閑話 「バベルの趣味」
まだ胃の調子悪す(´;ω;`)
ずっと、お粥生活ですわぁ!お肉食べたい~!
アテゴレ地区アアル区域。
ラド・バベル率いる犯罪組織
【ゲヘナ】がファルシア大国を侵略支配をして
2週間程が経った。
様々な事が目まぐるしく変化していく中、
スラムも徐々に変わり始めている。
昔のスラム街の時は新鮮な野菜も肉も
手に入れる事が出来なかった。
しかし、今では商人や行商人達が、
こぞってアテゴレ地区に商品を売りに来る。
新鮮な野菜、肉、武器、服、宝石に
装飾品。
これだけ見れば活気溢れる地区に
見えるが、そこはスラム街。
当然、非合法な物も売買されている。
違法鉱物、麻薬、盗品に人間。
その中でも禁忌とされている獣人が
奴隷として売られているのは多分、
バベルが支配している場所だけだろう。
此処では全ての物が手に入ると
言っても過言では無い。
金、暴力、女に獣人。
欲望と混沌が渦巻くアテゴレ地区は
今では【アトランティス】と
呼ばれている楽園だ。
そんな噂を聞きつければ他国の
荒くれ者や盗賊、山賊、指名手配犯も
興味を持つのは必然だろう。
なんせ【アトランティス】は、どんな
人種も犯罪者であろうと入る事が
出来るし、なんなら商売をしたり
住む事も可能だ。
当然、そんな者達が大勢来れば治安も
一気に悪くなると思う。
だが、此処は元々スラム街。
そして、あのバベルが支配している場所だ。
そうは問屋が卸さない。
【アトランティス】では絶対に破っては
いけない血の掟が存在する。
『ゲヘナに逆らうな』
これは、元々アテゴレ地区に住んでいる者達
なら誰でも知っている暗黙の掟だ。
これさえ破らなければ良い。
至極簡単な事だ。
しかし、もし破ったら…最悪だ。
【アトランティス】には治安維持の
名目でゲヘナの詰所が何十箇所も存在し
巡回している。
上下黒の戦闘服に身を包み右肩と
左胸に髑髏のエンブレムが付いている連中が
ゲヘナの治安維持部隊だ。
人間、獣人、亜人に魔物。
様々な者達が戦闘服を来て【アトランティス】の
治安維持に従事している。
基本的な仕事は監視と排除。
バベルの傘下に手を出す者や敵対勢力を潰す。
特殊な訓練を受けている戦闘兵に
あっと言う間に殺されてしまうのだ。
バベルの傘下や敵対勢力にならなければ
問題無いのだが少しだけ困った事がある。
それはゲヘナのトップで大国を支配した
犯罪者、ラド・バベルが気に入った店や
人々を勝手に傘下に引き込んでしまう事だ。
前置きが少し長くなってしまったが
今日は、その件の話しをしよう。
◇ ◇ ◇
皆様初めまして。
私、アアル区域で食事処を経営している
グレースと申します。
女手一つで娘を二人養いながら
働いているんですよ。
と言っても生活はカツカツ。
スラムでまともな食材なんて手に入りませんし
治安の悪い場所で食事処を経営すれば
イザコザなんて日常茶飯事。
私の夫も3年前に強盗に遭遇して
命を落としました。
そんな場所ですから当然、お客様なんて
殆ど来ません。
来ても顔馴染みの方や荒くれ者だけ。
親しい顔馴染みは、お金を払ってくれますが
荒くれ者達は殆ど払ってくれません。
私もスラム出身者ですが元々荒事には
極力避けて通って来た身なので、そんなお客様が
来ても何も言えないんです。
何をされるか解らないですし
怖いじゃないですか。
そんな臆病な私なんですが……。
今、物凄く困った事になっています。
とゆーか、気絶しそうです。
何故か解りますか?
答えは、今、私が接客している
お客様が原因です。
「中々、美味いな」
モグモグと咀嚼し私の料理を
美味しいと言ってくれる、お客様。
染み一つ無い高級そうな服を着込み
研ぎ澄まされたナイフの様な鋭い
眼付き。
それだけでも怖いのに片眼は漆黒の
様に空洞になっている。
「こここ、こ、光栄ででしゅ!」
噛みました!
滅茶苦茶噛んでしまいました!
だって!だって、だって!
ラド・バベル様が眼の前にいるんです!
ファルシア大国を滅亡に追い込み支配した
超凶悪犯でゲヘナと呼ばれている組織の
トップが!私の!お店に!!お一人で!!
何で!?何でですか!?
何で今や雲の上の存在でファルシア大国と
アテゴレ地区を支配している超大物の
ラド・バベル様が、お一人で、こんな
ボロ屋の様な食事処に居るの!?
意味が解りません!
「使っているのは屑野菜だな。
中々良い歯応えだ。それに下拵えが
しっかりしているから味も均等だし
素晴らしい。
肉はラットットの肉を細切りにして
いるのか。
匂いも無いし普通に噛み切れて良いな。
ふふっ、良い店じゃないか」
空になった皿を見てから私に視線を
向けるバベル様。
褒められた事は嬉しいのですが、
それ以上に恐怖が勝ってしまって素直に
喜べないぃ~!!
「すまんな。開店前に無理を言って。
俺の弟子……ミルって言う屋台の餓鬼が
此処の料理は上手くて安いって言っていたんで
一度食ってみたかったんだよ」
あの子の紹介でしたかぁ!
なんて人を紹介してるんですか!?
【アトランティス】を支配してて
ゲヘナのトップの方ですよ!
それに弟子って!?いつ弟子入りしたのかしら
あの子はぁぁぁぁぁ!!
「ご馳走様。美味かったぞ。
お前、名前は?」
「グ、グレースです…」
「グレースか。今日は悪かったな。
お詫びに今日一日お前の手伝いを
してやろう。厨房に案内してくれ」
!!??
んん!?私の聞き間違いかしらん?
バベル様が、なんか素っ頓狂な事を
申し上げた様な気がしたのですが?
お手伝いって聞こえた様な…。
あぁ、私、疲れてるんですね。
あのバベル様が、こんなボロ屋の
食事処で、お手伝いなんて…。
「よし!厨房に行くぞ」
「えっ?えっ!?」
◇ ◇ ◇
「お待たせしました。ラットットの
ハンバーグです」
「おぉ!何だ、コレ!?初めて見る
料理だな。グレースが作ったのか?」
頭に角を生やしている鬼人族の男で
大工ギルドのエドが笑顔でグレースに
話しかける。
「きょ、今日は、お手伝いさんが
厨房で作って下さって……」
バベル様が強制的に手伝いをすると言ったので
厨房で作っているハンバーグと言う食べ物。
最初はバベル様が料理を作ると言った時は
申し訳ないが冗談だと思いました。
だって、あのバベル様ですよ?
料理とは無縁の様な方だと思っていました。
けど、蓋を開けて見たら吃驚。
味付け、料理を作る手際の良さ、
包丁捌きに未知の料理の数々。
どれも恐ろしい程に素晴らしく全ての
料理が美味しいのです。
しかもバベル様って一瞬だけ厨房から
食事スペースに眼を向けて相手がどの様な
仕事に就いているか解る様で味付けを
微妙に変えています。
大工のエドは汗を流す事が多い仕事ですから
少し味付けは濃い目で量も少し多い。
逆に常連のお婆さんには味付けを薄めにして
消化に良い物を織り交ぜながら料理を
提供しているのです。
お小遣いを握り締めてご飯を食べに
来てくれた近所の孤児にはハンバーグの
上に目玉焼きを乗せています。
ハンバーグなる食べ物を食べたエドが
大満足で帰って周りの人達に噂を広めて
くれた御蔭で今日は何だか普段より
お客様も多いです。
なんか…夫と一緒に仕事をしていた頃を
思い出します。
カランカラーン。
おっと、感傷に浸っていたら新しい
お客様ですね。
入口に眼を向けると如何にもガラの
悪そうな獣人達4人組が立っていた。
「い、いらっしゃいませ…」
「へぇ~、此処がタダで飯を食わせて
くれる場所かよ?」
「ぎゃはは!そうそう!いくら食っても
タダだから心配する必要ねぇぜ!」
「あっ!お姉さん、此処で一番高い料理
ジャンジャン持って来てぇ~!
序でに、酒も持って来いなぁー」
ガラの悪い男共は一番良い席にドカッと
座り机に足を乗せる。
うぅ…この人、いつもお金を払ってくれない
怖いお客様だ。
一度だけ勇気を振り絞ってお金を払う様に
お願いしたら殴られて、お店に嫌がらせされて
他のお客様にも迷惑が掛かった。
そんな方が今日は仲間を連れて来るなんて…。
うぅ…最悪です。
グレースは、そそくさと酒を取りに
ガラの悪い連中から距離を取る。
「そーいやぁ、最近羽振りが良いんだって?
俺達久しぶりにコッチに来たからよー。
何か仕事紹介しろよ」
ガラが悪くデカイ声で喋る猫の獣人。
「あぁー、そーいえば殺しで逃げて
たんだもんな、お前達。
ったく、貴族のお抱え商人なんか
手ぇ出すからだよ」
鼠の獣人が呆れた様に言う。
いつも無銭飲食している男だ。
「けど、驚いちまったぜ!久しぶりに
アテゴレ地区に来たらスッゲー変わっててさ!
おまけに、どんな犯罪者でも自由に出入り
出来る様になっててよぉ。最高じゃん!」
ゲラゲラと大声で笑いながら話す
狐人族の男。
「何でも人間が支配してるってんだろ?
それ、本当なのか?いまいち信じられ
ねぇけど、本当なら俺達でシメちまって
縄張りにした方が良くねぇ?ぎゃはは」
何やら不穏な事を言い始める犬人族で
一番体格が言い男。
「ば、馬鹿野郎!!滅多な事言うんじゃねぇ!
あの方達に俺達が勝てる訳ねぇだろ!
お前達は久しぶり過ぎて知らねぇだろうが
支配している人間には何があっても
逆らっちゃいけねぇんだ!殺されるぞ!」
「はん!何ビビってんだよ?
どんだけ怖いか解らねぇが所詮、
人間だぜ?
下等種族が支配しているってだけでも
眉唾なのによ。もし、そいつ等が出て
来たら捻り潰してやるぜ」
「おっ!良いじゃーん!俺達で人間
殺して縄張りにして金もガッポガッポ!
ちょー良いじゃーん」
………あの方達、大丈夫かしらね?
そのトップの人間様が今、私の厨房で
働いているんですけど。
そんな事を考えながら言われた通りに
このお店で高い料理と酒を持っていく。
因みに今回の高い料理は全部バベル様が
作って下さった未知の料理だったけど
ガラの悪い方々はパクパク食べていた。
そして、お会計。
「いやぁ、食った食った!中々だったな」
「あぁ!ボロにしては真面だったな」
男達はニヤニヤと笑いながら自身の
腹を摩っている。そして、そのまま店を
出ようとするので堪らず声を掛ける。
「あ、あの…お代…を…」
普段なら声なんて掛けない。
けど、今回は駄目!
バベル様が汗水流して料理を提供
していたんですもの!
私の料理をお世辞でも美味しいと言って
くれた方なんですから、せめて料金だけでも
貰って少しでも恩返ししないと。
「ああん!?何か言ったかババア!!」
鼠人族の男が怒鳴りながら近くの
テーブルを蹴り上げる。
丁度、そこにはお小遣いを貯めて
ご飯を食べに来ていた孤児達が居り、
テーブルが倒れバベル様の料理が
床に散乱する。
子供達は慌てて床に散乱しているバベル様の
料理を口に詰め込んでいた。
「ぎゃはは!見ろよ、この餓鬼共。
散らばった残飯を必死に詰め込んでるぜ。
惨めったら無ぇな」
「おらっ!邪魔なんだよ!糞餓鬼!」
一番大柄の男が必死に落ちていた料理を
食べている子供を蹴飛ばす。
ギャン!と声を上げて蹲る子供。
「や、止めて下さい!!」
堪らず子供に覆い被さるグレース。
酷い!酷すぎます!この子供達は危ない仕事を
やったり雑用をして必死にお金を貯めて来てくれた
大切なお客様なのに!
なのに、料理ごと蹴り飛ばすなんて…。
あんまりです!!
「てめぇ、俺達に金を払えって言うのか?
また、殴られてぇか?
それとも嫌がらせが良いか?
こんな場所、直ぐに潰してやるぜ?」
子供を庇っているグレースの身体を
踏みつけながら怒りに顔を染める
鼠人族の男。
「俺はなぁ、バベルの部下にダチが
いるんだよ!
俺に逆らったら痛い目見るだけじゃ
済まねぇぞ!!」
ガッ!ガッ!とグレースに蹴りを
浴びせる鼠男。
痛い!痛いけど耐えないと!
私が退いたら子供達が何をされるか
解らない。それに、お店だって…。
グレースは眼を瞑って耐える。
しかし、ふと気付いた時には
暴力が収まっていた。
「何してんだ?コラッ」
そんな言葉が聞こえ厨房の方に眼を
やるとバベル様が立っていた。
「何だぁ?テメェ」
「死にたいんじゃん?ぎゃはは」
バベルに対し何も知らない獣人が
ヘラヘラと笑いながら睨む。
しかし、鼠男だけは違った。
「ななな、なん、何でで?何で…?
バ、バベル様ががが…何で?」
鼠男は血の気が引きすぎて土気色に
なり死人の様な顔になっている。
ガタガタと震えながら水を浴びたかの
様に冷や汗を大量にかきながら。
「飯を食ったら金払え。
それと、餓鬼共の飯代も払え。
序でに新しい料理を注文しろ。
そしたら両腕切断で許してやる」
「あぁん?人間風情が何言って……」
「バベル様ぁぁぁ!!スミマセン!
スミマセン!スミマセン!どうか
許して下さいぃ!!
何卒!何卒!お願いしますぅぅ!!」
大柄の獣人が喋っている途中で
割って入り地面に頭がめり込む勢いで
土下座する鼠男。
その余りにも鬼気迫る鼠男を見た他の
獣人達は唖然としている。
「ちっと、表出ろ」
「はっ!何にビビってるか解んねぇが
やってやろうじゃねぇか!」
拳の骨をポキポキと鳴らしながら
バベルと一緒に表に出る4人組。
その内一人は憔悴し全てを諦めた様な
顔をしている。
バベルが外に出れば当然ながら
他の住人達は気付く。
「あれ!?バベル様じゃないか?」
「うお!バベル様だ!」
「何で、バベル様が、こんな所に!?」
「つーか、後ろの連中何だ?」
「は?見ねぇ顔だな。まさかバベル様に
楯突こうとしてんじゃねぇだろうな?」
バベルとゴロツキ4人組の周りには
あっと言う間に大勢の野次馬達が
取り囲む。
その野次馬の一人がバベルに大きな
声で声を掛ける。
「バベル様ー!どうしました!?
何か揉め事ですか!?」
「あぁ、さっき料理を提供してたんだが
金を払わねぇんだよ。
そんで、金払えって言ったら絡まれてな。
俺の料理も床にブチ撒かれてよぉ。
非常に不愉快な思いをしてんだ」
バベルがそう言った瞬間、一瞬の静寂。
そして…。
「「「「んだと!?ゴラアァァァァァアア!」」」」
周り一体を揺るがす程の怒声。
「バベル様の料理をブチ撒けただぁ!?」
「ぶち殺せ!!この余所者を殺せ!!」
「舐めてんのか!?この餓鬼ゃあ!
俺達の支配者に何してんだ!?ごらっ!!」
「生きて帰さねぇぞ!この餓鬼共!!」
住人達がゾロゾロと自分の仕事を放棄して
巨大な斧や剣、ナイフ、でかい肉切り包丁を
持ち出して4人組に向ける。
「えっ!?えっ!?何…何だよ!?」
「はっ?支配者!?はっ?はぁ!?」
一方、何でこんな状況になっているのか
理解出来ていない余所者3人は狼狽する。
当然だ。
自分達より体格が良く強面の獣人達数十人に
怒りの形相で囲まれ、さっきまで働いて居た
者達や人間達まで武装し自分達に刃物や
鈍器を向けているのだ。
「……終わりだ…もう…おしまいだ…」
「何だよ!?これ!説明しろ!誰なんだよ!
この人間は!?」
「…ラド・バベル様だ…。
ファルシア大国を滅ぼし全てを支配
している犯罪組織ゲヘナのトップ…。
四獅王の内3人を殺し王族・貴族を
売り飛ばし騎士団を壊滅させた方。
俺達の王だ………」
それを聞いた3人は絶句する。
この3人は、騎士団の下っ端に追い回され
国から逃げた。
それだけの力しか無いゴロツキが
リヒト団長率いる騎士団を壊滅に追いやった
ゲヘナのトップに喧嘩を売ったのだ。
それが、どういう事かなど子供でも解る。
それを聞いた3人は頭が地面に減り込む
勢いで必死に謝罪する。
「すすす、すいやせん!お、俺達何も
知らなくて!!金なら払います!」
「ですから命…命だけはっっ!!」
「お、お願いします!!勘弁して下さい!」
その光景を上から見下すように見ている
バベルと店の入口でオロオロしている
グレース。
な、なんか大変な事になって来ました。
これって…あれですよね?バベル様が
許さなかったら全員、その…
殺されるって事ですよね?
さ、流石に、それは遣り過ぎな様な。
「俺はな、食物を粗末にする奴や
それに応じて対価を支払わない奴が
死ぬ程、嫌いだ。
何故だか解るか?
俺達が生きてられるのは食う行為が
あるからだ。
命を奪って食い、生きていける。
料理を提供する者や生産者は、
俺達の恩人だ。
その恩人に対して食物を粗末にしたり
対価を払わないなんて侮辱と同義」
……衝撃的な言葉でした。
あのバベル様が、そこまで食に対し
敬意を払っているなんて。
確かに野菜を持って来てくれるお爺ちゃん。
ラットットの肉を持って来てくれる冒険者に
なりたてのお兄さん達。
皆、私の食堂の為に頑張ってくれてるんだよね…。
私以外にも肉屋の店主や他の飲食店の
方々も眼を潤ませている。
「グレース。このゴミ共を、どうしたい?
両腕を切り落とすつもりだが、此処の
店主は、お前だ。決めて良いぞ」
バベル様が私に、そんな事を言うものだから
4人組が泣きながら、こちらを見てくる。
「バ、バベル様…でしたら穏便に
お願い致します。その…両腕も切らずに。
代金を支払って頂ければ、それで良いです。
もし、お金が無ければ手伝いをしてくれれば
結構ですので…何卒寛大な御心で許して
あげて下さい」
「………良いのか?こーゆう馬鹿は
後々何するか解らんぞ?」
「は、はい!それに…腕を切られたら
お手伝いも出来ないでしょうし…」
だ、大丈夫かしら…バベル様に
こんな事言っちゃって?
言ってしまった後にオロオロしている
グレースを見てバベルが笑う。
「ははっ!確かに、そうだな。
ごもっともだ!
よし!解った!!」
そう言うとバベルは、くるりと方向を変え
野次馬の人々に声を張り上げた。
「お前ら!今日は、グレースの店で
飯や酒を好きなだけ食え!
金なら心配すんな!この4人組が
全員の飯代を奢ってくれるそうだ!!」
「ええ!?」
バベル様!何て事を言うんですか!?
あの4人組が払うだなんて無理ですよ!
300人近く居るんですよ!
ほらっ!4人組の方々が真っ白になってますし!
しかし、バベルは止まらない。
「今回は俺が飯を作ってやる!
これからも、たまに来て飯を食わせて
やるぜ!
どうだ!?俺に顔を覚えて貰うチャンスだぞ!」
「「「ううおおおおおおおお!!」」」
うわぁ…物凄い熱気…。
けど…そうよね。今では雲の上の存在である
バベル様に顔を覚えて貰えるなんてチャンス
中々無いもの。
もし、顔を覚えて貰えて気に入られたら
間違い無く大出世よ。
「さぁて、グレース仕事するか。
あぁ、そうだ。あの4人は死ぬ程
酷使しろよ。どうせ、奢る金なんて
無いだろうしな。
だから金は立て替えておく。金貨20枚で
足りるか?足りなきゃもっと出すぞ。
これで4人組は最低でも金貨20枚分の
仕事をしないと駄目だなぁ。
もし逃げたら必ず言え。
探し出して眼の前で首を跳ね飛ばしてやるから」
う~ん…バベル様。物凄い素敵な笑顔で
物凄い怖い事言ってるぅ。
「ほれ、行くぞ。序でにミルも連れて来てくれ。
あいつにも手伝わせる」
「は、はい!」
こーして、この日はひっきり無しに
お客様が来て休む事無く仕事をする羽目に
なりました。




