バベルの世界「買手」
アテゴレ地区の騒動から3日経ち俺は、
バベルに呼ばれた。
鉄格子が填められた廊下を歩き、
指定された部屋に入る。
そこには、俺を読んだバベルとボス。
そして、クーレ、グラッド、レオーネが居た。
心無しかクーレとグラッドの顔が暗い、
レオーネはクーレの
服を握り締めて少し震えている。
「この3人の買手が付いた。今日中に売り渡す」
「えっ!?」
バベルの言葉に驚きを隠す事が出来なかった。
「クーレが金貨650枚。グラッドは金貨500枚。
レオーネは金貨250枚、合計金貨1400枚だ。
獣人売買が厳しく規制されている影響で中々良い値段だな」
いつかは、来ると思っていたけど…。
金貨1400枚…
それが3人の命の値段なのか。
クッソ!!何だよ!いつもの俺なら
金貨1400枚なんて大金だ!
なのに…なのに今の俺は全然、
大金に思えねぇ!!
安い!安すぎだろうが!
クーレ達とは短い間だが、飯も一緒に食った。
一緒に笑って……楽しかった。
その思い出も入れて、たったの
金貨1400枚…。
「…バベル…、この3人は売らないって選択は…」
「無いな。この3人は売る」
バベルの非情な言葉が部屋に響く。
「ボス…、ボスは良いのかよ!?せっかくレオーネと
仲良くなったんだろ!?何とも思わねぇのかよ!!」
「……思わないねぇ」
その言葉に、ボスに視線を向けていた
レオーネが悲しそうな顔をして俯く。
その眼には大粒の涙が浮かんでいる。
「何で…何でだよ!本当に何とも思わねぇのかよ!!
あの時だって、必死にレオーネ助けたじゃねーか!
レオーネに見せた笑顔も嘘なのかよ!!!」
カッとなり思わずボスの胸倉を掴み声を荒げる。
「………」
「何とか言えよ!!」
「もう、良いんです!!」
クーレの声に、ハッと我に返り振り向く。
「最初から解ってた事です。
だから気にしないで下さい」
「気にするなって…出来る訳ねぇだろ!」
初めてクーレに怒鳴ってしまった。
だって、そうだろ?
気にするな、なんて…。
クーレは一瞬ビクッと肩を震わせたが、
優しい笑顔で喋り出す。
「私達ね…親に売られて絶望しか無かった。
でもバベルさん達や
ガル君は、こんな私達に美味しい御飯も
暖かい寝床も楽しい思い出も
与えてくれた。いつもガル君や
バベルさん達は気に掛けてくれた。
また売られて離れちゃうのは悲しいけど…
本当に楽しかったの。
だから…今は、気にしないで」
「今はって……」
「私達が居なくなった後に、たまに思い出して。
それで私は、充分よ」
首を少し傾け笑顔を向けるクーレに
俺は何も言えなかった。
何で、そんな笑顔なんだよ。
一緒に散々笑ったじゃねぇか…
解らねぇと思ってんのかよ、
そんなバレバレの作り笑顔。
馬鹿野郎……。
それからは、あっという間だった。
簡単な説明に書類にサイン。
バベル達は言葉は喋れるが
この国の文字は書けないそうなので
俺がサインした。
「バベルさん、ガル君、ボスさん達、色々と
お世話になりました。」
ペコリっとクーレが頭を下げるのを
見て、レオーネも頭を下げた。
グラッドだけは、最後まで頭を
下げなかった。当然か。
「あぁ、幸せにな」
何が幸せにな、だ。
クーレは、売春館。レオーネは、
その売春館の給仕だが、
いつかは男の相手をするのだろう。
グラッドは、容姿を買われ貴族の
奴隷だそうだ。
こんなんで、幸せになれる訳ねぇだろ!!
待ってるのは地獄じゃねぇか!!
「ガル君…じゃあね」
「こんな奴に、挨拶なんかすんなよ!!
俺は、絶対に許さねぇからな!!
姉さんと妹を売春館なんて!
絶対に復讐してやる!」
鋭い眼付きで、ガルとバベルを睨みつける。
「ッッ!……」
何も言い返せない。当たり前だ。
それだけの事をしてる…
復讐されたって文句を言えない。
俺が俯いているとバベルが口を開いた。
バベル「あぁ、いつでも復讐しに来い。
来たら酒でも奢ってやる」
相変わらずバベルは平常運転だ。
「…ボスおじちゃん……これ、あげる」
トコトコとボスの前まで歩きだし、
そう言って両手の上には、
硝子の破片や変わった形の石、
そして枯れた花だった。
普通の奴等からしたらガラクタ
かもしれないがレオーネから
したら宝物の品だ。
ボスは、レオーネの目線まで
しゃがみ受け取った。
「有難うねぇ…大切にするよぉ」
「………うん」
レオーネは、俯いたまま顔を
上げようとしない。
ただ、ポタポタと涙が零れ落ち乾燥した
地面を湿らせている。
ボスは無言でレオーネの手を
握り何かを手渡した。
「えっ?」
一瞬驚いた表情をした後、
自分に手渡された物を見る。
それは、銀で造られており
真ん中に赤い小さな石が
嵌め込まれ綺麗な装飾を施された
髪留めだった。
「恐い思い沢山させちゃったからねぇ。
手作りで悪いけど、あげるぅ」
手作り!!?マジで!!
素人の俺から見ても相当技術高いぞ!!
てっきり銀細工職人が手がけた物かと
思った。
ボスは、その髪留めを手に
取りレオーネの髪に付けてあげた。
「良く似合ってる」
レオーネは、パァっと笑顔に
なりボスに抱き付き……
そして、堰を切ったように
ワンワンと泣き出した。
「うわああぁあぁあん!!ボスおじちゃん!
ボスおじちゃぁあん!
もっと一緒に居たいよぉぉ!
離れたくないよぉぉ!
うあああああああん!!」
ヤバイ…これ、相当キツイ……
あっ!駄目だ。涙出てきた…。
ボスは、そんなレオーネを撫で
宥めている。
その光景を、泣きながら見ているクーレ。
グラッドは眼を逸らしているが、
眼が赤い。
京香は、これヤバイわぁ~と
言って泣きそうになっている。
ガストラは、もう泣いてる。
そうこうしている内に、
商人の馬車に乗り込んでいくクーレ達。
何か声を掛けなきゃと必死に
考えているが出てこない。
全員が馬車に乗り込み動き始めた。
ああああ!!クッソ!こんな時、
何て声掛けりゃ良いんだよ!!
えーと、うーーーんと!
だあぁぁーーーー!どうにでもなれ!!
「クーーーーレェェ!!!」
出せる限りの声で叫ぶと
荷窓から顔を出すクーレ。
「また…また一緒に笑おうな!!」
クーレは、笑いながら手を振ってくれた。
作り笑いじゃ無く、一緒に笑った時の笑顔で…。




