


「この命尽きるまで、主と共に」


私と同胞達は一斉に跪いた。

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