バベルの世界 「接触」★
[カラン カラーン]
居酒屋の鐘が店内に鳴り響き、一斉にそちらを見ると、
4人組の人間達が立っていた。
「何だ、こいつ等?奴隷か?」
今日の取引は、4人の奴隷だけだ。
追加した覚えも無いし全く知らない奴等だ。
それよりも、まずこの4人組の異様さに気付いた。
リーダー格であろう男は、横の髪を刈り上げ
ハリネズミのような髪型だ。
服もシミ一つ無い真っ白な上下の服に、
その下にはパリッと折り目が綺麗に付いている漆黒の薄い服を
着込み、首元には細長い三角形の布を締めている。
人間の服装には似つかわしく無い。
今まで見てきた人間は、身長も低く、やせ細り、
およそ服とは言えないボロ雑巾のような
布を身にまとっているだけだ。
それが、この人間達は、どうだ。
この4人組は、全員屈強な体格をして身長もデカイ。
特にリーダー格の後ろに居る奴らは、
かなり鍛えこまれているのだろう。
筋肉の形がハッキリと見て解る。
それに、一瞬解らなかったが一人は人間の雌だ。
見てきた人間の雌に比べてかなり体格もしっかりしてるし、
身長もある。170~170後半だろうか。
しかし、女の魅力的な部位は全く損なわれていない。
シュッと引き締まった細いクビレに、触れば吸い付きそうな豊満な胸。
髪は短めだが、かなり美人だ。
だが、すぐに魅力的な部位からリーダー格以外の
服装や持ち物に目が行った。
物を沢山入れるのであろう袋を大量に装備し、
金具やベルトで留められており隙間から見た事も無い物が
詰め込まれているのが見える。
そして、何より持ち物だ。
この3人が持っている物だけは用途が、よく解らない。
多分、武器…だろうと思う。
細長い形状で黒光りし、先端が空洞になっている。
材質は…多分、鉄だろう。
かなり精巧に作られてる感じだ。ドワーフの名工が作った品だろうか?
まぁ…解らない。
解っているのは、刃物が付いていない所を見ると打撃武器だろう。
とにかく、どれも見た事が無いのだ。
服装も持ち物も……そして、こんな人間も。
居酒屋に入ってきた瞬間、昔からある動物性の本能なのか、
裏社会に居る事に因る直感なのかは、解らないが思う事があった。
(殺されるかもしれない)
人間相手に、こんな事を思った事なんて一度たりとも無い!
それだけは断言出来る。
脆弱で、小汚く、腐った残飯をあさり俺達の
顔色を伺いながらビクついている下等種族。
それに比べると今、目の前に立っている人間共は、まるで違う。
別物だ。
顔は、笑っているように見えるが目だけは全くと言っていい程、
笑っていない。
まるで、研ぎ澄まされたナイフのように鋭い目つきだ。
一体、何を見てきたら、こんな嫌な目つきになるのだろう。
そんな目で、周りを見渡すリーダー格の男と一瞬だが目が合った。
背筋に、ツーっと冷たい汗が流れ反射的に顔を伏せてしまった…この俺が。
その光景を見たリーダー格の男が、ニヤリっと何とも嫌な笑顔で口を開いた。
「ほーーーー、中々ファンタジーなバーだな。
見た事無い物ばかりだ。なぁ、ボス」
「だねぇ」
疑問に思った。
此処の酒場は、確かに他の所よりは豪華で作りもシッカリしている。
だが、別段珍しい物なんて無いし、一般的な酒場だ。
それに…ボス?あの眼帯男がリーダーなのか?
てっきり真っ白な服を着てる奴だと思ってたが…。
「凄いねぇ~、あっ!ねぇ、ねぇバベル~。
ココって酒場じゃん?日本酒とか無いのかなぁ~?」
「無いだろ。日本じゃあるまいし。
何だ?飲みたくなったのか?京香。」
「やっぱ無いよね~、でも飲みたいなぁ~
ガストラも飲みたいでしょ?」
「…俺、下戸っす…。」
「ダハハハ~、そーいえば、ガストラ飲めないんだっけ~?
忘れてたよ~。ダハハ~。」
成る程。この4人の名前が解った。
リーダー格っぽい奴が、バベル
眼帯男が、ボス
マスクをして顔に大きな傷がある奴が、ガストラ
豊満な女が、キョウカ…か。
しかし、この女…顔とスタイルは良いが喋ると、
どーにも頭が悪そうな感じだ。
まぁ、人間なんて大体、学もないし文字だって読めるかどうか。
この女には、喋らなければ美人…こんな言葉がピッタリだろう。
たいした連中では無いと、悟ったのか
貸切の…しかも、バルドが仕切っている居酒屋に
人間風情が来た事にイラついたのか、
バルドの取巻きどもか怒鳴り始めた。