バベルの世界「冒険」★
俺は、今、人間達と冒険者ギルド『ズーハー』の
建物前に居る。
何故、こうなったかと言うと京香が、
せっかくファンタジーな世界なんだから
冒険者ギルドに行ってみたいと
言い出したからだ。
勿論、バベルは却下!と言っていたが、
ガストラまで、興味あるっす…とか言い出し
京香の押しも加わり結局、全員で
行く事になった。
「おぉー!此処が冒険者ギルドかぁ!」
玩具を見る子供のように興奮している京香を尻目に
バベルが、犯罪者の自覚無しか…と溜息をついていた。
一応、バベルは自覚があるらしい。
『ガランッガラーーン』
冒険者ギルドの大きめな扉を、勢い良く開ける。
さっきまで喧騒としていたギルド内が一瞬で
静まり柄の悪い冒険者達の鋭い視線を一斉に
受けた。
その異様な雰囲気にゴクリっと唾を飲み込む俺と
対照的に、京香もガストラも興奮している。
「うわぁー!凄い!本物だよ!ガストラ!!」
「………」(コクコクコクコクコクコク!)
興奮しすぎてガストラの首が取れそうだ。
京香は、さっそく受付に行ってるし。
受付嬢「本日は、どのようなご要件でしょうか?」
冒険者ギルドの看板娘かな?髪は水色でウェーブが
掛かっており胸も程よく出てるな。
しかもスタイルがハッキリ解るようなピチピチの
服を着ている。犬の獣人かな?
この子目当てにギルドに通う男連中も多そうだ。
バベルもボスも受付嬢を見ている。
「Dだな。」
「Cぐらいじゃなぁい?」
何か不穏な事言ってるな…。
まぁ、いいか。無視しよう。
「はい!冒険者になりたいです!!」
「……自分も…。」
そんなハッキリ冒険者って…バベルの警護じゃ
無いのか?
そー思ってバベルの方を向いたら、
(´・ω・`)こんな顔になってた。割とマジで凹んでる
感じだ。
「お引取り下さい。あなた方では到底、冒険者
になる事は無理でしょう。」
「へあ!!?ななな、何で!?」
「!?!?!?!」
受付嬢から衝撃的な言葉を言われ激しく狼狽する
京香とショックで今にも倒れそうなガストラ。
その様子を見て周りの冒険者達は大笑いしだした。
「ギャハハハ!冒険者になりてぇだとよ!!」
「おい!皆、聞いたかよ!?人間が俺達と
同じ冒険者だってよ!ハハハ!!」
冒険者C「冒険者を舐めてんじゃねーぞ!人間!?」
周りからは、罵詈雑言の嵐と馬鹿にしたような
笑い声ばかりだ。
この国の冒険者は殆ど獣人や亜人ばかりで、
人間より遥かに力も速さもあるからギルドでも
重宝されている。
逆に、人間は獣人より全てにおいて劣ると思われている
からこんな扱いなんだろう…前の俺なら笑ってる連中と
同じ考えだったが今は笑えねぇ。
「他の冒険者の方々の御声が聞こえましたか?
人間のあなた達では依頼失敗が眼に見えて
おります。
ハッキリ申し上げますと力不足です。」
そー言うと、ニッコリ微笑んだ。
うわぁ…この受付嬢、美人だけど性格キツイなぁ。
しかも、こいつ等に、そんな事言って大丈夫かよ。
嫌な予感がしたのでソォっとバベル達を見ると…
あぁ…ヤバイ…いつも薄ら笑いを浮かべている
バベルの顔が真顔になってる。
自分の部下を馬鹿にされたんだから当然か。
ボスやガストラも血管が浮き出てる。
京香は……あれっ…笑顔?
「アハハ!そっかー!力不足かぁー!
アハハハ!そっか!そっか!!」
「おらっ!イザベラちゃんに迷惑掛けるん
じゃねぇよ!!さっさと消えな!」
京香の肩を掴もうと手を伸ばした瞬間、
半身になり逆に冒険者の男の手首を掴む。
「あぁん!何だぁ!俺様とやろうって…
痛っ!いっ、おい!離せ!いででで!!」
何か様子がおかしい。手首を掴まれてる男が
痛がり始めた。
周りからは、演技が上手いだの遊んでるなだの
笑い声を含んだ言葉が飛んでいるが、徐々に
他の連中も異変に気付き始めた。
「ぐああぁあ!!お、折れる!!こ、この!」
冒険者は、腰に挿してあった短剣を抜こうとした
瞬間。
『ぐちゃ!』
嫌な音がした。
「ぎゃあああ!腕が!俺の腕がぁぁ!!」
夥しい量の血がボタボタと床に落ちる。
折った…?いや、違う!冒険者の手首を
見ると皮と少しの肉だけが残り手首がダランと
下に向いている。
まさか…骨ごと抉りとったのか!?
京香の手からは、先ほど抉りとった手首の
一部が見える。
いくら京香が強いからと言っても獣人の手首を
抉り取るなんて力が強いとかのレベルじゃない。
「あははー!力不足なのに抉れちゃったねー」
手首を押さえている冒険者の頭を掴み、そのまま
受付の立派なカウンターに頭から思い切り
叩き込む。
『ゴシャベキッバキッバキッ!!」
物凄い音と共に、受付カウンターが真っ二つに
割れた。そして、冒険者は…オォウ…割れてる。
敢えて何処がとは言わないが…吐きそう。
辺は、静まりかえっており、受付嬢は笑顔から
一転し、尋常じゃない汗を流しながら
ガタガタ震えている。
「駄目だな…ブチ切れてる。」
「だねぇ~、あぁなると当分、止まらないねぇ」
「怖いっす!!!」
おぉ!京香がブチ切れた事で3人が冷静になった。
そうか、あれキレてるのか…うん!笑い声が
確かに怖い。
「でも…いくら何でも力が異常だろ…。」
「京香はな、ミオスタチン筋肉肥大って言う
特殊な病気なんだよ。」
ミオス…タ?えっ!?何それ!?病気?
「あぁ、筋肉を作り過ぎないように制御する
物質がある。それが、ミオスタチンだ。
京香は、そのミオスタチンが
正常に機能していない。
普通は、発症した時点で何らかの障害が
出るんだが京香の身体は、一般の人間と
少し構造が違うらしい。」
確かに、京香の身体は筋肉が凄い。
腹筋なんてバキバキだし腕の筋肉だってまるで
大量の筋肉を圧縮して詰め込んだようだ。
「何だよ!それ!最強じゃん!!」
「いや…ただな…。」
バベルが曇った表情を見せ言葉を発しようと
した時、耳をつんざくような断末魔の叫び
が聞こえた。
「うわああ!化物!こっちに来…ゴエッ」
「野郎!ぶっ殺し…ぐぇあああ」
「スイマセン!スイマ…オブゥア!」
阿鼻叫喚とは、この事だろう。
京香は、力任せに、殴る、蹴る、掴む、潰す。
その度に骨が折れる音、砕ける音が
叫び声と共に聞こえてくる。
一通り暴れた京香は落ち着いたのか、相手が居なくなった
からなのか解らないが普段の京香に戻っていた。
「あーー!スッキリ!!バベ!!
お腹空いたー!」
爽快って顔をしながら腹を摩っている。
「メチャクチャ燃費が悪いんだよ…。」
あぁ…そんな都合の良い身体が有る訳ないか…。
何かを得る為には、何かを犠牲に…京香の
場合は高額な飯代だって事だな。




