バベルの世界「敵襲」
今回は、敵視点で御座いますヽ(*´∀`)ノ
『ザッ、ザッ、ザッ。』
魔物が闊歩する森に、100人相当の獣人が
武器を手にし何年も使っていなかったボロボロの
石畳の細い道を歩いている。
皆、その眼はギラつき血に飢えた獣と何ら変わりない。
その威圧に当てられてしまったのか、森に巣食う魔物は
静かなものである。
その静けさをかき消すかのように、先頭を歩いている男が
咆哮のような声を上げる。
「てめぇ等!!もうすぐだ!!舐めた人間に
眼に物見せてやれ!!
男は、八つ裂きにしろ!女は犯せ!全てを奪い、
蹂躙しろ!!!」
「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」
コーネル・ガウンの言葉に皆、咆哮し一斉に武器を
掲げる。
彼が向かっている場所は、他種族刑務所である。
先日、部下からの報告を受け居場所を特定したのだ。
「くっくっくっ!やっぱり俺の手で始末せんと
収まりがきかんわ!!なぁ!?ゼス!!
お前も、そうだろう!?」
「……そうですね…。」
コーネルの横を歩いている側近のゼス。
彼は今回の討伐とゆー名の蹂躙には難色を示していた。
ギルドの一件で結構な痛手を負ったと言うのに考えなしの
行動は頂けない。
当然、側近であるゼスは異議を唱えたが、「数で押しつぶせば
良い!!」と何とも極端な事を言い出したのだ。
一度、言いだしたら絶対に曲げない性格のコーネルに
負けじと申し立てるが一切聞き入れて貰えなかった。
それどころか、周りの連中も便乗し始め、「人間なんて余裕っすよ!」
「ゼスさんがヒヨるなんて意外ですね」、「親父!俺達に任せて下さい!」等、
隙有らば側近の地位を狙う始末だ。
馬鹿共が。
自分の実力も知らないゴロツキが何を言っている!
俺も今では、ゴロツキだが実力も弁えているし、昔は、そこそこの
冒険者で何度も死地から生き延びて来たんだ。
それなのに、コイツ等は戦いのタの字も知らない素人集団。
喧嘩が強いと戦闘が強いとでは全くの別物な事すら知らない。
ただ、頭は確かに強い。アテゴレ地区のゴロツキ共を力で
まとめ上げた実力者だ。
敵対組織だろうと騎士だろうと関係無く喧嘩をする破天荒な
獣人で、それに憧れる者も多く居る。
強い。確かに頭は強いのだ。喧嘩なら…。
しかし、今回の相手は喧嘩が強い、では無い。
戦闘に長け、殺す事に特化している人間だ。
あれ程、冷静でいて無慈悲に、そして確実に相手を殺す手際の
人間は見た事が無かったのだ。
そんな連中が今回の相手である。
馬鹿共は、相手が人間と言うだけで油断仕切っており、
頭も今の状況に飲まれ、ギルドの一件なんて忘却の彼方だ。
間違いなく俺達は、狩る側では無く、狩られる側なのだ。
「此処か!!」
コーネル一行は、森を抜け拓けた場所で歩を止める。
眼の前には乾いた大地。木は一本足りとも生えていない。
その奥に、昔は凶悪犯罪者を収容していた他種族刑務所
『パーガトリー』が、そびえ立っている。
コーネルは、腕を鳴らし既に準備万端だ。
「野郎共!!準備は良いかぁ!?突っ込めぇええ!!」
「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」
コーネルの言葉を聞き、100人以上の獣人が
考えなしに突撃する。ただし、一名を除きだが。
全員、剣を抜き駆けていく、その先にはデッドラインが
あるとも知らずに。
半数が赤い線を超えたぐらいだろうか。
その瞬間。
『ズドドドドォォォオオオンン!!』
コーネル達の咆哮をかき消すかのような爆音。
大地が揺れ、眼の前には大きな火柱が上がっていた。
それと同時に地面に降り注ぐ、腕や足、何処か解らない肉片が
ボタボタと落ちてくる。
先頭を走っていた半数は、今では何人居たのか解らない程、
身体が砕け散っていた。
その光景を茫然と見ているコーネルと生き残り達。
戦闘で茫然としていたら良い的だ。彼らにとってはな。
『タァァーーーーーーン!!』
血と肉が焼ける場所に乾いた音が響き、コーネルの近くに居た
大斧を持った獣人の頭が半分程無くなっていた。
ドシャ
地面に嫌な音を立てながら崩れ落ち、乾いた大地が
血で潤っていく。
全員は、その綺麗な死体を見た事により我に返り
そして胃の中身をブチ撒けた。
当然である。
周りは、さっきまで意気揚々としていた仲間の身体が
細切れになってブチ撒かれ、追い打ちを掛けるように
血と肉が焼ける匂い。
鼻が良い獣人は、今ほど自分が獣人だった事を後悔した事は無い。
ある者は吐き続け、また、ある者は下半身を濡らしながら
逃げ惑っている。
それでも、地獄は終わらない。
『ズダダダダダッ!ズダダダダダッ!!ズダダダダダダダダダッ!!!』
「ぎゃああ!」、「グエェアッ!」、「オゲッ!」、「ひぃ!頭!助げッ!」
『ズドッドッドッドン!!ドッドッドッドッドッドッドッ!!』
「あぁ…腕が無いぃ…プギャ!」、「えへ、えへへ、夢だ…ゆッゲペッ!」
コーネルは、今の現状が理解出来なかった。
100人以上居た部下が一瞬にして半分が消えた。
生き残った部下達も次々に頭が砕け散り、腕や足が吹っ飛び、
胴体に大穴が空き倒れていく。
100人以上の大所帯だったコーネル達は、今や10人程しか
残っていない。
「何だ…これは?俺の子供達が…次々と…。」
そう呟き、刑務所に眼を向けると…あの男がいた。
その男は、薄気味悪く笑っている。まるで狩りを楽しむ時の
俺…いや、それ以上に悪意と混沌を混ぜた笑顔だ。
「ヒッ!!」
本当に恐ろしい時を見た時の動物的本能なのか、
全身の毛が逆立ち、刑務所を背に全力で走り出していた。
頭としての威厳も誇りも部下も、かなぐり捨て走った。
逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ!!
コーネルの頭は、もう逃げる事しか考えられなかった。
「ハッ、ハッ、ハッ、な、何だ!?ありゃ!!俺は人間を
ハァッ、殺しに来た筈なの、に!!」
息を切らしながら全力で走るコーネルは、最早、狩る者では無い。
狩られる者だ。
「頭!こっちです!!」
息も絶え絶えのコーネルの耳に聞き覚えのある声が
聞こえ視線を向けると我が側近のゼスが居た。
「おぉ!ゼス!お前、今まで何処に!?」
「説明は後ですよ!今は逃げる事が先決です!」
そうゼスに言われ、着いた先は少し拓けた場所だった。
そこには、小さな小屋が建っており周りには何も無い。
「頭は、此処で休んでいて下さい。」
「あ、あぁ、すまんな。」
すっかり覇気を無くしたコーネルは力無く頷きゼスに背を向ける。
『シュッ!シュッ!!』
風を切るように素早い速さで、コーネルの両足の健が
切断される。
「ぐああああ!!き、貴様!?何を!?
どーゆうつもりだ!! ゼス!!!」
そこには、無表情で愛剣を握り締めたゼスの姿があった。
そして、その後ろには、最高のショーを見ているかのように
笑っている人間達が立っている。
「頭、僕言いましたよね?今回は、相手が悪いって。
なのに考え無しに突っ込んじゃうんですもん。
参っちゃいましたよ。」
愛剣をヒュンヒュンと振り回しながら、眉を八の字にし
何とも言えない笑顔で語る。
「だから、僕は人間に相談しに行ったんですよ?
勿論、殺される覚悟でね。
いやぁ~、話が解る方で助かりましたよ。
あなたと違ってね!」
ピシッと切先を、コーネルに向ける。
「き、貴様あぁぁ!!俺を売ったのか!!?
救ってやった俺を!!」
立ち上がりゼスに襲い掛かろうとするが、健を切断
されている為、すぐに崩れ落ちる。
「確かに、売りましたね~。金貨一枚で。」
「な…金、金貨…一枚…?」
ゼスの言葉に絶句するコーネル。自分の命がたったの
金貨一枚で売られたのだ。当然だろう。
「正直、金貨一枚でも高いぐらいですね。あっ!因みに
アジトに残った連中は全員、僕に付きましたから。
あなたは、もう終わりです。」
「貴様…許さん!許さんぞ!!ゼス!!」
あまりの怒りで、健を切られているにも関わらず、
飛びかかるコーネルをヒョイと軽く避け、首筋に打撃を
食らわす。
その打撃で気を失ったのか、コーネルの巨体が地面に
音を立てて倒れる。
「連れて行け。」
バベルの一言で京香とガストラがコーネルを鉄で出来た
動く箱に乗せ走り出す。その光景を見ながらボソッと
ゼスは呟いた。
「じゃあな……親父…。」




