バベルの世界「釈放」
ギギッ…ガッシャーーン!!
監獄正門の重い扉が開くと、そこから
各国で最も危険人物とされている男、
ラド・バベルが姿を現す。
「ふぅ~、久しぶりのシャバだ。
くっくっ、一度言ってみたかったんだよな」
「ラド・バベル様。御無事で何よりです」
「心配したでやんすよ。ラド・バベルの旦那」
閻魔と山王がバベルの姿を確認し
敬礼をする。
その光景に魔王だけで無く周りに居た
魔国軍兵士達も驚きを隠せないでいた。
当然だろう。
閻魔も山王も七大厄災と呼ばれ一体でも
国を滅ぼしかねない程の魔物だ。
その魔物が人間の男に従う様は驚愕でしか
無い。
「閻魔も山王も御苦労様。
道中何も無かったか?」
「何も無くて暇でやんした」
「同意見です」
ふっふっ!そりゃあ、何も無いわな。
閻魔と山王が居ればドラゴンが襲って
来ても何事も無く処理するだろう。
俺は他愛の無い会話を楽しんだ後に魔王に
視線を向ける。
おーおー!おっかねぇ顔で睨んで
やがる。
そんなに俺達が気に食わねぇかねぇ?
クインケ帝国を滅ぼしてやるって言ってんだから
犬みてぇに尻尾振ったら、どうなんだ。
まぁ、良い。それよりも…。
「おい、俺達は釈放で良いんだよな?魔王様」
バベルの言葉に魔王やヴァイオレットが
苦々しく顔を顰める。
「釈放には手続きに時間が掛かるのだ。
処刑の手続きなら、あっと言う間に
終わるのだがな」
はっはっ!閻魔達が居る前で言うねぇ~。
伊達に魔王じゃねぇなぁ。
「なら処刑手続きをする速度で迅速にやれ。
釈放されんのは俺だけじゃねぇんだからよ」
「ラド・バベル。ガル・フェルナンデスに
ポス・ホバック、剣崎 京香、そして
貴方達が監獄に入る事になった原因の
ガストラ・ラベラよね?
速くても半日は掛かるわよ」
「違うぞ」
「は?」
監獄長のヴァイオレットちゃーん。
違う、違う。そうじゃないんだよ。
何も解ってないな。お前は。
「此処に収監されている全ての囚人共だ。
あいつ等はクインケ帝国に攻める時に
連れて行き暴れて貰う」
「「なっっ!?」」
バベルの言葉に魔王とヴァイオレットが
眼を見開き驚愕の声を上げ、すぐさま
ヴァレンティーナが声を荒げる。
「貴様!?何を言っているのだ!
此処に収監されている囚人は国内で
法を犯した罪人だぞ!!
本来、貴様等を釈放する事事態、
異例の措置だと言うのに監獄内の
囚人全て釈放など馬鹿な事を言うな!!」
何故、こいつは声を荒げている?
別に、おかしい事でも無いだろ。
なんせ今は戦争中だ。それならば
兵士として戦地に駆り出せば良い。
超法規的措置と言う奴だな。はっはっはっ!
「馬鹿な事を言っているつもりは無いぞ。
良く考えろよ。
此処に収監されている囚人を兵士として
使用すれば魔国にとって一石二鳥だ。
邪魔な囚人を一掃出来るし、何なら
死んでも誰も悲しまないだろう?
なっ?魔国にとっては良い事しか無い。
クインケ帝国との戦争が終わり生き残った
囚人達は俺達が面倒を見てやる。
物事は単純だ。深く考えるなよ」
バベルが、さも当たり前の様に言った言葉に
魔国に住まう者達は戦慄する。
この男は何を言っている?
何故、平然と、そんな事が言える?
皆が一様に、そう思っていた。
「貴様の様な冷淡で残酷な人間は初めてだ…。
いや、もう貴様は人間ですら無い。
心が空虚な化物だ。
囚人達を戦場にだと?
馬鹿の事を抜かすな!!
彼等の事を待っている家族達も居るのだぞ!
貴様は命を何だと思っているのだ!!」
魔王が吠える。
その声は地響きの様に辺りに響く。
「くっはっはっ!奴隷を5千人も買っといて
今更だろう?
奴隷だって同じ命だ。
それとも何か?奴隷と囚人の命は違うのか?
よそ者の命なんかより囚人達の命を取ると?」
「っっ!!」
バベルの言葉に魔王は思わず黙る。
「言ったろ?深く考えるなと。
今回の戦争が終われば、それ以上の民や
兵士達が助かるんだ。
簡単だ。切り捨てろ。割り切れ。
お前は魔王なんだ。民達の平穏だけを考え
情など捨てろよ。なぁ?」
いつの間にかバベルは魔王の目と鼻の先まで
近付き顔を覗き込んでいる。
「気持ちが楽になるか解らんが今回の件は
囚人達に伝えてある。
全員が賛同してくれだぜ。
ほら、もう答えは出ているだろう。
お前達の国から犯罪者が消え、戦争で勝利し
国が平和になる。言えよ?お前の口から」
魔王は苦悩の表情をし握り拳を握り締める。
バベルの提案は正直、ラズロ魔国にとって
好条件な事だ。
犯罪を犯した者達の大半は更に大きな
事件を起こし収監されるし監獄を維持するのにも
当然、金が掛かる。
バベルの言った事を飲めば殆ど解決する。
しかし、魔王の良心や道徳が彼を苦しめる。
そんな魔王の心を見透かすかの様にバベルは
告げる。
【子供達の事を考えろ】
そう言われた瞬間、魔王は顔を上げる。
「監獄長……囚人を…全て釈放しろ」
「しかし!!」
「王の命令だ……」
ヴァイオレットは魔王の言葉を聞き俯きながら
小さな声で「御意…」と答え監獄に歩を進める。
「はっはっはっはっ!!素晴らしい決断感謝する!
お前は誇らしい魔王だよ!
共に戦争を終わらせ平和な国を築こう
じゃないか!!くはははははっ!!」
バベルは両手を上げながら高笑いする。
「閻魔!山王!俺達全員が釈放された後に
クインケ帝国を潰すぞ!!!
全員、殺せ!
男も女も餓鬼も老人も皆殺しだ!!
戦争の種を!憎しみの連鎖を断ち切ろう
じゃないか!!!はっはっはっはっ!!」
閻魔も山王もバベルの言葉を聞いた瞬間に
凶悪な笑みを浮かべ咆哮する。
「開戦だ!!!!」




