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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
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閑話 交渉

僕は、今ある場所に来ている。

アテゴレ地区から離れ何年も使われていない石畳を

歩く。

周りは、森で鬱蒼としており昼だと言うのに

薄暗く気味が悪い。

魔物が蠢くと聞いていたが、一匹も姿を見せないのは幸いだ。

だが、この先には魔物なんかより質が悪い連中が

待っているのだ。

森を抜け、拓けた場所に出ると一人の女性が

立っていた。


「ホントに来たんだね~、バベルの言った通り

 だったわ」


そこには、相変わらず見た事の無い服装と装備を

身に付けた剣崎 京香の姿があった。


「へぇー、僕が来る事が解ってたみたいな言い方

 だね?…どうしてかな?」


「う~ん、バベルは、勘って言ってたよ

 だから警備を少し緩めてあるんだから」


「それは、有り難いですね

 でも警備の緩めすぎも良くないと思いますよ?

 実際、何事も無く来れましたから」


事実、此処までの道のりは何事も無かった。

いくら警備を緩めたと言っても大した警備では無いのだろう。

それに、僕は腐っても元A級冒険者なんだから、そんな

簡単に罠にだって引っかからない。


「…水を2回飲んで、休憩は1回だったわね?あんたが

 食べてた干し肉って大分、硬そうだけど冒険って

 あんな感じなの?」


「ッ!!?」


眼を細めて嫌な笑いを見せる京香に言葉が出なかった。

何故…何故知っている?僕が休憩した事も水を飲んだ回数

まで…尾行?いやっ、そんな気配は無かった筈。


「言ったろ?警備を緩めたって。

 ただ、監視を緩めたつもりは、ねぇーんだよ

 テメェ如き警備を緩めても10回は殺れんだ。

 舐めた事、言ってると華奢な身体バラバラにするぞ。」


さっきまでの軽快な声から一気に口調が変わる京香にゼスは

嫌な汗が流れるのを感じる。

この森には、無数のカメラや赤外線センサーなどが

設置されており、それに馴染みが無い者にとっては

絶対に気付く事は無い。

例え、優秀な冒険者でもである。


「……理由は解りませんが、見られてたって事ですか…、

 不快な発言、取り消します。…ですから、その、

 戦闘体制を解除してくれませんか?」


京香は、ゼスの一挙手一投足を常に監視し、重心を少し

ずらした状態で、いつでも武器を抜ける体勢になっていた。

普通の冒険者程度なら、ただ立っているだけにしか見えないが

ゼスは今までの経験から察知していたのだ。


「アハハ!バレちゃったかー!私も、まだまだね!」


さっきの重い空気がアッという間に無くなり京香は、ケラケラと

笑っている。

ゼスも空気が変わった事に、フゥーっと息を吐く。


「それじゃ、案内するね。まず武器を渡して

 貰おうかな。」


京香の指示に従い、腰に差してある細長い剣と予備の

短剣を手渡す。


「はい、有難う。それとブーツに仕込んでるナイフも

 出してね?」


ドキリッと心臓が跳ね上がる。

僕は、基本3本の刃物を持ち歩き一本は必ず隠している。

今まで、一度足りともバレた事は無いのに京香からしたら

全てお見通しだったようだ。

末恐ろしい人間である。

京香に全ての武器を渡して歩を進めると大きな門に辿り着き

扉が開かれる。


「んじゃー、此処で待っててねー」


京香に案内され小さな部屋に通される。

机が一つと椅子が二つ対面で置いてある普通の部屋だ。

ゼスは、周りを軽く見た後、椅子に座る。

程なくした後、ガチャっと扉が開き獣人の少年が入って来た。


「待たせて悪いな、ゼスさん」


「君は…あの人間と一緒に居た少年だね?確か…

 ガルだっけ?」


首を傾けながらガルに問うゼス。


「あぁ、間違ってねぇよ。

 アテゴレ地区でコーネルさんの支配区に住んでる。

 ゼスさんには、何度か会った事もあるぜ。」


「ああ!すまない、中々、顔を覚えるのは苦手でね。」


「気にしないでくれよ、ゼスさんは幹部なんだから

 いちいち気にしてらんねぇだろ。」


面目ないとばかりに頭をポリポリと掻いているゼスに

ガルは真剣な顔で口を開く。


「それで…ゼスさん、今日の要件は何だ?

 あんた達とは、敵対関係なのに一人で来るなんて。」


その言葉に、先程までヘラヘラしていたゼスの顔が真剣な

表情に変わる。その変わりようにガルは、ゴクリッと

喉が鳴った。


「単刀直入に言うよ。僕の命を助けて欲しい。」


「えっ!?」


正直、その言葉に耳を疑った。ゼスと言えばコーネルの側近で

言わば右腕だ。

華奢な身体で軽い感じのゼスだが数々の武勇伝を持っている

武闘派の獣人だ。

そんな男が、人間相手に助けて欲しいなんて驚かない方が

おかしい。


「正確には、僕と数人の部下の命だね。

 代わりに、コーネルの支配地区と頭の命で

 どうかな?」


待て待て!いきなり話が進み過ぎだ!

支配地区と…頭って…コーネルの命って事か?


「ちょ!ちょっと待った!ゼスさん、あんた自分が

 何言ってんのか解ってんのか!?」


「あぁ!解ってるよ。コーネルを裏切るって事もね。」


そんな軽い口調で言う事では無いだろう!

だが、ゼスの口調とは、裏腹に眼だけは真剣そのものだった。


「でも…どうして急に?ゼスさんの恩人なんじゃないのか?」


その言葉に一瞬だけ寂しそうな表情をし、ゼスは口を開く。


「……頭、いや…コーネルの戦い方は、もう古いんだ。

 昔みたいに力だけで戦うなんてのは限界があるし、

 時代だって変わって来ている。

 ただ、暴れれば良いなんて時代は終わってるんだよ。

 なのに、頭は変えようとしなかった…そのせいで

 仲間も大勢死んだからね。

 だから世代交代してもらいたくてさ。」


そんな事になっているなんて気付きもしなかったが、

敢えて何も言わず、黙ってゼスの言葉を聞いている。


「決定打は…やっぱり君達だね。あれは衝撃的だったよ。

 人間が、あれ程、洗練された殺しの技術を持っている事。

 僕達が見た事無い魔道具。

 一切、迷いが無い行動力。

 どれを取っても尊敬に値するレベルだ。

 そんな連中と殺りあっても負けが見えている。

 君だって、そう思ってるんじゃない?」


「けど、数じゃコーネルの所が勝ってるんじゃ…?」


「数なんて関係無いよ。素人集団がいくら居ても

 玄人には絶対勝てない。

 それは、冒険者時代に学んだから。」


確かに、ゼスの言う通りなのかもしれない。

俺達の世界は、切った張ったの悪人の世界だ。

喧嘩が人一倍強い…所詮その程度の集団が異世界で

高度な殺し合いを生き延びて来た化物に敵う筈無い。


「…解りました。バベルに、その件は伝えておきます。」


「あぁ、宜しく頼むよ。それと近々、こっちに襲撃を

 かけるらしいから言伝お願いね…

 って案外、この話の内容は君のボスに筒抜けかもね?」


「ははっ…まさか…。」


ガルは知っている。部屋の至る所に監視カメラと言う魔道具と

声を聴き取る魔道具が設置してある事を。


ガルの乾いた笑い声がバベルの耳に届く。

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