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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
222/248

バベルの世界「悪魔」

クインケ神こそ至高の存在である。

その存在は揺るがない。

クインケ神さえ信仰すれば、あらゆる

苦痛や飢餓から解放され神の伝道者に

なりえる。


僕達、クインケ神の信徒が全員持っている

経典に書いてある御言葉だ。

何て素晴らしい言葉だろう。

皆も、そう思わないかい?

もし思わないなら残念な事に邪教徒だ。

だって、そうだろ?こんなにも素晴らしく

至高の存在で在るクインケ神様を

崇めないなんて恐ろしい事なんだよ。


現レリウス・ブリデン教皇は常に言っている。

クインケ神を崇めると言う事は正義を行使する事と

同義である。と。

神の名の下では全てが正義であり間違いなど

あり得ない。

恐れず神と共に戦い悪である邪教を払うのです。


何とも胸に突き刺さる御言葉だ。

現レリウス・ブリデン教皇様は長年クインケ神様に

祈りを捧げ崇高な域まで達した御方。

誰にでも平等で優しく、愛がある。

クインケ帝国皇帝である、

【テトラキアス・ネロオロス皇帝陛下】が

絶対的に信頼を寄せている人物なのだ。


そして、僕達は、この御方達を御守りする盾。

【聖天使部隊】で副隊長をしているんだ。

18歳で副隊長にまで昇進は稀なんだよ。

これもクインケ神様に祈り続けた結果さ。


聖天使部隊の主な役目は獣人を悪意から戒め

正義の方に向けさせる事。

この世界は悪意に満ちて人々は信仰を見失い

不幸になっている。

そー言った人達を律するのが僕達の役目さ。

なのに、僕達を排除し敵視する者達が居る。

それが魔族さ。

悪魔に取りつかれた彼等は僕達の怨敵だ。

決して許す事は出来ない。


けど、安心してくれ。

僕達は魔族の補給拠点である要塞を占拠する事が

出来たんだ。

これは、正義の一歩だ!


「俺達が一体何をしたってんだ!?」


「子供達まで殺すなんてあんまりだ!!」


「返せ!娘を返せ悪魔があぁぁぁ!!」


何やら邪教の魔族共が吠えている。

全く……悪魔を討伐している僕達に対し

何て言い草だ!


僕は近くに居た魔族の頭を踏みつける。


「貴様等は悪だ!存在自体が悪なのだ!

 僕達は、この地を浄化する為に戦っている!

 女、子供であろうと悪は滅びるべきなんだ!」


僕が、そう叫ぶと周りの部下達も賛同する。


「うむ!お主も立派になったな。

 お父上もさぞかし喜ぶであろう!」


「有難う御座います!隊長!」


「さぁ!天使達よ!この忌まわしき悪魔達の

 首を撥ねて世に我等の信仰を広めようでは無いか!」


うおおおおおおお!と雄叫びが上がった

次の瞬間……。


バゴォーーーーーーーーーンッッ!!!


と大きな爆発音と砂塵が辺りを覆いつくす。


何だ!?一体何があったんだ!?

魔族達の軍勢か!?


「プーよ。中々良い攻撃じゃったな。たった一撃で

 城門が粉々になったのぉ。にゃははははは」


何だ!あれは!?


風魔法を使用出来る者達が砂塵を払うと、

そこに居たのは2匹の魔物達だった。


魔物!?何で、こんな所にいきなり!?

それに、あの化け猫の様な魔物は人語を解するのか!?

ならば、高位の魔物で間違い無い。

それと、もう一匹は……初めて見るが

ビッグスライムだろう。


「ほぉう?お主達がクインケなんとかって言う者達か。

 我等の主に歯向かった大馬鹿者と聞いて居たが、

 本当に馬鹿そうな面じゃのう」


化け猫が牙を剥き出しに笑う。


魔物風情が小癪な!

多分、この魔物共は魔族の誰かが使役しているのだろう。

しかし、たった2匹で何が出来ると言うんだ!


「魔物風情が大口を叩くな!

 私の持つ聖なる力が宿る剣でたたっ斬ってやるわ!」


隊長が剣を抜き大地を駆ける。


速い!流石隊長だ!あの速さなら間違いなく

魔物程度なら一刀両断だ!


「ふにぁ~あぁ……阿呆が」


パッチンッッ!!


何かが弾ける音と共に目も眩む閃光が走る。


くっ!眩しい!目潰しとは卑怯な!!……えっ?


僕達が閃光から眼を逸らした瞬間、既に終わっていた。

目の前には、身体が黒焦げで消し炭の様になりボロボロに

なっている隊長と思わしき物が横たわっていた。


ば…馬鹿な……そんな在り得ない!

隊長は数多くの戦地で魔族と戦ってきた勇敢な

神の使徒なのに……一撃なんて…。


僕も他の天使部隊の者達も何が起こっているのか

理解出来ず思考が停止する。


「お主等……くっっそ弱いのぅ。羽虫の様じゃ。

 いや、まだ羽虫の方が手古摺るかもしれん」


は…羽虫以下だと?僕等が!?


「こんなゴミ共を消しても準備運動にもならんが

 主達に頼まれたからのぅ。

 主の期待に応えるのも獣魔の務めじゃ。のう?プー」


化け猫の隣に佇んでいるビッグスライムが

プルプルと揺れる。


「肌の色が違う者達は極力殺すなとの事じゃ。

 それ以外の者達はクインケ帝国の者なので

 殺して構わん。只、数十人程捕虜にしたいと

 言っておったから残せとの事じゃて。

 しっかり理解出来たか?プーよ」


プルプルと揺れる。


「にゃはは!では、殺すかのぅ!!」


そこからは僕が放心するには十分過ぎる戦力差だった。


「氷柱」


化け猫が、そう言うと空には数百本の鋭利な

氷の塊が現れ一気に落下して来た。


「ぎゃああああああああ!」

「うわあああ!助けてくれぇぇ!!」

「ぐぎゃあああああ!!」


氷の塊は僕達が装着している鎧を軽々貫く。

手足に、胴体に、頭に次々と降り注ぎ

命を刈り取るのだ。


「地針」


更に追い打ちを掛ける様に地面からは鋭く

巨大な針が数百と突出する。

空からは鋭利な氷。地面からは鋭く巨大な針。

僕達に、それを防ぐ程の力は無い。


あ……あぁ…厳しい訓練と実戦を積んだ

僕達の天使達が死んでいく……馬鹿な…。

こんな馬鹿な事がある訳無い…。


「副隊長!!指示を!撤退の指示をして下さい!

 このままでは我々は全滅です!!」


「てっ…撤退など出来るものか!此処は

 レリウス・ブリデン教皇様より死守する様に

 言われているのだぞ!!」


撤退など出来ない!!此処は正義なんだ!

悪に屈する正義などあってはいけないんだ!!


だが、僕の言葉を無視して既に逃走をしようと

している物達が数多く見られる。


くそっ!なんと不甲斐無い!

それでも正義を行使する天使達か!!


逃げていく者達は我先にと別の城門から出ようとする。

だが、それは叶わなかった。


大きくて丸い魔物。ビックスライムが立ちはだかると

身体の一部を変形させる。


ぶにょん。


な…何をするつもりだ?

あんな筒状の物を何本も出して……。

そう疑問に思っていたが直ぐに答えが解った。


ボボボボボボボボボボッ!!!


このくぐもった音が鳴った瞬間、城門から逃げ出そうと

していた者達の身体が血霧となって消えた。

それだけじゃない。

周りにある建物や柱が粉々に吹き飛んで行くのだ。


僕は、余りの恐怖と混乱で身を屈め頭を押さえながら

地面に這い蹲った。


馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!

こんな事在り得ない!在り得ない!

何で僕達が、こんな無様な姿にならないと

いけないんだ!?

僕達は正義なのに!

悪は、あいつ等なのに、どうして!!


そんな言葉が頭の中をグルグルと回る。





どれ程、時間が経ったのだろうか?

いつの間にか辺りが静かになっていたので僕は

ゆっくりと顔を上げる。

そこには、眼を覆い胃液をぶちまけそうな程

凄惨な地獄だった。


頭が粉々になり脳漿が地面や壁にへばりつき、

誰の腕か足か解らない手足が散乱し、臓腑が

建物や木から垂れ下がっていた。

辺り一面……血の海だった。

そこに佇む2匹の魔物……いや、悪魔。


「にゃふふ!探査の魔法で探したが生体反応が

 37人ぐらいじゃな。まずまずじゃろ。

 これなら、我等の主も喜んでくれるわい」


あ……主?

こんな悪魔共を使役している者が本当に居るのか?


「おっと、噂をしていたら来たのぅ」


ブロロロッ!ギャリリッ!!


見た事も無い鉄の乗り物が城内に侵入し停車する。

停車した瞬間、見た事も無い装備をした者達が見た事も

無い鉄の塊を構えたまま城内に散っていく。

只、僕でも解る事が2つある。


一つは、人間や獣人、魔物で構成された部隊で

動きや統率から間違いなく只者では無い事。


そして、もう一つが……。


「こいつは、生き残りか?」


眼の前に現れた片眼がポッカリと空洞になっている

人間が現れた瞬間、僕は死ぬと確信した事。


「よくやった。流石だな。ノルウェ、プー」


「にゃふ~!朝飯前じゃて。バベルの旦那」


ぷるんっ!ぷるんっ!


し…信じられない……あの…悪魔共が……

一人の…人間に褒められて嬉しそうにするなんて…。


「生き残りは全員、此処に集めろ」


男は、剃刀の様な眼付きを更に細め指示を出した。

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