バベルの世界「地獄」
ゴトッ!
「バベルの旦那。言われた箱を
持って来ましたぜ」
身長2m程の大男の獣人が
バベルの指示でトラックから
言われた箱を壇上に上げる。
「おう。有難うな。
ドラガン達も此処で見ていけよ。
特等席だぜ」
「へ、へい!」
ドラガンと呼ばれた獣人と一緒に
箱を運んだ数人の獣人達が緊張した
面持でバベルに返事をする。
バベルの旦那…俺みたいな下っ端の
名前も覚えてて下さったんだな。
スゲェ嬉しいんだけども…その…
俺達、場違いじゃないっすか?
眼の前には雲の上の存在のバベル様が
居るし、その側近でボス様、ガストラ様
剣崎様が居るんですぜ?
そんで近くにボロボロの元国王と
憔悴しまくってるリヒト団長が
居るしよ。
俺みたいなチンピラ達からしたら
この場に居るだけでも辛いっす!!
緊張し過ぎて吐きそうなんですが…。
「な、なぁ…ガル坊よ。
バベルの旦那は何仕出かすつもりなんだ?」
「…俺が知りてぇよ」
ふぅ…ガル坊が近くに居てくれて
助かるぜ。こいつとは、昔から
酒飲んだり仕事を手伝ったりしてた仲
だから気軽に話せる。
しかし…変わった箱だな。
最初は硝子かと思ったけど持った感じ
そんな感じもしなかったし。
まぁ、バベルの旦那が変な物持ってくるのは
今に始まった事じゃねぇから良いけどよ。
ドラガンが顎鬚を触りながら
箱をまじまじと見ているとガル坊が
説明してくれて材質は……
解らねぇけど解ったふりをする。
その箱は異世界には存在しない
強化プラスチックで出来た箱らしい。
その箱には穴が五つ空いている。
箱を縦に起こすと上に一つ。
左右に一つずつ。
地面に接している部分に二つ。
丁度、箱に胴体を入れて、
頭、両手、両足が箱から出る感じだ。
「や、やめろ!私は王だぞ!?
こんな事をして只で済むと思っているのか!?
今なら許してやる!
だから、この様な無礼な…ぐわっ!?」
問答無用に箱に押し込められ
蓋を閉じられて鍵を掛けられる。
ぶはっ!なんだ、あの野郎の格好。
箱から手足や頭が飛び出てやんの。
見ててスゲェ馬鹿みてぇだな。
「ガル、ドラガン。これから何を
するか解るか?」
バベルの旦那が子供の様な笑顔を向ける。
例えるなら子供の残酷な笑顔だ。
笑いながら虫の足を引きちぎる様な。
「解んねぇよ…」
「はい!自分も解りません!」
「そうか。なら、ドラガンよ。
お前も組織のトップだった男だろ?
そんな、お前が拷問をするとしたら
どんな風に痛めつける?」
いやいや!バベルの旦那!
俺のは組織なんて仰々しい物じゃないっすよ!
チンピラグループで手下が20人程度の
木っ端ですけど!
そして、俺は拷問なんて恐ろしい事なんて
した事ないんで解りまへん!!
「あ、あの~…バベルの旦那。
自分、殺しとか拷問とかした事無くて…。
俺達がやってた事なんて、かっぱらいとか
恐喝だけですから…その、なんとも…
で、でも、えっと…手足を斬ったりとか?」
「何!?お前、殺しもした事ないのか!?
んな凶悪な顔で子供達を一発で
泣かせそうな顔なのに!?」
「酷い!!」
確かに、バベルの旦那の言う通り俺は
強面ですけど!!
その御蔭で恐喝とかも簡単でしたけども!!
多分、この会話を聞いている全員が
思っていると思いますが!!
バベルの旦那に言われたくない!
旦那と比べたら俺の顔なんて天使と
言われても良いくらいなんですが!!
初めて旦那に会った時なんて小便
漏らしたんですよ!顔が怖くて!!
ガルとドラガンの顔が引き攣っている。
「まぁ、良い。しかし手足を斬るってのは
インパクトに欠けるな。
この際だ。しっかりと学んで次に
活かせるようにしろよ」
活かしませんよ…。
そんな機会なんて来ませんから。
と言いそうになるが口を紡ぐ。
「今回の拷問はな…地獄の様な
拷問だ。
いや、地獄の方がマシと思う程、
辛く残酷な拷問と処刑だ。
セイントもよぉく聞けよ」
あ…ヤバい。既に怖いんですが。
旦那が、そこまで言う拷問なんて
聞きたくないし、しかも今から
実行するんでしょう?
ちょっと前にノーマさんの拷問を
見た俺の手下なんて10日間も
飯が食えなくなって倒れたんすよ?
それ以上の拷問を特等席で見るの?
大丈夫?俺。死んじゃわない?
「くっくっくっ。
セイント。お前に施す拷問はな
【腕ゼリー】って拷問と
【スカフィズム】って処刑を兼ねた
拷問だ」
聞いた事の無い拷問にドラガンが
困惑した表情でガルに目線を向ける。
ガルも横に首を振っている所を見ると
知らないみたいだ。
「腕ゼリーってのはな、
両腕を打撃系の武器で砕くんだ。
全体の腕の骨を粉々に砕く。
そうするとな、腕がプルプルに
なるんだよ。それがゼリーみたいに
なるから、そう呼ばれている。
こっちでは、スライムみたいに
なるって言った方が解り易いかな?
はっはっはっ!面白いだろ?」
バベルが最初の拷問方法を楽しそうに
セイントや周りの者達に伝える。
それだけで場の空気がドンドンと
冷たくなっていく。
もう無理…既に無理…。
想像するだけで痛いなんてものじゃない!
腕全体の骨を砕くって何ですか!?
常人なら説明を聞いただけで
泣きながら殺して下さい!って
言うレベルなんですよ。
セイントなんて泣き叫んでますけど
これが普通の反応だ。
でも、まだ他の拷問も有るんですよね?
「お次は、スカフィズムって奴でな。
これはキツイぞ?
箱から出てる手足や顔に蜂蜜や
赤ワインを塗るんだ」
えっ?それが拷問?
何か贅沢な拷問なんですけど…。
蜂蜜に赤ワインなんて高級食材だ。
それを身体に塗るだけなんて只の
ご褒美なんじゃないっすかね?
こう思ってるのは俺だけじゃない筈。
だって周りの奴等も、それの何処が
拷問なんだ?って顔してるし。
国民の奴等も鼻で笑ってるっすよ。
あれかな、セイントは蜂蜜と赤ワインが
死ぬ程、嫌いとか?
何にせよ、何とか俺の精神も
持ちそうだな!
なんて事を考えているとバベルが
説明を続ける。
「塗った後に、テメェを、この国の
入口に吊るす。
一番目立って日当たりの良い場所にな。
口にはホースを突っ込んで固定し
ミルクを一定の感覚で飲ませる。
それを何日も繰り返す。
するとどうなると思う?
ミルクを大量に飲んだ事により腹を壊し
糞尿が今入っている箱に溜まるんだ。
そしてな、手足や顔に塗った蜂蜜や
赤ワインの甘い香りに引き寄せられて
蠅等の虫がお前に群がり卵を産み付けて
体中が蛆だらけになる。
当然、排泄物からも虫が湧き出す。
徐々に体中の肉が虫に食われ耐え難い
不快感と激痛に最悩まされる。
けれど死ねない。
蜂蜜やミルクを飲ませるからな。
運が良ければ脱水症状で死ねるが
点滴も投与する。
だから死ねない。
本来ならボートや木箱を使用し
湿地帯などで行う拷問だが今回は違う。
箱が透明な理由が解るか?
見せる為だよ。自分の身体が糞まみれに
なって蛆虫に食われていく様をよ。
吊るす理由が解るか?
俺の縄張りで巫山戯た事をしたら
こうなるって警告だ。
そーいえば昔、俺に酒を奢ってくれたな?
今回は俺の驕りだ。たらふく飲んで
生きたまま蛆虫に食われて死ね」
旦那の説明が終わった広場は
痛い程の静寂に包まれていた。
絶句だ。
国民もアテゴレ地区の屈強なゴロツキ共も
ガル坊も俺達も死にかけの元国王も
騎士団達も…旦那の元で鍛えられた
軍狼の少年兵やリー様やツヴァイ様、
閻魔様、山王様達ですら、その余りにも
残酷で無慈悲な処刑を聞き顔を恐怖で
歪めている。
まるで悪魔か邪神を見ているかの様に。
その逆に、バベルの旦那やボス様達は
薄気味悪い笑顔を浮かべながら着々と
準備している。
それが怖かった。
今やろうとしている事は祭りの準備でも
何でも無い。
拷問と処刑だ。
しかも、この国の拷問官ですら震え上がらせる程の
拷問と処刑の準備を笑いながら行っている。
何で…?
何で、こんな非道な事を思い付くんだ?人間は。
思いついても実行しようなんて思わないだろ?
俺達はバベル様が極悪人って事は知っている。
けど、この人は悪人の格が違いすぎる。
完全に狂気の域に達してる。
情ってものが、この人には有るのか?
ガクブルと震えているドラガン達に
バベルが無慈悲な言葉を掛ける。
「ガルは右腕。ドラガンは左腕を
押さえ付けろ。
京香とガストラが砕いていく」
「……まじかよ…」
「うぅ!?」
顔から血の気が引いていくのが解る。
ドンドンと身体が冷たくなっているのに
汗が…汗が止まらない!
【……早くしろ】
バベルの声が変わる。
「ッッ!?…解った」
「はっ!?はははいいぃぃぃ!!」
急いで俺はセイントの左腕を押さえ付ける。
フゥー!!フゥー!!
押さえ付けている手がブルブルと
震える。俺が震えているのかセイントが
震えているのか、もう解んねぇ!
下唇を力一杯に食いしばり極力、
セイントの顔を見ない様にする。
とゆーか、見れねぇ!!
ゴトッ。
京香とガストラが杭を打つ為に
使用する金属製の両手持ちハンマーを
持ち上げガルとドラガン側に立つ。
「砕け」
京香とガストラがバベルの指示で
重いハンマーを振り上げる。
そして……。
ゴキャ!
「ぎゃああああああああああああ!!」
セイントの腕に振り下ろされた瞬間、
骨が砕けて肉が潰れる。
ベキャ!
「ぎえええええええええええええ!!」
広場にはセイントの断末魔の様な
叫び声が響き渡った。
「バ、バベル!!いや、バベル様あぁ!?
止めてぇぇ!!許して!許して下さいぃぃ!!
二度と逆らいません!!何でもしますぅぅ!
金も地位も全て差し上げますからぁ!
どうか命だけは!命だけはぁぁぁ!!」
グシャ!
「あぎゃああああああああああああ!!」
セイントが必死に命乞いをするが
バベル達は無言で腕を砕いていく。
見れねぇ…見れねぇよぉ!
セイントの腕を抑えているから
骨が砕ける振動が俺の手にも伝わる。
俺の顔に何かが飛び散った。
何か生暖かい物だ。
けど、怖すぎて確認出来ねぇ!
怖い!怖い!
こんなに恐ろしい思いなんて
生まれて初めてだぁ!!
ガキャ!
「ッッッッッッ!?」
セイントの叫び声が不意に止んだので
薄目で確認すると、ブクブクと口から
血が混じった泡を吹きながら白目を
向いて痙攣していた。
「ヒィ!?」
反射的に声が漏れてしまったドラガン。
しかし決してセイントの腕は離さなかった。
落ち着け!落ち着け!!
絶対に離すなよ、俺!
これはバベル様の命令なんだ!
もし、背いたら何されるか解んねぇ!!
ガル坊だって必死に押さえてるじゃねぇか。
顔を真っ青にして眉間に皺を寄せて
冷や汗を滝の様に流しながら
押さえてるじゃねぇか!!
ドラガンの押さえる力が強くなる。
「気絶しやがったな。
ボス、起こせ。それと気絶しないように
アドレナリンを打て」
バベルの指示で強制的に気絶から
復活させられるセイント。
「ぶはっ!?やめてえぇぇぇぇ!!
もう嫌だぁぁぁぁ!助けて!助けてぇ!
痛いのは嫌だあぁぁぁ!
助けて!父上!!助けてくれ!ケイト!
お願いしますうぅぅうあああああああ!」
今のセイントは傲慢で高飛車な
王子だった頃の面影は一切無い。
涙も鼻水も涎も関係無く撒き散らしながら
泣きじゃくっている。
「バベル!後生じゃ!頼むから、これ以上
私の息子を苦しめないでくれぇぇ!
もう…もう、楽にして…くれ。うぅ」
「バベル様!お願いします!
お願いですから、これ以上兄様を
苦しませないで下さい!
お願いしますからぁぁぁぁ!!」
国王とケイト王女が泣きながら、
バベルに懇願する。
だが、バベルは顔色一つ変えずに
言う。
「続けろ」
ドグシャ!
「あsdfghjkうぇrt!?」
セイントは最早、言葉にならない
叫び声を上げ続ける。
俺…王族が嫌いだった。
貴族も大嫌いだったんだ。
俺達が苦しい生活をして残飯を
漁っている時に、奴等はたらふく
美味い飯食って良い女抱いてよ。
スラムの俺達を見ると、まるで
ゴミを見るような眼で見られてさ。
母ちゃんが病気になった時も
スラムの奴なんて診れるか!って
言われて神殿から叩きだされて…。
結局、母ちゃんは死んじまった。
滅茶苦茶、恨んだぜ…。
何で優しい母ちゃんが死んで、
こんな屑共が生きてるんだって
何度も思った。
だから、俺達はバベル様の下に
就いたんだ。
そーすれば、恨んでる連中を
死ぬ程苦しませてやれるって
思ったから。
けど…けどよぉ……。
今は…今だけは、こう思ってる。
せめて…せめて、早く死んでくれ!
頼む!もう死んでくれよ!
もう楽になってくれ!!
お願いだから…もう苦しまないでくれぇ。
しかし、ドラガンの祈りは届かなかった。
腕がスライムの様にブニョブニョに
なったセイントは生きた状態で
体中に蜂蜜を塗られ吊るされたのだった。




