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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
210/248

バベルの世界「魔女」

最近、仕事が忙しい~ヽ(;▽;)ノ

「えへへ!こちらでしゅ」


身体中が傷だらけで腕も足も枯れ木の様に

痩せている少女に案内されて彼女の

住んでいる場所に来た。


「はっはっ!こりゃあ、酷いな」


少女の寝床を見て俺が発した言葉が

これだ。

寝床なんてもんじゃねぇわな。

餓鬼が作った秘密基地より酷い。

こんな所で今まで生活してたのか?

逞しいもんだ。


そもそも何で俺達が少女の寝床に

来てるのかっー話しだが。

簡単に言うと名無しと、のっぺが問題を

起こしたせいで現在こうなっている。

要約すると村長のドラ息子が魔女と呼ばれている

女の子から食べ物を分捕ったせいで

二人がキレちまってなぁ。

村長のドラ息子の腕をバキバキに

へし折ったせいで野営場所を移されたって事だ。


「えへへ、どうじょ!飲み物です」


ボロ小屋がスイートルームに見える程

酷い少女の寝床に案内されて腰を下ろすと

バッキバキに割れた皿と、それに注がれた

泥水が出て来た。


今まで中東や東南アジアの貧困街で

仕事をして濁った水や訳解らん飲み物を

出されたが、此処までハッキリ泥水と

解る物は出た事は無かったな。


いや……此処は異世界だ。

もしかすると俺が知らん飲み物かも知れん。

一応、確認してみるか。


「お嬢ちゃん、これは何の飲み物だい?」


「はい!しんせぇんな泥水でしゅ!」


………んっ!?

中々、斬新な言葉が返って来たな。

新鮮な泥水?

今までの人生で初めて聞いたパワーワードだ。

泥水に新鮮も糞も無いだろ。


けど、この少女は悪気は無いんだろう。

屈託無くニコニコと笑っている。

間違い無く100%善意でやってんな。


「ボス、携帯浄水器あるか?」


「……バックパックにあるから使うねぇ」


ボスが取り出した軍で使用している浄水器を

使い泥水を綺麗な水にする。

その光景が不思議で仕方なかったのだろう。

少女は、凄いでしゅ!魔法使いしゃんでしゅか?と

ボスや他の連中の周りを走り回っている。


「後は、煮沸して飲むか。まぁ、それでも

 俺は腹を壊す可能性があるが……

 嬢ちゃんは普段から、こんなの飲んでんのか?

 飯は、どうしてんだ?」


「えへへ、緑の草を食べてましゅ」


指を指した方向を見ると草が生えていた。

まごう事なく雑草だろ。あれは。


「しょれでも、お腹が減った時は、

 これを舐めてると、お腹が一杯に

 なりましゅ」


そう言って小さな手の上に乗っている物を

全員で確認する。


石だった。


いかんなぁ…今まで散々不幸で貧乏な餓鬼共を

見て来たが、この少女の境遇はトップレベルで

酷い状況だ。


少女の掌に乗っている物を見て、ガルは

眼が潤んじまってるし、いつもはポーカー

フェイスのボスも渋い顔になっちまってる。

名無しと、のっぺでさえ顔が引き攣っている。

今回の件にはガストラと京香は来ていないが

もし来ていたら下手すると泣いてたかも知れん。

それ程、この少女の環境は過酷で酷い状況と

言う訳だ。


「嬢ちゃんから新鮮な泥水を貰った礼に

 俺達からも礼をさせてくれ」


これが一般の奴からの泥水なら間違い無く

礼の品は鉛玉なんだがな。


俺は嬢ちゃんの眼の前にドサドサッと食べ物と

綺麗な飲み水を置く。


「うわぁ…しゅごいでしゅ!

 色んな食べ物がたくしゃん!」


「嬢ちゃん、一つ聞きたい。

 何で眼の前に置かれた物が食べ物だと

 解った」


「えぅ?」


この嬢ちゃんに会った時から気にはなっていた。

俺達を案内する時も、泥水が入った皿を

差し出した時も、この嬢ちゃんには一切迷いが無い。

今だって、そうだ。

俺は一言も食い物と言ってないのに

ハッキリと食べ物と言い当てた。

名無し達に確認したが間違い無く眼の機能は

果たしていないとの事だ。

まぁ…あの傷じゃあ確実に見えてないだろう。


となれば、匂い…嗅覚が異常に発達しているのか?

元々、この少女も獣人だ。

俺達、人間なんかより嗅覚が発達しているし

可能なのかもしれんがな。

只、それだと泥水を綺麗な水に変えた時と

()の草を食べているって発言の説明が

つかんな。


どーゆう原理か知らんが、この嬢ちゃんは

しっかり色も判別している。


「良い匂いがしましゅから!

 しょれに、良い匂いはあっちゃかい色が

 見えるんでしゅよ。

 食べ物は、あっちゃかい色で

 食べれない物は、つゅめたい色でしゅ。

 色んな色があって綺麗でしゅ」


ニコニコと笑う少女。

彼女の言葉を聞いたバベルの口元が吊り上がる。


共感覚!いや、嬢ちゃんの感覚は、もっと

鋭く複雑な物だ。

本来の共感覚は色聴の様に音が色で見えたり

味に色が着いていたりする。

他の種類の感覚が影響を受けちまって、その感覚

に対応する刺激も与えられているように感じる現象だ。


だが、この嬢ちゃんは眼が見えてねぇ。

眼で色を判別していない。

けど、この嬢ちゃんには見えるんだ。

俺達が見えてない世界が見えている!

くっくっくっ。

これは掘り出し物かもしれんなぁ。


そんな事を考えていると先程までニコニコ

と笑っていた少女の顔が曇る。


「…えへへ…わたち、こんなだから

 お父しゃんと、お母しゃんに捨てられて…

 何とか、この村に辿りちゅいて必死に

 お願いしたんでしゅ。

 しゅませて下しゃいって……。

 しゅこしの間は、しゅませて貰ったんでしゅ。

 けど、皆の前で変な事言っちゃって…

 しょしたら魔女は出て行けって…

 お兄しゃん達は、わたちの事

 怖くないんでしゅか?」


少女は眉を八の字に曲げて困った様に

笑っている。


あぁ、良く知っている笑顔だな。

この笑顔は仕事上、良く見た。

何処の世界でも変わらん笑顔だ。


拒絶され続けた子共が見せる自我を保つ為の笑顔。


そうだよなぁ。

お前は、まだ5歳だもんなぁ。

なのに両親に捨てられ村人から拒絶され

今まで生きてこれた事が不思議な程、過酷な

環境に怪我。

笑ってなきゃ自我を保てないわなぁ。


バベルは少女の頭に手を乗せる。


「ふっふっ!怖くねぇさ。

 それどころか、お前と出会えた事に

 感謝しているぐらいだぞ」


「え?」


少女は思いもよらない言葉で口をポカンと

開けながらバベルを見た後に周りの者達を

キョロキョロと見回す。

ガルも名無し達もボスも全員笑っていた。

全員が気付いているのだ。

この少女の有能性に。


「お前の名前は?」


「…えへへ…無いでしゅ。

 じゅっと魔女って呼ばれてて」


名前が無いのか。

まっ、こーゆう境遇の餓鬼には珍しい事でも

無いが……名前が無いのは不便だな。


「バベル。私達が、この子に名前を

 付けてあげて良い?

 どうせ、丸め込んで連れて行くんでしょ?」


「くっくっ、人聞きが悪ぃな」


当然、連れて行く。

この餓鬼は仕込みによっては化ける可能性が

あるからな。

それに優秀な才能を持っている奴を

採用するのも経営者の役目ってもんだ。


「この二人が、お前の名前を付けてくれるそうだが…

 どうする?」


「!?名前!?名前をつゅけてくれりゅの!?

 ちゅけて欲しい!!」


名無しと、のっぺの方向に顔を向けて

屈託の無い笑顔を見せる少女。

それを見た二人はデレデレだ。

頼むから変な名前だけは付けんなよ。


それから真剣に話し合う二人。

時折、お互い胸倉を掴む取っ組み合いになって

ボスとガルが止めに入っていたが、

どうやら決まったらしい。


「貴方の名前は、今日から【ソル】よ!!」


「ラテン語で太陽って意味です。

 太陽の様に笑っていて欲しいと思い決めました」


「ショル…ソリュ……ソル!

 わたちの名前は、ソル!!」


名前が気に入ったのか飛び跳ねながら

全身で喜びを表現するソル。


太陽ねぇ…中々良い名前じゃねぇか。

こいつ等のセンスなんて糞みたいなもんだと

思っていたが悪くない。


さて、名前も決まった事だし勧誘しようか…。

と思ったが今日は駄目だな。

名前が決まった事で狂喜乱舞していて

話しを聞く処じゃねぇ。

ずっと走り回って、ボスやガルの周りを

クルクル回ってたかと思ったら名付け親の

名無しと、のっぺに抱きついたりして

喜びまくってる。


「か、可愛すぎる……これが母性!?」


「流石、私の娘です!絶対、嫁に出しません!」


お前等みてぇな奴等が親だったらソルが

不憫過ぎるわ。アホが。


「なぁ、この二人が変な事言い始めたぞ」


「こいつ等が親なら世も末だねぇ」


ボス達の言う通りだな。


全く、血も涙も無い殺し屋が何を言ってるんだか。

大方、新しい玩具が手に入ったぐらいにしか

思って無いんだろうが、上手いことソルを誘導していけば

この馬鹿二人も多少は落ち着くだろう。




まぁ、何はともあれ日も暮れた。

ソルの勧誘は明日だな。









◇ ◇ ◇








ソルと出会い一夜明けた朝。

バベルがソルに声を掛けようと近付くが

ソルは一点を凝視し微動だにしない。


んん?

この先に何かあるのか?


ソルの目線の先を見る。

その先は、貧困の村と荒れ果てた見晴らしいの

良い荒野が広がっているだけだった。


ボス達もソルの行動が気になったのか、

双眼鏡で先を見てみる。


「ボス、何か見えたか?」


「いやぁ、見えないねぇ」


ボスが言うって事は本当に何も無いんだろう。

じゃあ、ソルは何を見ている?

元々、視力が無い者が一点を集中して見る事も

あるが、その類か?

いやぁ…違うな。

眼が見えなくても色や形を識別している子共だ。

只、ボーッと見ているだけじゃない筈だ。

一体、何だ?何を見ている。


バベルは無意識に口元が釣り上がり

子供の様な何かを期待するかの様に笑みを

浮かべる。


「お馬しゃん7頭。悪い人10人来りゅよ」


馬?それに悪い人?

盗賊の類か?


バベルはチラッとガルを見る。

それに気付いたガルは直ぐに首を横に振る。


やはり見えないか。

ソルの妄想か何かか?

そう思った瞬間、ボスとガルが同時に声を

上げる。


「バベル!前方から盗賊らしき騎馬が…7頭!」


「すげぇ!ソルの言った通りだぜ!獣人の盗賊も

 10人だ!!」


かっっっっっはっ!!

はははははははははははははは!!

こーゆう事が有るから、この仕事は

辞められないんだよ!

元の世界で人間を買っている時も、そうだった。

居るんだよな!希に、こーいった異質な奴が!!


ソルが何を見て判断しているのか解らんが

これは千里眼に近い能力だと思う。

テレビや雑誌に出る様なパチモンじゃねぇ。

まだ完全に確証を得ていないが本物に近いだろう。

今見えている盗賊が定期的に現れるなら

万が一当てずっぽうでも当たる可能性も有るが

確率的に相当低い。

そもそも、双眼鏡で覗いた時点で異変は無かった。

それだけを考えてもソルの能力が本物と

言えるかもな。


千里眼なんて漫画やアニメだけだと思ってるか?

喜ばしい事に中には本物だって居るんだぜ。

実際、某大国の諜報機関などは敵国の基地施設を

何千キロも離れた場所から透視したなんて話しが

あるぐらいだ。


テレビや本だけを信じるなよ。

偉い学者や政治家の言葉だけを信じるな。

そんなのは映画や漫画だけだって言っている

大人の言葉を信じるな!

居るんだよ!!

世の中には本当に異質な人間ってのがな!

解らないだけ!隠してるだけ!

表に出て無いだけだ!


バベルは煙草を取り出し火を着ける。


この餓鬼は何が何でも連れて行く。

ボス達ですら異変に気付かなかったのに

ソルは気付いたんだ。

とんでも無い能力だ。

このまま埋もれさせるなんて勿体無い。


煙草を口に咥えたまま、ソルの前にしゃがみこむ。


「ソル。俺達と友達になってくれないか?

 暖かい寝床も美味い飯も腹一杯食わせてやる。

 勉強も技術も教えてやるぞ。

 お前の知らない世界を見せてやる。

 どうだ?一緒に来ないか?」


バベルの言葉にポカンと口を開けるソル。

どうやら、相当驚いたみたいだ。


これで駄目なら不本意だが拐わせて貰う。

本来、誘拐なんてド三流がやる事だが

今回は背に腹は変えられん。

この餓鬼の能力は敵になれば驚異だ。

勇者なんかよりもな。

最悪、消す事も視野に入れないといかん。


「友達…?」


一瞬、抛けていたが直ぐに満面の笑みになる。


「なるよ!友達になる!えへへ!!」


「そうか!友達になってくれるか!

 宜しくな!バベルと呼んでくれ」


「うん!バベルお兄ちゃん!」


……お兄ちゃんか…初めて初対面の餓鬼に

言われたな。

いつもなら、怖いおじちゃんとか呼ばれてたし。

よし!

ソルは甘やかそう!良い子だからな!


バベルも機嫌が良いのかソルの頭を

高速ヨシヨシしている。

それに対し、キャーと笑いながら頭を

抑えるソル。

何とも、穏やかな風景である。

方や幼女で、もう一方は超凶悪犯だが。

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