ファルシア大国「騎士」
ファルシア大国 王都「フンケルン・ヴォルフ城」
『コツッコツッコツッ…。』
此処は、ファルシア大国の中心、王都フンケルン。
様々な獣人・亜人が活動し毎日活気に溢れている場所だ。
王都に行けば、手に入らない品は無いとまで、
言われる程、交易が盛んに行われ商人や
物珍しい物目当ての貴族達に冒険者など多種多様な者達で
溢れ返っている。
しかも、他の国より断然、治安が良いと言うのも
人が集まる証拠だ。
だが、少し離れたスラム街「アテゴレ地区」。
此処は、全くの別物だ。
諸悪の根源を集めたような場所で環境は劣悪。
住んでいる住民も下劣で凶暴な連中しかいない
ので普通の民は、誰も近づかない。
勿論、国としても対策を取ってはいるが、
この地区を支配している四獅王などと呼ばれている
無法集団のせいで上手くいっていないのが
現状だ。
全く、嘆かわしい。
そんな厄介者共が住んでいる地区で最近、
おかしな事が起こっているらしい。
私は現在、報告書を持って王都にそびえ建つ城
「フンケルン・ヴォルフ城」の真っ赤な絨毯が敷き詰められた
長い通路を歩いている。
暫く歩いていると目の前に重厚な両開きの
扉が見え立ち止まる。
大きく深呼吸し扉をノックする。
『コンッコンッ!』
「入りなさい。」
耳に心地よい声が返って来たと同時に扉を開ける。
「シュトラール・ヴォルフ騎士団副団長
アルデバラーン・レスタです!
リヒト団長!報告書をお持ち致しました。!!」
報告書を持っていない腕を胸に当て敬礼する。
「うむ。待っていたぞ。調度、紅茶を入れた所だ。
こちらに来て一緒に飲もう。」
紅茶を入れたカップからは薔薇のような良い香りが
立ち上る。
「有難う御座います!」
「ふふっ、そう畏まるな。長い付き合いなのだ。
もっと楽にしろ。」
あぁ…私のような中流階級の娘相手に何とお優しい事か。
この方は、リヒト・アルバーニ団長。
ファルシア大国の主力騎士団「シュトラール・ヴォルフ」で
団長を務めている御方だ。
腰の辺りまで伸びる白銀のような髪。
透き通るような白い肌。
身体は、日々の鍛錬で引き締まってはいるが、
女性らしいさは全く損なわれてない。
男なら必ず眼が行ってしまう豊満な胸。
くびれた腰に立ち振る舞い。
そして何より美しい御顔。
リヒト様は、誰もが必ず振り向く程の絶世の美女なのだ。
多少モテる私でさえ思わずドキッとする。
しかも、美しいだけで無く実力も騎士団トップで
公爵家の御令嬢なのだから頭が上がらない。
そんな、リヒト様に憧れて血の滲む様な訓練をし、
やっと…やっと私は副団長と言う地位を手に入れたのだ。
この地位だけは、絶対に渡さん!!!
もっと、敬愛なるリヒト団長を語りたいが、今は
目の前の仕事に集中しよう。
「ふむ…先日の冒険者ギルド襲撃の件か。」
「はい。前回のコーネル派閥の下部組織
バルダットファミリー壊滅の件と同様の
者達の仕業です。」
「そのようだな。」
カチャっと紅茶が入ったカップを受け皿に置く。
「最初は、私も耳を疑いました。
まさか、若い獣人1人と…たった4人の
人間の仕業だとは。
しかも、主犯が人間だと言うじゃありませんか。
全く信じられません。」
確かに、レスタの言い分は、最もだ。
この国で、獣人や亜人に逆らおうとする人間は
居ない。
そのくらい階級が、しっかりとしているのだから。
「今回の、冒険者ギルド襲撃では四獅王の
コーネル・ガウンも被害にあったそうです。
ただ事情を聞く前に、姿を消したので
詳細は不明です。
ですが、ギルド職員に話を聞いた所、
人間は、雷の杖の様な見た事も無い魔道具を
持っていたそうです。」
「雷…?」
「はい。雷のような光と音が聞こえ、それと
同時に相手が血飛沫を上げ倒れると。」
それを聞き、一瞬リヒトの顔色が曇る。
リヒト「それは、随分と危険だな。しかし雷の杖か…。
そんな物、ドワーフの名工でも作れんだろう。
一体、何処で手に入れたんだ?」
レスタ「申し訳ありません。現在、調査中で…。」
リヒト「いや、良い。気にするな。」
ここまで、調べ上げて報告してくれたのだ。
寧ろ、良くやったと思う。
「それと、人間の腕前も相当なようです。
コーネルの右腕・ゼスの剣を受ける程だとか。」
「ゼスか…、確か、元A級冒険者だったな。
10年前に獣人を5人殺してコーネルに
スカウトされた豹の獣人。」
「そうです。そのゼスの攻撃を受け、素手で
冒険者13名を殺しています。」
「……本当に人間か疑いたくなってしまうな。
何か手がかりは?」
「人間2人が襲撃前に、冒険者に登録してたそうです。」
必要事項が記入された書類2枚を差し出す。
「見慣れない名だな。異国の者かもしれない。」
「はい。」
「キョウカ・ケンザキに、ガストラ・ラベラ…か。」
そう呟き、冷え切った紅茶を飲み干した。




