バベルの世界「抱擁」
今日もファルシア大国は、雲一つ無い晴天です。
やっぱりお日様が出てると気持ち良い。
んん~~っと背伸びをするレオーネは太陽の光を
全身に浴びて満足そうだ。
「なにして遊ぼうかなぁ~。」
レオーネは、自分が売られた立場にも関わらず、
何とも自由気ままに行動している。
クーレ達は、バベルからアジト内なら自由に行動して
良いと許可を貰っている。勿論、外に出るのも大丈夫だが
色々と注意事項が存在する。
一つ、必ずバベル達の誰かが同行する事。
二つ、森には入らない事。
三つ、赤い線が牽かれている場所は絶対入らない事。
最低限、この三つの条件を守れれば外に出る事が出来る。
当然、クーレとグラッドは理解していたが、レオーネは
完全に忘れていた。まだまだ、お子ちゃまである。
因みに、本日は、バベルとガストラは元の世界に行っている為、不在。
京香は、アテゴレ地区に調査で不在。
ガルは、バベルからの課題の資料と睨めっこで頭から煙が出ている。
クーレとグラッドは、部屋で読書中。
そしてアジトの警備当番は、ボスと言う感じだ。
基本的に外に出る時は、警備当番に伝えて一緒に
行動するようになっている。
しかし、レオーネは、お子ちゃま。完全に忘却の彼方である。
「きょうは、こっちを探検~~。」
トコトコと走り回る姿は年相応で何とも可愛らしい。
丸い石や変わった物を拾い集めながら鼻歌を歌いながら
はしゃいでいる。
「んふ~。いっぱいひろえたぁ~。
お兄ちゃんとおねぇちゃんに見せてあげよーっと。」
トコトコと満足気に歩いているとレオーネの目の前に
変わった物が地面から覗かせていた。
濃い目のグリーンで平たい何か。子供からしたら
宝物を見つけた気分だろう。
レオーネも当然、物珍しさに負けて駆け出した。
宝物であろう物の前には、赤い線が牽かれている。
丁度その頃、入口の監視塔に昇り気分転換しようとしているガルが居た。
「あぁーー、マジでキツイ!!何だよ!あの量!
しかも計算が難しすぎんだよ!!」
因みにバベルが出した課題は、現代で言う中学1年生レベルの
問題であるが、ガル達が住む異世界では、そこそこの
店を持っている商人が何とか解けるレベルと考えて欲しい。
「絶対、終わらねぇよ…何が『俺の部下で馬鹿は困る』だよ!
全く…ん?あれは…レオーネ?」
眼を細めながら外を覗き込むガル。
何で、誰も一緒に居ないんだ?今日の担当って…ボスだよな。
サボりか?何て事を考えていると外周巡回を終えたボスが
下から声を掛けて来た。
「ガルくぅん~、サボりぃ~?」
「別に、サボってねぇよ。気分転換だ!気分転換ー。」
「アハハ~、物は言いぃようだねぇ~。」
「そーゆうボスは、どうなんだよ。レオーネが外に
出てるのに見てなくて良いのか?」
ボスだってサボってんじゃんとケラケラと言うガルに
ボスは、えっ?と驚いたように声を上げる。
「えっ?いや…だって、あそこに……って、おい!
待て待て!!ボス!!ヤバイ!レオーネが
赤い線に近づいて行ってる!!」
ガルの指さした方向を見ると、赤い線まで数メートルの
所まで近づいているレオーネの姿があった。
あそこは、ボス達が仕掛けた地雷原になっている。
「レオーネェェ!!駄目だぁ!!そっちに行くなぁ!」
ガルの必死な呼びかけにも、宝物を見つけ夢中になっている
レオーネの耳には届かない。
「レオーネ!!くっそ!ボス、どうしたらいい!?」
「そのまま、声を掛け続けろ!!」
初めて声を荒げるボスに若干ビビリつつ必死に声を
掛け続ける。
ボスも、レオーネに向けて走り出した。
そんな慌てる二人に一切気づかずレオーネは赤い線…
デッドラインに近づいている。
「嬢ちゃん!!止まれ!!」
その声に一瞬ビクッとしレオーネは振り返る。
そこには、鬼気迫る顔で追ってくるボスの姿があった。
元々、ボスの事を怖がっていたレオーネは、その声と
形相に恐怖を感じ一旦止まった足が速度を増して
走り出す。
(チッ!あの餓鬼!!)
舌打ちを打ちながらボスも速度を上げる。
既に、レオーネはデッドラインに入ってしまっているのだ。
(ハァ、ハァ、怖いおじちゃんが来る!!
つかまっちゃったら、いっぱい怖い事されちゃう!
もっと逃げなきゃ!)
息を切らしながら走るレオーネは逃げる事で頭が一杯だった。
そして…。
『カチリッ』
足元から聞こえた音と共に、レオーネの足が停止する。
「えっ!?なに!?なんの音?」
訝しげに足を退かそうとするレオーネにボスが声を荒げる。
「動くな!!動いたら死ぬぞ!!!」
ボスの怒鳴り声と死ぬと言う言葉で退かそうとしていた
足の動きが止まる。
「嬢ちゃん、動くなよ…良い子だ。」
ゆっくりと近づくボスにレオーネは今にも泣き出しそうだ。
ガルと騒ぎを聞きつけたクーレとグラッドも赤い線の
外側まで駆けつけたようだ。
「ボス!?レオーネは大丈夫なのか!?」
「……地雷を踏んだ。幸いな事に旧式の地雷のようだから
踏んでも爆発しない。だが、足を離した瞬間…爆発する。」
ボスの言葉に顔から血が引いて行くのが解った。
「あぁ…そんな…何で、こんな事に…」
「お、おねぇ…ちゃ、に…ちゃん、ヒック、うぅ。」
「マジかよ!何とかなんねぇのかよ!?」
恐怖の臨界点を超えてしまったレオーネは、遂に
泣き出してしまった。
自分の服を両手で握り締め小刻みに震えている。
「お前等、落ち着け。クーレ、グラッドは、嬢ちゃんに
声を掛け続けろ。そうだな…楽しい話が良い。
一緒に遊んだ話でも何でも良いから楽しい話を
し続けろ。」
「お、俺は!?」
「見てろ。」
「お、おう。」
ボスの即答に若干ショックを受けつつも黙って見るガル。
実際、俺に出来る事は何もないしな。
「嬢ちゃん。重心を右足に傾けた状態にしろ。
いいか?何があっても足を上げるな。」
「うぅっ…ううぅぅ~。」
「今からナイフを足と地雷の接地面に入れる。
良いか?嬢ちゃん、体重は掛けたままだぞ。」
ナイフを取り出し、ゆっくりと接地面に入れていく。
爆発しないように、体重を掛け、ゆっくりと……。
ズッ…ズズッ……。
「よし。良いぞ。もう足を退かしても大丈夫だ。」
ナイフを入れ終わったボスは自分の体重を腕に乗せ、
地雷を押さえる形になっている。
「で…でも……うぅ、こ、怖いよぅ~。」
「大丈夫だ。必ず助けてやる。ゆっくりでも良い。
そうだ、ゆっくり…良いぞ。」
レオーネは、ゆっくりと足をずらしながら地雷から
離れていく。
「よし!ガル、出来るだけデカイ石を持ってきて
此処に置いてくれ。」
そう言ってガルに指示を飛ばし、かなり大きめな石を
ナイフと地雷の上に置く。
「これで良い。後で処理しておく。」
はぁぁ、っと腰が抜け地面に座り込む。
レオーネは、クーレとグラッドに抱き付き生還を喜んでいる。
ボスは、そんな3人の所に歩き出していた。
しかも、かなり真面目な顔でいるから結構、怖い。
ザッ、と3人がしゃがみこんでいる場所に行き見下ろす。
あのボスに、見下ろされているのだ半端じゃなく
怖いのだろう。クーレとグラッドは、喜びから一転して
恐怖に顔が歪んでいる。
「あ、あの…ホントに、も、申し訳…。」
「すまなかった。」
クーレの謝罪の言葉を遮るように、ボスが頭を下げ謝罪した。
その光景に全員、眼を丸くしている。
そりゃそうだろ。あの、ボスだぜ?
あんな事を平然とやり遂げるボスがクーレ達に頭を下げるんだ。
驚かない方が無理だろ。
「君達に対する配慮を怠った俺のミスだ。
もう少し気を配るべきだったよ。そうすれば、
嬢ちゃんが、こんな怖い思いをする事は無かった。
本当に、すまない。」
頭を上げず微動だにしないボスの姿にクーレ達は、
オロオロしだし、俺も完全に思考が停止していた。
そんな時、レオーネが立ち上がりボスの正面に立ち
ペコリっと頭を下げる。
「ボスおじちゃん、ごめんなさい!!
そして助けてくれて、どうも、ありがとう!!」
いきなりの謝罪と感謝の言葉で、細目のボスが見開く。
多分、こんな事、言われると思っていなかったんだろう。
フッと一瞬だが、ボスの顔が綻びレオーネの頭に手を乗せる。
「良く頑張ったな。偉いぞ。」
レオーネは、ボスの言葉を聞いた瞬間、満面の笑顔で
ボスの足に抱き着いた。
「ッッ!?!?」
意外だった。ボスが、あんなに驚く姿なんて見た事
無かったからな。
あぁ……でも、少し、ほんの少しだけど安心した。
ボスにも、ちゃんと心があるんだ。
だって、あんな優しく微笑んでるボスみた事ねぇもん。
★
後日、ボスの後ろをトコトコと付いていくレオーネの
姿を見て、バベルが「何でだ!?」と叫ぶ姿があった。




