バベルの世界「食事」
「おいしい!!!」
バベル達が拠点としている他種族刑務所に
幼い声が響き渡る。
レオーネは、大きい眼を見開きながら皿の上の
料理をリスのように頬張ってモグモグ食べている。
その隣では、クーレとグラッドがあまりの
美味しさに絶句していた。
何故、このような状況になっているかと言うと、
バベルが外食では無くアジトで飯を食うと
言い出したからだ。
たしかに、獣人と人間が一緒に食事なんて目立って
しょうがない。
俺だけなら、まだしも今は小さな子供達も居るんだ。
何があるか解らないしな。
後は、店の食事が純粋に不味いと言う理由らしい。
俺は、毎日外食してたが全然不味いなんて
思った事無いが、バベル達からしたら全部、
塩の味しかしないから俺が作った方が良い。
との事だ。
初め、バベルが料理?正気かと思ったぜ。
人間が…しかも、バベルが作る料理なんて恐ろしくて
食えないと思ってた。
そうこうしていると、アジトに付いて、すぐに
バベルは調理場に消えて行った。
此処は、元刑務所だから当然、調理場も存在する。
しかも、無駄にデカイ。
バベルが調理場に消えていった後は、京香がクーレ達に
興奮気味に自己紹介していた。
特に、グラッドには激しいスキンシップをして
思いっきりグラッドの顔に胸を押し付けて顔を真っ赤に
させてたっけ。
一通り、スキンシップが終わりクーレ達は席に
案内されていたが不安な表情をしていた。
当たり前だよな。自分達を買った連中のアジトに
連れて来られたんだから不安になって当然だ。
京香は、それを察して「大丈夫だよー!」と言っていたが
いまいち信用していなかった。
俺も上手い事を言えば良かったんだが、バベルの料理が
気になりすぎて全然言えなかった。
我ながら情けない…。
勝手に、凹んでいるとバベルが料理を持ってテーブルに
並べ始める。
そこには、今まで見た事の無い料理が並んでいた。
「何だ…これ?」
テーブルの上には、丸く型どられ焼かれた物が
ジュウ、ジュウと音を立てており、その上には
濃い色のソース?らしき物が掛かっていた。
その付け合せには、シャキシャキの野菜と具沢山の
スープ、それとパンとライスが並んでいた。
「お前達は、パンとライスどっちが良い?」
「えっ!?あっ!パン…で。」
「ガルは、パンな。クーレ達は?」
「あ、あの、これ…私達も頂けるんですか?」
オズオズとした顔でバベルに聞くクーレに当然だと
切り返され一同驚きを隠せなかった。
そりゃそうだ!今、目の前にある料理は貴族並の
料理だ。
パンは、柔らかそうでフワフワしているし
スープには、これでもかと言うぐらい具材が入っている。
そして、瑞々しい新鮮な野菜。スラムで新鮮な
野菜なんて滅多に手に入る物じゃない高級品だ。
それが、惜しげもなく使われているのだから逆に
不安になるに決まっている。
ただ、この丸くて焼かれている物は未だ解らない。
まぁ…食えば解る。
俺やクーレ達がナイフとフォークを手にして
食べようとした瞬間。
「頂きます。」
「頂きますぅ。」
「頂きます!!。」
「…頂きます。」
バベル達は、両手を合わせ呪文のような言葉を
口にしていた。
その言葉に、クーレ達や俺は、キョトンとした顔を
してしまった。
「何言ってるんだ?」
「あー、ガルちゃん達は知らないよねぇ。
これはね、私の故郷で食事をする前に
言う言葉だよー。」
「京香の故郷ではな、食材になった命と
その食材を作ってくれた者に対して感謝の
意味を込める風習があるんだ。」
「感謝…?」
「そだよー!この食材は、私達の血肉になるんだもん。
食材達のお陰で生きる事が出来るんだから
しっかりと感謝しないとねー。」
「素晴らしい文化だろ?俺は気に入っている。」
意外だ…本当に意外だと思った。
コイツ等から、感謝なんて言葉が出てくる事も、
それが食材に対する事と食材を作ってくれた者達に
対するなんて。
考えてもみなかった。
今まで、ただ腹が膨れれば良いと思っていた俺から
すれば衝撃的だった。
クーレ達も今まで考えても見なかった事を言われて、
納得したのか強く頷いている。
そして、クーレ達もバベル達の真似をし両手を合わせる。
当然、俺も流れで同じ事をした。
「「「「頂きます。」」」」
さて…まずは何から食べようか…よし!
スープから行くか!!
スプーンで具材と一緒に掬い口に運ぶ。
「!!!?ッッ」
ヤバイ…これは、ヤバイぞ!
メチャクチャうんめぇぇぇええぇ!!
えっ!?えっ?何だ!!これ!!
スゲェ!!こんなに味が複雑なのにバラバラに
なってない!
今まで塩味だけのスープしか飲んだ事ない奴から
したら一瞬で虜になってしまう味だ。
具材も柔らかく煮込んであるのに、全然
風味を損なっていない!
クーレ達も同様で絶句している。
レオーネは、美味しい!美味しい!!と言って
モグモグ食べている。
で、今に至る訳だ。
正直ここまで美味いスープを飲んだのは初めてだ。
「随分、料理を心配してたみたいだが
お口に合いましたか?」
ニヤニヤしながら嫌味ったらしくガルに聞く
バベルに対し。
「グッ…ウメェよ…」
「何だって?聞こえないが?」
こ、この野郎…結構、根に持ってやがったな。
「メチャクチャうめぇよ!!良いから食わせろよ!」
「ハッハッ!なら良い!」
バベルは、放って置いて…次は、この丸くて
焼いてある奴だな。
ナイフをスッと入れると驚く程、柔らかく何の抵抗も
無く切る事が出来た。
そして、煽でる肉汁を見てゴクリッと唾を飲む。
これは肉だ、しかも細かくミンチにして型どってある。
肉なら絶対美味い!!とゆーか匂いで絶対美味い事が
解る。そのぐらい良い匂いがするのだ。
熱々の、それを口に放り込む。その瞬間、口の中に肉汁が
広がり肉とソースの旨みが一気に駆け巡る。
すぐさま、もう一口頬張り、一緒にパンも口に入れた。
身体に電気が走る程の衝撃だった。
この肉とパンの組み合わせはヤバイ!!
殺人級の美味さだ。正直これを食いまくって死んでも
一切後悔しない。
そのぐらい美味い!!
クーレ達も無言でモグモグ食べている。
「俺の特製ハンバーグは、どうだ?」
「………」(もぐもぐもぐもぐっ)
「…………」(バクバクバクバクッ)
「…なぁ、俺のハンバーグは…」
「………」(もぐもぐもぐもぐっ)
「…………」(バクバクバクバクッ)
「はい!!美味しいと言う事にします!!」
皆、バベルの言葉なんて一切聞こえていない程、
無我夢中に食べていた。
結局、全員お代わりをして、ハンバーグなる物が
足りなくなってしまい、バベルがまた作る羽目に
なったのは言う間でも無い。




