バベルの世界「確保」
うっひょひょ( *´艸`)
また新しい方々がブクマして下さってる~(^^♪
嬉しいです、我が同志達様('ω')ノ
居ねぇな…。
ガストラは捨てられた教会の高台に陣取り
木箱を並べ土嚢を積んで窓から銃身を、
出さない様に狙撃銃を構えスコープを
覗きながら呟いた。
IEDを起爆させて射程にある遮蔽物の
殆どを吹っ飛ばした所までは良い。
だが、そこからピタリと動きが無くなったのが
気に入らねぇ。
ボス達なら、間違いなく遮蔽物が無くなった場所に
特攻なんかしない。
そんなのは自殺と一緒だ。
だが、ヴァレンティーナ達の兵まで消えたのが
腑に落ちない。
全員死んだか?
いや、いくら何でも無いだろう。
爆破した直後にもチョロチョロと動き回っていたのを
俺は確認している。
それなら何処に消えた?
考えられる事は撤退したか、空か……地下だな。
普通なら撤退と考えられるが、ボス達が乗ってきた
軍用車が残っている。
徒歩で撤退も考えられるが、それなら間違いなく
視認出来る。しかし、俺は確認していない。
なので、撤退は無い。
空からの奇襲も考えたが、このファンタジー世界にも
飛行兵器なる物が存在する。
それが飛竜と言うドラゴン擬きの魔物だ。
これを調教し空から攻撃する手段があるが…。
俺からしたら、的でしか無い。
実物も見た事があるが、あんなデカい的が
近付けば絶対に気付くし俺が設置したバルカンで
バラバラに出来る。
ガストラは、ノートパソコンに映し出される
モニターに視線を向ける。
バルカンには高性能カメラが取り付けられており
赤外線も装備されている。
今回はラグを嫌い、電波で飛ばさずコードを
高台まで引っ張って設置している為、カメラの
画像も非常に滑らかだ。
これを掻い潜るのは厳しいだろう。
俺が一番避けたいのは俺達の世界に存在する
武装ヘリや、周りを気にしない爆撃だな。
ヘリ一台なら何とでもなる。
だが、京香やボスが機手で2台になると俺でも
厳しい。
もし、ヘリが来たら俺も場所を移動しなければ
いけないが、今の所その心配は無いと思う。
何故なら、そもそもボス達の行動が緩すぎだからだ。
俺は言わば造反者。バベルの指示を無視して行動し
客の敷地で粗相をしている。
バベルの利益を損ねかねない裏切り行為をしているのだ。
普通のバベルなら徹底的に攻撃する。
それはもう、俺が隠れている場所に草木一本生えない程の
猛攻撃をして俺を消しに掛かってくる筈だ。
なのに、それをして来ない。
俺に対し、まだ利用価値があると思っているのか
バベルが甘くなったのか解らんが、本気で
殺しに来ないなら有難い。
勘違いしないで欲しいが、俺のターゲットは
吟遊詩ギルドの連中だけだ。
そいつ等を殺しまくれたら、それで良い。
が、邪魔する奴が居れば、そいつ等も当然、ぶっ殺す。
けど、極力ボス達や、その部下達は殺したく無いのが
俺の本音であり、相棒の願いだ。
因みに相棒ってのは、俺の中に居る人格な。
普段は、相棒が表に出て俺は無関心だ。
大体、簡単に表に出せない様にバベルのボケが
暗示を掛けやがったせいで出れねぇんだがよ。
おっと話しが大分ズレちまったな。
わりぃ、わりぃ。久しぶりに娑婆に出たからよぉ。
勘弁しろや。
んで、話を戻すぜ。
撤退は無い。空からの奇襲も可能性として低い。
だったらよぉ……地下だわなぁ。
ガストラは高台までの階段を使用せずに、
ラベリングで一階まで下りる。
俺も、この教会を陣取る時に色々と調べて
地下がある事は確認している。
最初は食料の貯蔵などに使用していると思ったが
どうやら別の意図もあると判断した。
マッピングをした限り通路は入り組んでるし
様々な場所に出口兼入り口があった。
戦争が何度も繰り返される様な国にはよくある事で
住民の避難や武器や食料の補給などに使用されている。
この地下通路も、その類だろう。
当然、こんな場所があるなら準備もしている。
地下通路のあらゆる場所にはIEDを設置してある。
遠隔操作式とトラップ式両方な。
それに教会に入る地下扉は一か所しか無い。
そこには振動式と言って微細な振動で電流が流れ
起爆する爆弾を設置してある。
いくらボス達でも、簡単には解除出来ねぇ。
………だが、念には念を入れるか。
ガストラはバックパックから自作した爆弾を
取り出す。
混合ジェルとガス缶をテープでまとめた
特殊ナパームだ。
「万が一って事もあるからな。丸焼きにするか」
カチカチとタイマーを回し、地下に特殊ナパームを
放り投げる。
そして数秒後、ヒュゴっと空気が吸い込まれる音が
聞こえた瞬間、教会に繋がっている通路の殆どが
高温の炎に飲まれ数か所から火柱が上がる。
それを確認し不敵に笑う。
これで万が一地下に居たら丸焼きだ。
焼かれて無かったとしても酸素を一気に燃焼させたから
酸欠で死ぬだろう。
ボス達や……ウィンザー達には悪いが、
俺は吟遊詩ギルドの連中を皆殺しにしねぇと
気が収まらねぇからな。
ガストラは、高台に続く階段を走って駆けあがる。
そして高台の入り口に着くと床に視線を落とす。
……俺が地下に行っている間に誰かが侵入した
形跡はなしか。
ガストラは陣地の侵入を防ぐ為にセンサー式の
爆弾を設置していたのだ。
この程度のトラップなら京香やボスなら
余裕で見破るだろう。
だが、腐っても俺もプロだ。
ピッとガストラがセンサーを切り、入り口に
入る。大股で。
センサー式爆弾は、囮だ。
本命は板の下に設置した地雷。
非常に古典的だが中々解らないもんなんだぜ。
一つ目の爆弾を解除すれば人間ってのは
隙が生まれる。
しかも凝った爆弾や仕掛けなんかだと尚更
効果時だ。何の根拠も無いのに爆弾は、もう無いと
勘違いするのが面白い。
それに床に仕掛けが無いと思わせる為に
砂埃を自然な感じに撒いて地雷が設置してある上に
しっかりと足跡を付けておいた。
完璧とは言い難いが、まぁ充分だろう。
さてと。
ガストラはスコープを覗く。
あん?
ガストラは、スコープを覗きながら眉間に
皺を寄せた。
何だ?あの土壁は?あんな物無かった筈だ。
ガストラが困惑するのは無理も無い。
先程、射線上の遮蔽物は殆ど吹き飛ばしたにも
関わらず無数の土壁が出来上がっているのだ。
ふん。魔法か何かで作り出したな。
あんな物で防ぎ切れると思うなよ。
姿が見えた時点でド頭吹っ飛ばしてやる。
それに、こっちには戦闘機に搭載するバルカンが
あるんだ。
土壁なんてなんの役に立つ。
そう思っていると土壁からヴァレンティーナの
部下らしき兵士が頭を出す。
ダーーーーンッッ!!
発砲音が響いて数秒後に兵士の頭からパッと
鮮血が飛び散る。
ガチャ!チャキン!と次弾を装填する。
どうやら姿を見せなかったのは俺が地下に眼を
向けると思っての行動か。
実際に俺は地下の確認に行ってナパームまで
使用した。
その間の隙を突いて土壁を魔法で作り撹乱
しながらって戦法だろうが時間が足らなかった様だな。
ククッとほくそ笑む。
さぁて狩りの時間再開だ。
そう思いスコープ越しに土壁周辺を見渡していると。
カラ…カラ…カラ…コンッ。
ガストラの靴に何かが当たる。
「…はっ?」
ガストラ足元には見慣れた物が転がっていた。
スタングレネードである。しかも安全ピンが
抜かれた状態で。
ドバンッッ!!
強烈な閃光と音で一気にガストラの視覚と聴覚を
奪う。いくら超人的な戦争のプロでも至近距離で
スタングレネードが破裂すれば只では済まない。
「ぐおあっ!」
反射的に左手で顔を覆う。しかし、流石プロと
言うだけあって蹲ったりせずに顔を覆うと同時に
腰のホルスターから拳銃を取り出し発砲する。
くっそがあぁぁぁ!!何が起こった!?
何でスタングレネードが転がって来た!?
どうなってる!?
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
ガストラは眼が見えていない状態で突入してくるで
あろう出入口に向かって銃を発砲。
ちぃぃ!至近距離で食らったせいで眼が見えねぇし
音が聞こえねぇ!!
不味い!!これは流石に不味いぞ!
こんな状態で侵入されたら流石の俺でも
太刀打ち出来ねぇ!!くっそ!
この場を何とか離れねぇと。
ゴキャ!!
そう思った矢先にガストラの顔面に激痛が走った。
ドガシャァァン!!
「----ッッ!!--ッッ!」
何…だ?殴られた?
殴られて吹っ飛んだのか!?
誰に!?
侵入者に決まってんだろうが!!
誰だ!?何言ってるか解らんが確実に誰か
居る。
「くそったれがあああぁぁぁ!!!」
持っていた拳銃をセミからフルオートに切り替え
部屋中に乱射する。
ダラララララッ!ダララララッッ!
弾が無くなった瞬間に眼が見えて無い状態とは
思えない程、スムーズにマガジンを替える。
よし!少しではあるが視力が回復して来た!
これなら…。
「ガァストラァァーーー!!」
聞き覚えのある声がガストラの耳に微かに
聞こえる。その声の方向を向くと……。
大きな拳と涙で瞳を濡らしたウィンザーの
姿が眼に入った。
ボゴーーンッッ!!
「おぐぉ!!?」
ガストラはウィンザーの強烈なパンチを顔面に
食らい壁を突き破って吹っ飛んだ。
仰向けで倒れたガストラは、直ぐに起き上がれない。
ぐっ…おぉ…下顎に良いの貰って視界が揺れる!
それでも何とか立ち上がろうとするガストラの
上にウィンザーが馬乗りになり胸倉を掴む。
「この馬鹿!!心配したんだぞ!
俺が、どんな思いで!馬鹿!馬鹿馬鹿!!」
ドガッ!バキッ!ベキッ!!
ぐが!?こん…の馬鹿力が!!
加減無しで殴りやがって!
ガストラは殴られながらポケットから手榴弾を
取り出しピンを親指で抜いてウィンザーの後ろに
投げる。
ドンッ!と爆発し破片と爆風でウィンザーの身体が
前のめりになった瞬間に左手でウィンザーの頭を掴み
自身の身体を捻り馬乗りから脱出し逆にウィンザーの
上に覆い被さり腰からナイフを抜き、顔に突き立てようと
した。
「ッッッ!?相棒!?」
しかし、眼と鼻の先で切っ先が停止した。
「相棒!?なんで止めんだ!!?非常事態だ!!
殺らなきゃ殺られるぞ!!」
ガストラの腕がブルブルと震え葛藤している様だ。
「ガストラ……」
葛藤しているガストラを下から見上げる
ウィンザー。彼女は抵抗もしないでいた。
「ウィ…ンザーさ……逃げ……ろ!!」
「ガストラァ!!?」
聞き覚えのある声。優しくて丁寧な声。
ガストラの声を聞いたウィンザーは眼から
とめどなく涙が溢れた。
「はや……く…しろ!」
「嫌だ!俺はガストラを連れ戻すって決めたんだ!!
死んだって連れ戻すぞ!!」
「馬、鹿…何言っ、て………なら死ねやぁぁぁぁぁ!!」
ガストラの声が変わった瞬間、ナイフが
振り下ろされる。
「テメェの事、好いてる女に何しとんじゃ!
ボケエエエエエエエ!!」
京香の怒鳴り声が響きウィンザー以上の強烈な
拳がガストラの顔面に叩きつけられる。
「がっはっっ!!」
頭を床に思いきり叩きつけられ2度程、
バウンドしてガストラは倒れた。
それと同時に、ボスやガル、ピトー達が雪崩れ込む。
「クリア!」
「クリア!」
「対象発見!!」
「対象発見!!」
ボスや京香、そしてガストラに鍛えられた兵士達が
全員警戒態勢で持ち場を確認する。
「ウィンザー大丈夫かい!?」
「心配しましたよ!」
セシルとグレイがウィンザーに抱き着く。
「へへっ…大丈夫だって」
「うぅ~!だって!相手はガストラですわよ!!
死んじゃうかと思いましたわぁぁぁ!!」
珍しくセシルが泣いているのでウィンザーは
苦笑いしながらセシルの頭を撫でる。
そんな光景に一瞬ではあるが警戒が緩む。
「そうだ!ガストラは!?」
視線をガストラに移すウィンザー。
そして眼を見開く。全員がだ。何故か?
京香の攻撃を食らい本来なら死んでいたかも
しれないガストラが立っていたからだ。
「ガ…ガストラ……か?」
ガルが青褪めた顔で疑問形で声を出す。
今のガストラは眼の焦点は定まらず右腕が在り得ない
方向にひしゃげ、下顎部分が半分千切れているにも
関わらず殺気だけは普段のガストラからは信じられない
程、濃厚に漂っていた。
そして…質の悪い事にガストラの左手には
何かのスイッチが握られていた。
「ごろ゛…ず、……終わ……でな゛い…げほっ!
戦争!ぜん゛……ぞ、う!終わ゛…終わって゛
がっ……おぇ!」
「ガストラ!やめろ!もう終わったんだ!!」
「ガストラ教官!!やめて下さい!!」
「教官!!正気に戻って下さい!!」
ガルや部下達が必死に声を掛けるが、ガストラには
届いていない。
そもそも、ガストラは既に意識を手放している。
それでも動くのは今までの戦場経験によって
培われた任務を遂行する執念だ。
ガストラは、そのままスイッチに指を乗せようとする。
それを見たウィンザーが叫ぶ。
「ガストラァ!もう止めようよ!!もう良いよ!
終わったんだよぉ!!
一緒に帰ろうよ!俺!もっとガストラと一緒に
居たいんだよ!!
馬鹿な話して!町に出かけて!一緒に、
狩りしたりキャンプしよう!!
これ以上!これ…いじょ…苦しんでるガストラを
見たく、な………ヒック……いよぉぉぉ」
ウィンザーの言葉に、一瞬動きが止まったのを
ボスは見逃さなかった。そして何か口が
動いている事も。
「ッッ馬鹿野郎が」
ギリッと歯を食い縛りながらボスがウィンザーを
押しのけ…そして。
「ボス!?何すんだ!?やめて!やめてぇ!!」
ウィンザーが制止しようとするが、既に
ボスはショットガンの銃口を向けていた。
ドバンッッ!!!
破裂音に似た音と共にガストラの腹部に
ショットガンの弾が命中し、その衝撃でガストラは
壁に衝突。
そして、ズッ…ズズッとずり落ち頭を項垂れた
状態で動かなくなった。
「ガストラアアアァァァァアアアァアア!!」
捨てられた土地に悲痛な叫び声が響いた。




