バベルの世界「蜥蜴」
行きは良い良い、帰りは怖い。
京香が俺に教えてくれた童話の一節だ。
非常に良い言葉だと思うぜ。
まぁ、俺達の世界だと盗賊も出るし
魔物もウヨウヨ居るから、
行きも怖い怖い、帰りも怖いなんだけどよ。
何で俺が、こんな事を思っているかと言うとさ。
皆、聞こえるか?
「ギャオオオオオオオオオオオオ!!」
なっ!咆哮が聞こえるだろ。
クインケ帝国の帰り道でアースリザードって言う
大型の魔物に絶賛襲われ中だぜ!
長閑な荒野をまったり走っていたら
地響きが近付いて来てさ。何だ?って
思ったら固い地面をブチ破って出て来たんだよ。
「おい!もっとスピード出せねぇのか!?」
「さっきからベタ踏みだよ!バベル降りろよ!
そしたら、もっとスピード出るからよ!!」
「上司を殺す気か!?てめぇは!
ガルが降りろ!上司を守って笑って贄になれ!」
「絶対に嫌だわ!!」
ブオオオオオオッ!!
フルアクセルで走っているにも関わらず
アースリザードとの距離が全然縮まらねぇ!
あんなの馬車や騎馬なんか速攻、食われるぞ!
「うーむ…まさか俺の最後が蜥蜴に食われて
終わるとは思わなかったな」
煙草を吸いながら遠い眼をしているバベル。
いやいや、何諦めてんだよ!
もっと足掻けよ!阿呆!
ドガガガガガッ!!
俺達の後ろで爆走しているボス&名無しコンビが
アースリザードに向けて発砲。
因みに運転手が名無しで攻撃がボスだ。
『かったいねぇ、アサルトライフルじゃ
全然、歯が立たないよぉ~』
無線からボスの声が聞こえる。
そりゃそうだろ。
あの蜥蜴、見た目20メートルは軽くあるぞ。
しかも硬そうな鱗に覆われているし。
『ボスさん!50口径使いなさいよ!』
『そうだねぇ』
名無しがボスに怒鳴っている。
『いやいや!あんた等、私もフォローしなさいよ!
何で、こんな時に限ってソルちゃんしか居ないのよ!
攻撃手が誰も居ないんですけど!』
そーいやぁ、のっぺら坊の車にはソルしか
乗ってなかったな。
まぁ、のっぺら坊の阿呆がソルと二人っきりで
帰る~!なんて事を言ったからなんだが。
へっ!完全に自業自得だわ。
『のっぺお姉しゃん、このまりゅいのは、なーに?』
『うーん!ソルちゃん肝っ玉据わってるわね!
今ね、魔物に襲われてるのね!
それに動じず私に質問するなんて将来有望よ!
後ね、それは手榴弾って言ってね!
凄い危ないのよ!特に、その輪っかみたいのを…』
『はい!はじゅしたよ!』
『はい!お利口さん!けどね!人の話は
最後まで聞くようにね!
外さないでって言おうとしたんだけどね!
それ貸して!パス!へい、パス!!』
おぉ…のっぺら坊&ソルコンビは大変そうだな。
無線からでも解るけど、ソルが車内で手榴弾の
安全ピンを外したみたいだな。
「ギャグ漫画みてぇな事してるな。あいつ等は」
ドンッ!!
おっ!のっぺら坊が窓から手榴弾を投げたな。
それが蜥蜴の足元で爆発して少し速度が落ちたぞ。
よし!これなら逃げ切れるか!?
「グギャオオオオオオオオオ!!」
ぎゃー!駄目だ!
怯むどころかマジ切れで更にスピードが
上がりやがった!
「バベル!バベル!荷台に確か無反動砲が
積んであっただろ!?それ撃てよ!!」
「おぉ!あったぞ。よし!」
バベルは天窓を開けて無反動砲を構えて
標準を合わせる。
ドッッッッ!!
ドゴォン!!
おっ!?爆発音!やったか!?
『バベルさん!?この距離で外すなよ!!』
『この糞ボケがぁ!!私とソルちゃんを殺す気かぁ!
何で、こんなデカイ的を外すんだよ!!』
「やかましい!変態共が!俺はテメェ等みてぇな
暴力だけで何でも解決しようとする野蛮人じゃ
ねぇんだよ!!理知的な人間なんだよ!」
『『その野蛮人の親玉だろうがぃ!!』』
外したのかよぉ……外すなよぉ。
それと不本意だが、理知的と言うのは俺も
どうかと思うぜ。
どう考えても暴力が全ての問題を解決させるって
主義の人間じゃねぇーか。
ドッッッッ!!
ドゴォン!!
うおお!!何だ、今の爆発!?
そう思いバックミラーで確認するとボスが
ロケットランチャーを撃ち込んでいた。
そして見事にアースリザードの右目に着弾し
爆発。
右目が完全に抉れている。
「グギャアア!グルオオオオオ!?」
アースリザードは身体をビタンビタンとのたうち回り
苦しんでいる。
『もう一発撃ち込むぞ!』
ボスが予備のロケットランチャーを構える。
『ボス!私も撃つわ!ソルちゃん、こっちおいで!
アクセルは……届かないわね!じゃあ、これを
つっかえにして……あれを、こうして…よし!
ソルちゃん!こっち座って!はい!この輪っかを
握って!!よし!OK!!事故っちゃ駄目よ!!』
『えっ!?ええ!!のっぺお姉しゃん!?』
「のっぺら坊の奴…なんつースパルタな事してんだ」
バベルが苦笑いだ。
いや…ひでぇよ!酷すぎるだろ!?
ソルは推定5歳だぞ?ましてや車なんて運転どころか
存在すら昨日今日知ったんだ。
しかもだ!いくら千里眼だか何だか知らないが
持っていたとしても盲目の子供に車の運転
任せるとか手の込んだ自殺だろ!!
『おい!のっぺら坊!盲目の子共に運転なんか
させるんじゃねぇよぉ!』
ボスが至極真っ当な事を言う。
『大丈夫よ!何事も実戦が一番!
ソルちゃん、頑張りなさい!』
『が、頑張りゅ!』
のっぺら坊が、頓珍漢な事を言う。
そして、ソルが健気過ぎる。
あんな無茶ぶりをされたのに必死に応えようと
しているなんてなぁ。
普通なら間違い無く泣きが入るレベルだ。
流石のボスでさえ、5歳の子供に目隠しして
初めて見て触る車両を運転しろなんて言わんぞ。
『ボス!同時に撃つわよ!3、2、1…』
ドドッッッッ!!
ドゴゴォォォオオオオンッッ!!
ロケット弾が同時にアースリザードの顔に着弾し
爆発したせいで固い鱗が吹き飛び肉が剥き出しだ!!
「グルォォ!!」
げぇ!まだ生きてんのかよ!
どんだけ逞しいんだよ!この蜥蜴!
だけど、流石に弱ってきてるのか速度が極端に
落ちた。これなら間違い無く逃げ切れる。
『まだ、追ってくんじゃない!!』
それでも追ってくるとは余程、馬鹿なのか
腹が減っているのだろう。
でも大丈夫!もう大丈夫だ!!
「バベル!門だ!アトランティスの門が
見えて来た!!」
「はっはっ!やっとか。ガル、無線の周波数を
門番の連中に合わせて総攻撃させろ」
よっしゃ!解ったぜ!
「こちらガル!門番達を集合させて後ろの
アースリザードに総攻撃をかけろ!!」
『こちら新人門番!!ガル先輩達!!
あんた等なんつーもんトレインさせて
来たんだよ!!誰か無線変わってくれぇぇ!!』
くっそ!今日に限って新人が出るとは!
『ガル様。閻魔です』
『おお!閻魔!すまねぇ!こんな化物引き連れて
来ちまって!!攻撃出来るか!?』
『勿論です。あの程度、私一人で充分。
それと旅行者や商人達など一般の者達の避難も
完了しておれますので』
早い!!なんて仕事が出来るゴブリンなんだ!!
『丁度いい。此処は少し派手に行きましょう!
バベル様が率いるゲヘナの力を見せ付ける
良い機会では無いですか!』
あれ!閻魔!?
閻魔が門の前に立ちはだかると両手から火の玉を出す。
おいおいおい!何だよ、あれ!
ファイヤーボールにしては何か大きさが
おかしくねぇ?
閻魔の倍ぐれの火の玉になってねぇか!
「やべやべ!閻魔がガチめの攻撃するぞ!」
『うお!!何じゃ!?あの火球は!!』
『閻魔が攻撃したら一気に左右に分かれるぞ!
あんなもん食らったら炭になっちまう!
それと、のっぺら坊!!いい加減、ソルと
運転交代しろぉ!』
まだ、ソルに運転させてたのかよ!あの馬鹿!
いや、今は、悪いがこっちに集中だ!
ヘマしたら本当に死んじまうぜ!!
【大焼炎帝!!】
とんでも無い大きさの火球が猛スピードで
向かって来る。
それを、ボスの合図と共に左右に避けた。
その瞬間、車の中に居ても猛烈な熱さを感じる。
『あっちぇええええええ!!』
後ろを振り向くと……轟轟と火柱が上がり
地獄の業火の様に周りが火の海になっていた。
それを、旅行者や冒険者…商人達や一般人達が
眼を見開き呆然とした顔で見ている。
中には膝を着いて祈るものまで居る始末だ。
勿論、アースリザードは死んだぜ。
炭も残ってないと思う。
俺達は大丈夫かって?
へへっ!俺は避けた後にハンドルを取られて行商の
荷物置き場に突っ込んだぜ!
頭から流血してるし、バベルは引っ繰り返ってるな。
ボスと名無しの車両は閻魔の攻撃が凄すぎて
爆風で横転。けど、二人共、頭を抑えながら
車から出て来たから大丈夫だ。
のっぺら坊&ソルコンビの車両はワインの
樽が積んである馬車に突っ込んでる。
二人共、酒塗れでソルに至っては外れたハンドルを
両手で握って呆然としている。
ソルにとってはいきなり驚きの連続だったろうな。
でも、これからが大変なんだぜ。
しかし……はぁ、何とかアトランティスに到着したなぁ…。




