バベルの世界「制圧」★
「コラッ!!人間風情が此処を何処だと思ってんだ!!」
リーダー格の男に詰め寄り、刃物をチラつかせる。
「オイ!!聞いてんのか!?テメェ!!t」
三下並みの脅し文句だ。
もう少しまともな脅しが出来ないものだろうか。
しかし、それに対して人間の方は、どうだろう。
三下が、いくら怒鳴っても目も合わせず全く
物怖じしないじゃないか。
人間にしては、見上げた根性だ……だが、今日は相手が悪い。
三下一人ぐらいなら、殺される心配は無い…
悪くて半殺し程度だろう。
だが、今日は、十数人の獣人とバルドまで居る。
それも最高に機嫌が悪い状態で。
「奴隷が!さっさと消えやがれ!!さもねぇと…」
[ジッッ]
嫌な音がした。
骨に何かが擦れるような音…。
その瞬間、チンピラの刃物を握っている手首が宙に浮き、
瞬く間に真っ赤な血が辺りを染める。
「イッ!!?」
情けないが、こんな声しか出なかった。
本当に驚くと、皆こんな感じではないだろうか?
「あぁ~ッあ~~」
「この世界の連中は、血の気が多くて困るな。」
「だねぇ~」
何言ってる?…何言ってるんだ!!?この男は!
血の気が多いだと!!?
全く躊躇無く、無言で相手の手首を切り落とす
奴らが何言ってんだ!?
「あああ~、うぅぅ~」
三下も三下で情けない呻き声を上げている…当然だろう。
いくら獣人でも、手首を落とされたら痛い!激痛だ!!
それを、見かねバルドが腰を上げる。
「おい!テメェ!俺達が誰か解んねぇ田舎者みてぇだな!!
俺様は、バルダッドファミリーの
ボスで、この辺を仕切ってる……」
そう言い終わる前に、リーダー格の男が首を
指で切る動作をした瞬間
ズダダダダダダダダダダダッ ダンッ ダダンッ
物凄い音と火花が散ると同時に、いきり立っていた
バルドの手下共が血飛沫を上げながらバタバタと倒れていった。
ズドドドドッ ドンッ ドンッ ドガガガッ
「ヒッ!!」
咄嗟に頭を低くしてカウンターの裏に逃げ込んだ。
ズドンッドンドンドンッ ダダンッ
ガラスが割れる音、木が弾ける音、そして…バルド達の叫び声
永遠に続くのかと思うぐらいの時間だった
そして、静寂…なんの音もしなくなった。
いや、正確には俺自身の心臓の音と奥歯のガチガチと
言う音で聞こえなかっただけかもしれない。
(な…何だ…よ!あれ!?いきなりデケェ音が
なったかと思ったらバルドの手下どもが…)
冷水を頭から、ぶっ掛けられたみてぇに冷や汗が止まらない。
呼吸が苦しい。
「もう…終わったのか?」
奴らが居た場所を覗こうとした瞬間、
首に冷たい物が当たった。
「こぉんにちぃ~はぁ」
「!!!?」
首に当たっていた物は一体今まで何人斬ったのか解らない程、
刃が欠けた血生臭いナタのような刃物だった。
「そぉんなにぃ、怯えなくてぇ大丈夫だよぉ~、あぁっ、
でもぉ抵抗とかぁはぁ辞めてねぇ
そんな事されたらぁ~達磨にぃするからねぇぇ?」
ヤバイ…こいつヤバ過ぎる!
今まで築き上げた自信もプライドも人間に対する思いも全部
ぶっ飛ぶぐらいヤバイ!!
恐怖で震えが止まらねぇ…何で、こんな事になってんだ?
俺が一体何したってんだ?
そんな事が、頭をグルグルよぎり吐き気までしてきやがった。
「ほらぁ~、立ってぇ、こっちにぃおいでぇぇ。」
腕を、捻り挙げられカウンターから引きずり出され、
さっきまで喧騒で賑わっていた場所に立たされ絶句した。
さっきまで、酒を飲み女にチョッカイを
出していたバルドの部下達……の肉の塊だけが
転がり辺り一面血の海だった。
全員、頭が弾け飛んで見るも無残な状態。
その光景を見た瞬間、
一気に胃液が逆流し食ったラムの肉と酒を床にぶちまけた。
「うぅおぇ!おおぇぇ、ガッハァ、ハァ ハァ ウゴエェェ」
今まで、それなりの修羅場を潜ったと思っていたが、
とんでもない!甘かった、そう思う程の
惨状だった。
「ハァ、ハァ…」
「落ち着いたか?」
吐き終わり吐瀉物まみれの俺に向かって男は聞いてきた。
「あ、あぁ…」
「ほら、汚れてるぞ?これ使え。」
バベルが俺に差し出したものは、真っ白な絹性の手ぬぐいだった。
こんな上等な物を何の躊躇も無く出すなんて信じられなかった…まして人間が。
そして人間に同情される行動に心底腹が立った。
俺が…この俺が人間なんかに!!
バシッ
乾いた音が店内に響く。
「いらねぇよ!!」
これが、俺が出来た精一杯の虚勢だ。
「ハッハッ、威勢が良いな。良い事だ。」
床に落ちた手ぬぐいを拾いながら笑っている。
「さて…少年、一つ質問して良いか?」
質問…これは、多分答えを間違ったら即アウトだろう。
慎重に答えなければ。