バベルの世界「代償」
露店街では、今も騒然としスラムの連中は恐怖に顔が
引き吊っている。あの低俗な人間が圧倒的な強さと
恐怖を一瞬で植え付けたのだ。
バベル達がアジトに向かう時なんて全員が顔を
伏せたまま道を譲っていた。
ハッキリ言って前代未聞の光景だった。
勿論、アジトまで俺達に絡んでくる奴等は一人も
居なかったな。懸賞金が賭けられているのにも関わらず。
そして、無事に…まぁ、俺の胃は全然、無事じゃないが
何とかアジトに着いたのは良いんだが…。
「おいで!新しいパパだよ!!」
アジトに何とも馬鹿みたいな言葉が響く。
こんな馬鹿の事を言う奴は誰だ?何て考えていたら、
両手を開いた状態でしゃがんでいるバベルが居た。
そして、その視線の先にはクーレの後ろに隠れて
少し顔を覗かしているレオーネが居る。
そんな光景を見て俺は頭を抱えてしまった。
「あぁ…頭いてぇ…何してんだよ…?お前は。」
「ああ、実はな…。」
何でも、露店街で事件を起こした後、レオーネに
話しかけると隠れてしまうように、なってしまったとの事だ。
しかも、クーレもグラッドも相当、余所余所しくなって
いたのでスキンシップ?と言う事をしているらしい。
ハッキリ言おう!こいつ馬鹿だ。
当たり前だ!!目の前で、あんな凄惨な現場を
見たんだぞ!!普通だったら泣きじゃくってるわ!!
それなのに、この馬鹿は何も無かったかのように
接しようとしてんだぜ?
馬鹿だ!大馬鹿野郎だ!!
「おいで!レオーネ!!Come here.!!」
追い打ちをかけるかのように声を掛けられている
レオーネは、今にも泣き出しそうだ。
「止めろ!!」
先日、京香に教えて貰ったローリング・ソバットと言う
技をバベルの後頭部に叩き込む。
ゴッ!!と結構な音と共に倒れ込み恨めしそうな眼で俺を見る。
「お、お前…雇い主の後頭部に、ソバットかますとか…
どーゆう了見で…ぐおぉ。」
大分、良い箇所に入ったのか後頭部を押さえている。
「レオーネが怖がってるだろーが!
ただでさえ、コエェ顔してんのに、あんな事件
起こした後に近づく訳ねーだろ!!」
「コワイ顔って…若干、傷つくが…まぁ、良い。
しかし、ガストラと京香には怖がってないのが
納得出来んな。」
そう。ガストラと京香には全然普通に接しているんだよな。
あの二人も色々とブッ飛んでいるが…。
要は、ガストラと京香には懐いているのにバベルや
ボスに懐かない事が納得出来ないらしい。
バベルが話しかけると隠れるだけのレオーネだが、
ボスに対しては、もっと酷い状態だ。
ボスの姿を見ると、この世の終わりみたいな顔に
なるからな。
まぁ…ボス本人は全く気にしていない感じだけど。
まさに、鋼鉄の精神だな。
「クーレ達は、ちょっと外に出ていてくれ。
バベルに説教すっから。」
「あ、は…はい。」
「わかったー。お外いってもいい?」
「良いけど、あまり遠くは駄目だぞ。
それと赤い線が引かれている場所は絶対に
入っちゃ駄目だからな。」
「はーーーい!」
元気良くガルに返事を返すレオーネ。
完全にガルが、お兄ちゃん化している。
バベルは、何でだ?と項垂れている。
トタトタと走り出し姿が見えなかなった所でガルが
口を開く。
「大体よ…お前、クーレ達を売るんだろ?
それなら、寧ろ嫌われてた方が良いんじゃないか?
変にさ…その、情が移っちまったら辛ぇじゃん。」
その言葉に、ハァと一つ溜息を付くバベル。
「情が移った方が仕事もやり易いし、そっちの
方が従順になるんだよ。相手はな。
恐怖で縛り付けるのは、簡単だ。だがな、それだと
商品の質が落ちる。」
相変わらず反吐が出そうな理屈だ。
「良い夢見させて最後には突き落とすのかよ!
一番、残酷じゃねーか!!」
「残酷ねぇ…なら、お前は、どうなんだ?」
「あぁ!?」
「情が移ったら辛い?なら最初から辛く当たるのか?
人間も獣人も売られた先は殆ど地獄だ。
なら一瞬でも幸せを感じさせて送った方が良くないか?
なのに、お前は最初から地獄を見せた方が気が楽だと
言いたいのか?お前の方が、よっぽど残酷だろ。」
「ッッ!!そう言う訳じゃ…。」
バベルに言われ、言葉が詰まる。
「結局の所、お前は罪悪感から逃げたいだけだ。
獣人に蔑まれる覚悟も
獣人に憎まれる覚悟も
獣人に殺される覚悟も
全て足りないんだよ。今のお前は。」
ギュっと唇を噛み締めながらバベルを睨む。
睨むが、何も言い返せなかった。
それが、悔しくて仕方なかった。
「辛く無い仕事は、仕事じゃ無いんだよ。」
「なら…どうしたら……。」
「全てを受け入れる覚悟。それだけ持てば良い。」
ポンっとガルの頭を軽く叩いてバベルは出ていった。
「全てを……。」
静寂に包まれた部屋にガルの言葉だけが小さく響く。




