閑話 奴隷達
ガラガラガラ。
舗装されていない畦道を、
馬車がゆっくりと走っている。
その荷窓からボーッと外を
眺めている奴隷。
「…これから、どうなるんだろ…」
これから、どうなる?
そんな事解りきっていた。
バベルと言う人間は、私達を
娼館に売ったのだ。
娼館に売られれば男を相手にする。
当然の事だ。
酒に薬、暴力が支配し好きでも
無い男と一夜を共にする。
そんな世界に私と妹は売られたのだ。
幸い、弟は貴族に買われたらしいので
手荒な真似は無いと思う。
ただ、貴族によるけど…。
「お姉ちゃん…泣いてるの?」
妹のリオーネは不安そうな顔で
私の顔を覗き込む。
「えっ!?だ、大丈夫よ!心配しないで」
お姉ちゃんの私が、もっとシッカリしないと。
絶対に私が守ってあげるからね。
グラッドにも手紙を書いて励まさなくちゃ!
「姉ちゃん、レオーネ…俺が絶対助けてやるからな」
「えっ!?」
不意に言われた言葉に驚いた。
「俺は成り上がる!俺を買った貴族を踏み台にして
金と権力を手に入れて俺達を馬鹿にした
連中に復讐してやる!
あのバベルって人間も、ガルって獣人もまとめて
ぶっ殺してやる!
そして絶対、姉ちゃんとレオーネを連れ戻す!」
メラメラと燃えるような復讐の炎を
宿した眼で言われ言葉に詰まる。
確かに、バベルさん達は私達を売った。
それは、事実。
でも、暖かい食事も安全な寝床も
綺麗な服も貰った。
普通の奴隷商なら、そんな事絶対にしない。
あの時だけは、絶望も忘れて正直楽しかった。
だけど、こうして売られて全く
恨んでいないと言ったら嘘になる。
私は別にいい、けどレオーネや
グラッドを売ったのは許せないのが
本音。
けど、復讐は考えて無い。いえっ違う。
正確には復讐出来ないと
言った方が正しいわね。
なぜなら、あの人間達は強いから。
しかも恐ろしく強い。
私達みたいな戦いに無縁な素人でも
解るぐらいの強さ。
そんな相手に復讐なんて出来ない。
間違いなく…あの人間達に牙を
向けた瞬間、殺される。
そーゆう眼をしているもの。
暗い暗い奈落の底の様な眼。
正義も神も見下し飲み込みそうな眼。
今まで見てきた眼の中で一番どす黒くて
悪意と混沌が混じりあっていた。
多分、本気で睨まれたら気絶すると思うわ。
だから、グラッドの決意には驚いたし、
ちょっと尊敬したの。
「…グラッド…貴方、解ってるの?それが、
どういう事か?」
真剣な眼でグラッドを見つめた。
レオーネは、クーレの表情と
グラッドの気迫でオロオロしている。
そんなリオーネを落ち着かせる為に、
グラッドは優しく頭を一度撫で
クーレの眼を見る。
「正直…怖い。あの人間達と敵対する事が、どれだけ
無謀な事かも解ってる。けど俺は、強くなって
一矢報いたい!だから…」
「俺が死んでも…なんて言っちゃ駄目よ?」
「!!?」
「貴方が死んだら私達は、どうなると思うの?
もし、本気で復讐したいのなら
必ず生き延びなさい。
じゃなきゃ復讐なんて認めません!」
クーレのハッキリとした口調に、
ハァっと溜息を吐きながら
頭をポリポリと掻く。
「姉さんには、敵わないな…」
「当たり前でしょ。貴方の姉なんだから」
そう言ってクスッと笑う。
「グラッド兄ちゃんが死ぬなんてダメ!!」
レオーネもグラッドの服を握り締めながら
プルプルと震えている。
「大丈夫だ。兄ちゃんは死なねぇよ!」
レオーネの頭をワシャワシャと撫でると、
ニカッと笑い膝の上に乗ってきた。
その間、他愛のない会話を
楽しんでいたが、馬車が停止する。
あぁ…遂に、グラッドと
お別れだなぁーと思っていると、
3人共降りろと言われた。
疑問に思いながらも馬車の扉を開ける。
「えっ!?」
「なっ!!?」
「うわぁ~!?」
私達の眼に飛び込んで来たのは
娼館でも貴族の家でも無かった。
大きくて煌びやかな建物。城だった。
そして、大きな門の前には、
女の私ですら惚れ惚れする程の
美しい女性がドレス姿で立って居た。
「よく来たな。歓迎するぞ」
歓迎?えっ?えっ?どーゆう事?
私達売られ…えっ?
此処って、王都の御城よね?
貴族?でも雰囲気が違うし。
あぁ!駄目!全然、頭が追いつかないぃー!!
グラッドも放心状態だし、
レオーネは…うん!元気ね!
「ハハハッ、混乱するのも無理も無い。
まぁ立ち話もアレだから中に入ろう」
中に入って更に驚いた。
ありとあらゆる場所に綺麗な装飾が
施され、床には真っ赤な絨毯。
高そうな壺や絵画が飾られ
メイドさんと騎士さんが
ズラッと並んでいる。
「少し狭いが部屋に入ろう。
紅茶も用意してある」
えぇ…狭い?何処が?この部屋だけで
大人50人ぐらいが
大の字で寝れるんですけど。
それに、あそこに座っている方々って…
騎士団の隊長様ですよね?
あれ、私何かしたかな?
うん?立ち上がって敬礼?私に?
いやいや!そんな訳無い!
後ろの人に敬礼してるのねー。
やっぱり偉い方?
はい!団長様でしたー!
この国の特権階級とも言われている
騎士団団長リヒト様ですーー!!
ヤバイ!!テンパり過ぎて、
ちょっとオカシクなってたけど
まずは、跪かないと!!
「そんな事しないでも良い。
固くならず気楽にしてくれ。
今日から君達は此処で暮らすんだからな」
……………えっ?
此処で…暮らす?嘘でしょ?
私…どーいった反応をすれば?
「暮らす…とゆーより働くが
正しいかな?勿論、給料も
出るから安心してくれ。
だだし、条件がある」
条件?当り前ですよねー!
御城で暮らせて給料が出るんだもん。
何も無い方が変だし。
それで、条件とは何でしょう?
「君達を売った人間の情報が欲しい」
その言葉に目眩がした。




