バベルの世界「拠点」
ここは、アテゴレ地区の孤児院『ハピネスキンダー』
スラム街で数少ない建物だ。
ファルシア大国の王が国民の支持を得る為に、
名目状作っただけで、補助金など殆ど無かったが
今は亡きシスターやシドの働き掛けで少ないが
補助金が出るようになった。
それでも、20人の子供達を養うには
全然、足りない。
それなのに……。
「…何で、テメェ等が居るんだよ!?」
子供達が、せかせか手伝いで動いている中、
大の大人4人が、ボロボロの椅子に座り、
白湯を飲んでいる。
「よく働く子供達だな。立派だ。」
ズズッと白湯を飲みながら、子供達を見ている。
「言っとくが、子供達に手ぇ出したら
マジ許さねぇぞ!!」
「勘違いするな。俺は、ただの子供好きだ。」
獣人売買に手ぇ出すような野郎が、そんな事言っても
全然、説得力無ぇな。
「いいから出てげよ!子供達に悪影響だし、
落ち着かねぇんだよ!!」
俺は、シッシッと手を振る。
「そんな邪険に、しないでよー!
シドちゃんだって了承してくれたんだから。」
現在、シドは、仮契約として孤児院に残り仕事を
している。
バベルも特に問題無いと言っているから日常と
変わりない。
「シドが良くても、俺が駄目だ!!
さっさと寝床に帰りやがれ!」
「その寝床が無くてなぁ~。何処か良い
場所無いか?」
顔は、笑っているが脂汗が半端ない。
野宿しろ!と言ったが、身体が辛いと言って
項垂れている。
因みに、ボス・京香・ガストラは余裕と言っていたが
バベルが文句ばかり言うので何とかしないと
駄目らしい。
スラムでワガママとか、舐めてんのか?
「なら、元の世界に帰れば良いだろ?」
そう言うと、ここで仕事するなら拠点は、絶対
必要と言われた。
マジでメンドくせぇー!
「兄さん、助けてあげなよ。
一応、恩人なんだしさ。ホントに困っている
みたいだし。」
洗濯物を持ちながら笑顔で言われてしまった。
バベル達は、「天使様」と言いシドの周りで
崇めている。
「あーっ!!わかったよ!協力してやるから
シドを崇めるな!困ってるだろ!!」
メンドーだが、このままバベル達に居座られても
困るし、バルダットファミリーを潰した奴らが
居たら何が有るか解らねぇ。
「行くぞ!勝手に付いてこい!」
上着を羽織り外に出る。
一応、周りを確認してからな。
いくつもの裏道を通りアテゴレ地区外に出る。
道中、10人程のゴロツキに絡まれたが、
ボス達によってサクッと殺されていた。
勿論、金目の物は全て頂いた。
アテゴレ地区から離れると森が見えて来た。
その森には、何年も使っていないボロボロに
なった石畳の細い道が続いている。
その道を歩いていくと拓けた場所が現れ、
目の前に、石で作られた大きな建物が出現した。
「此処は?」
バベルが肩で息をしながら聞いてきた。
そんなに歩いてない筈だが…これだから
人間は。
「パーガトリーって言われていた
他種族刑務所だよ。
今は、廃墟になって野盗のアジトに
なってるけどな。」
確かに、物陰から見える範囲でも剣や槍を持っている
ガラの悪い連中がチラホラ見える。
10年程前には、凶悪な獣人や亜人の犯罪者を
収容する建物だったが、度重なる汚職や敵対組織
による抗争が起こった為、閉鎖。
現在は騎士団管理下になっており更に巨大な
刑務所が別地区に建設されている。
「なるほどな、刑務所か。
商品の在庫を保管するのに最適だ。」
相変わらずバベルにとって、俺達は商品か。
気分ワリィが…もしかしたら俺が売っていた
人間達も、こんな気持ちだったのかな。
「さて、先住者には消えてもらうか。」
ボス達の行動は早かった。
あっという間に、門番を始末し建物内を制圧した。
恐ろしい程の手際だ。野盗の連中は、死んだ事すら
気付かなかったと思う。
全員、始末した後に死体を集め俺が火魔法で
燃やしていると京香とガストラが興奮
しながら、「ファンタジー」と言っていた。
建物内は、多少崩れてはいるが拠点としては、
充分だし檻も健在だった。
檻の中には、鎖に繋がれたまま骨になっている者や
野盗に飼われていたであろうヤギの角が生えている
ウルフェンと呼ばれる魔犬が数頭いたので
逃がしてやった。
「フフッ、中々良い所じゃないか。
先住者の私物も置いてあったから快適だ。」
野盗が溜め込んでいた宝物庫には金貨48枚と
銀貨100枚以上、食料や酒があり、バベルは
ブドウで作った果実酒を、一口飲み機嫌良さそうに
辺りを見回す。
「確かにぃ、中々良いねぇ。刑務所だからぁ
攻めにくい作りにぃなってるしぃ頑丈
だしねぇ。」
「でも、セキュリティーは全然駄目だから
色々と仕掛けないとね。」
「…そっすね。」
一体、何を仕掛けるつもりだろう。
まぁ、間違いなくロクな物じゃないだろう。
「拠点は確保した。だが、セキュリティーに
難有りと言う事だから色々と準備
してくる。
ガル、此処で俺達が戻ってくるまで待ってろ。」
「ちょ!」
声を上げる間も無く、バベルは指輪を外し扉を
開け元の世界に戻って行った。
「結局、戻ってんじゃねーか!?」
何の為に、案内したのか解らなくなったガルは
誰も居ない部屋で雄叫びを上げた。




