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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
181/248

バベルの世界「猛威」

シュコー…シュコー…。


貴族街ゴードン地区に防護服とガスマスクを

装着した一団が周りを警戒しながら歩く。

バベルの前を歩くのは防護服を着込んで

自動小銃を装備しているボスとガストラ。

バベルの左右にはガルと京香が警護し、その

後ろから完全装備の私とツヴァイ達。

それと軍狼達が警戒する。


警戒はしているが…静かすぎる…。


「…姉さま…」


「うむ、解っている。此処は静かすぎる。

 気配が全然感じられん…」


いや…静かな理由は解っている。

多分、この地区に駐留している兵の殆どが

死んでいるんだ。

理由はバベル様達が使用した兵器。

【サリン】だ。


ガストラ様の講義で習った毒ガス。

殺傷能力が非常に高い化学兵器。

最初は眉唾な兵器だと思ったものだ。

たった一滴、皮膚に付いただけで相手が

死亡するなど聞いた事が無い。

暗殺家業を生業としている我らも

それなりに毒物に関する事は知っている。

だからこそ、そんな強力な毒物が存在するとは

正直、思っていなかったのだが…。


兵達が駐留している付近に近付くと

その兵器が如何に強力で非人道的な物か

よく解った。


夥しい数の死体の山…。

兵士・騎士・貴族・従者に住民達…。

全員が死んでいる。

その死体は綺麗な物だ…戦い、剣で

斬られた者達など一人も居ない。

だが、どの死体も苦悶の表情をし喉や

胸を掻き毟って死んでいた。


「はっはっはっ!効果てきめんだな。

 害虫駆除は一気にした方が効率が良い」


ガスマスクを装着している為、バベル様の

顔は解らないが多分、笑っているのだろう。


ゴクリッ…。


リーは、喉を鳴らす。


恐ろしい…。バベル様も、バベル様達が居た

別世界も恐ろしすぎる。

常軌を逸していると言って良い。

バベル様達は、こんな恐ろしい兵器が

存在する世界で日々戦い生き残って来たのだ。

それが、どれだけ異常な事か…。

想像を絶するわ。


そんな方々を相手に勝てる筈が無い。

バベル様は変わった能力?で、その世界から

兵器を此方に持ち込む事が出来る。

こちら側の者達が向こうの兵器に対抗するなど

不可能に近いだろう。

ましてや化学兵器なるものなど使用されれば

蹂躙されるだけだ。


「バ…バベル…これ、やり過ぎじゃ…?」


ガルがオズオズとバベルに声を掛ける。


「数は向こうが多いんだ。これぐらい使って

 初めてドローだろう?

 それに馬鹿正直に斬り合いなんぞしてたら

 こっちの被害も出るからな。

 俺は殺し合いなんぞ興味が無い。

 殺るなら一方的な虐殺だ」


その言葉を聞いたガルがシュンとしている。


虐殺…確かに虐殺だな。

剣を交えて戦う戦場とは全く違う。

士気がどうとか剣術がとか体格がなんて

この戦場では全く関係無い。

何が起こっているのか理解出来ずに死ぬ。

それがバベル様達の戦場だ。

バベル様達に敵対するとは、こーゆう事なのだ。

殺す事に特化している技術と武器を使い、

一発で大勢の命を刈り取る兵器を使用し、

躊躇なく実行する冷酷さ…。

この方達だけには絶対に敵対したくないな。


「ふむ…殆ど死んでる様だな。

 後日、この辺り一帯に炭酸ナトリウム水を

 噴霧しておけ。それで大分、中和出来る。

 後は、時間を置けば揮散・消失するだろ。

 当然、此処で死んでるゴミ共は焼却処分だ。

 感染症の温床になったら最悪だからな。

 それは平民街で生け捕りにした商品にでも

 やらせるか。ふふふっ」


確かに、これだけの死者を放置する事は出来ない。

疫病など出てきたら最悪だからな。


バベル様が指示を出しながら歩いている。

それを追い掛けながら歩いていると急に

誰かに足を掴まれる感触があった。


「ッッ!?」


驚いて足元に眼を向けると、まだ若い

男の獣人が怒りに震えた表情で私を

睨んでいた。


「…ヒュー…ヒュー…悪、魔が!

 お、前達は…ゲホッ…ゴホッ…

 悪魔だ!!家族を…返、せ!」


「……」


返す言葉も無い。

そう言われても仕方の無い事をしている。

私も元は暗殺者。

この程度の罵詈雑言など言われ慣れている。

だが、今、泣きながら恨み節を言っている

この兵士は国の為に尽くしていた者。

今まで殺してきた不正や汚職に塗れ

欲に溺れた豚共と違う。

戦争だと言えば、それまでだが…。

中々、心にくるものがあるな。


リーは地面に膝を着き若い兵士に

顔を近付ける。

そして、兵士の首に短剣を突き刺す。

出来るだけ苦しまず的確に急所を狙うと

ガフッと吐血し息絶えた。

死んだ事を確認するとリーは若い兵士の両手を

胸に置き、ソっと開いていた眼を閉ざす。


「せめて冥府で家族に出会える事を願う」


リーは自身の短剣を胸に当て祈りを捧げる。


「…姉さま」


その光景をバベルやボス達も何も言わず

見ている。


「バベル様、時間を取らせてしまい

 申し訳ありません」


「いや、構わん。良いものを見せて貰った」


「ボス様も申し訳ありません」


リーはバベルに頭を下げた後にボス達にも

頭を下げる。


「俺達が警戒していたから問題無いよぉ。

 それに彼も国に尽くし戦死した兵士だぁ。

 敬意を表すのは良い事さ。

 ただ此処は戦場だ。次、祈るなら

 終戦してからにしなぁ」


「はい」


それから私達は変わらず警戒しながら

貴族街を歩いていた。

中には生き残りも居たが殆どが虫の息で

ほっといても死ぬ程、衰弱していたが

バベル様が「生きてる奴が居たら殺せ…

出来るだけ苦しませずにな」と指示を出したのだ。


バベル様だって感情がある人間だ。

少し…ほんの少ーーーーし良心があるのだろう。

いや…そもそも良心なんてあったら毒ガスなんて

使わない……いやいや!あると思い込もう。

ブンブンと頭を横に振りついて行く。


しかし、これだけの数が居て私達が出会った

生き残りは、たったの数人か。

本当に恐ろしい兵器を使ったものだ。

そう思いながら立ち並んでいる貴族の豪邸を

通り過ぎようとした瞬間、玄関の扉が急に

開けられ屈強な男二人がバベルに斬り掛かろうと

していた。


「「バベル!!覚悟!」」


「バベル様!?」


「バベル!あぶねぇ!?」


ガキンッと男二人の剣を受け止める

リーとガル。


「くっ!?おのれ!!」


頭に特徴的な角を生やした男が攻撃を

防がれた事に対し顔を歪ませる。


この男!?確か竜人族のドナルド・モンド・

クルーガー公爵!?

まさか生きていたとは驚きだ。

高名な武人としても知られているが…。

全く身体に力が入っていない。

私が何もしなくてもフラフラで剣を

防いだ後に膝を着いてしまった。

ガルの相手も同様か。

あれは確か…三大公爵家のスーロン・デ・ガウディ。

ダークエルフで長きに渡り修練を積んでいる筈の

男がガルに攻撃を防がれている。

本来なら到底、私達が正面から戦って

勝てる相手では無い。

毒ガスを少し吸っているな。

だから、あれ程弱っているのだろう。


「まさか…この様な小娘に防がれるとは…」


「ふふっ…私もだよ。クルーガー。

 こんなチビ助すら倒せない程弱っているんだから」


「チビじゃねぇ!!」


ガルがギャーギャー叫んでいるが無視だ。

ボス様達も既に銃口を向けて臨戦態勢で

今にも引き金を引きそうだ。


「おー、待て待て!そいつ等殺すな」


そう言って止めるバベル。


「お前等、三大公爵家とか呼ばれてる連中だろ?

 確か、スーロン・デ・ガウディと

 ドナルド・モンド・クルーガーだっけか。

 後、もう一人居るよな?姿が見えないって事は

 死んだか?ウィンチェス・アレク・シルバだっけ?」


「くくっ…生きているさ。俺達の心の中でな!!」


不敵な笑みを見せ声を上げるガウディ。

そし二人の公爵がバベルの足にしがみつく。


「今だ!ローズ、殺れ!!」


その声と同時に見目麗しい女性が

剣の切っ先を向け突進してくる。


「シルバとアリーナの敵!!」


伏兵が居たか。女性だが、その辺に居る

兵士より腕が立つのだろう。

動きも速い。多少、毒ガスを吸っているようだが

怒りが上回っているのか。

だけど、そのせいで周りが見えていない。

何故、ボス様達が銃を撃たないのか…と。

いくらバベル様が殺すなと言ったからと護衛対象が

危険に晒されればボス様達は躊躇無く殺す。

でも、それをしない。

何故か?簡単な事だ。


「やった!ガウディ!クルーガー!

 バベルを殺ったわ!私、敵を取れたのよ!」


「よくやった!バベルさえ居なくなれば

 指揮するものが居なくなる!

 シルバよ!見ているか!!」



滑稽ね。

本当に滑稽だ。

お前達は何を見ている?

剣が刺さって横たわっているバベル様か?

お前達は何も見えていない。

何も解っていない。

お前が今、誰を刺したのか。


パチンッ!


ローズの耳元で指を鳴らす…バベル。


「……………えっ?」


先程まで、はしゃいでいたローズが

理解出来ない様な顔をしている。

それも、そうだ。

今、剣が深々と突き刺さり倒れているのは

三大公爵家の一人、スーロン・デ・ガウディ

なのだからな。


「…えっ…?あれ…えっ?何で?

 何で、ガウディ叔父様が…?」


ローズの顔がドンドン青くなり顔が

半笑いになっている。

必死に状況を飲み込もうとしているのだろう。


「何故…だ?私は…バベルを捕らえて……。

 何だ?何だ、これ……理解出来ない…」


クルーガーも今どういった状況に

なっているのか理解出来ない様だ。

それも、そうだろう。

私でも理解に苦しむのだからな。


クルーガー本人はバベルを捕らえている

つもりだったのだろうな。ガウディと共に。

だが、第三者の私達から見たら全く違う。

クルーガーは突如、ガウディの身体に

しがみつき動きを止めたのだ。

ガウディは焦って何度もクルーガーに

声を掛けたが彼には届かなかった。


その間、バベル様は彼等のやり取りを

無言で見つめていた。丁度、彼等の横でな。


そしてローズは迷う事無くガウディに

突進し剣を突き刺したのだ。


多分、バベル様は私達が公爵の二人を

止めた瞬間に何らかの催眠を掛けたのだろう。

……実際は解らんが…とゆーか解る筈

無いだろう!

私達まで夢か幻を見させられている様なのだから!


「くっくっくっ、仲間を殺した気分は

 どうかね?綺麗な姉ちゃん。ふふっ」


…バベル様…心底楽しそうに喋るな。

先程、少しばかりは良心があると思っていたが

多分、この方には無いな…。


「…いや…いやぁぁ…ああああ!

 いやあああああああああああああああ!!」


ローズが自身の頭を掻き毟りながら

絶叫にも似た声を上げて泣き叫ぶ。


「ガウディ……そんな…ガウディ…」


クルーガーは眼の焦点が合わず

ブツブツとガウディの名前を繰り返している。


「あぁ、クルーガーが、まだ生きてたな。

 こいつも、もう用済みだ」


そう言ってバベルがクルーガーの眼の前に立つ。


【あの女の前に立て】


バベル様の、この声…

この声はマズイ!本当にマズイのだ!

この声を聞くだけで身体中を氷漬けに

された様に冷たくなりとんでも無い程の

重圧が襲いかかって来る。

私自身が言われて無くてコレだ!


リーだけで無くツヴァイもガルも軍狼の

少年少女達も防護服越しに汗が吹き出る。


【首を折って自害しろ】


ガキョ!メキッ!!


「ヒッ!?」


余りの恐怖に声が出てしまいリーは手で

口を塞ぐ仕草をしてしまう。


バベル様が首を折れと言った瞬間、何の

躊躇も無くクルーガーは自分の手で自身の

首を180℃回転させた。

さっきまで前を向いていた首が自分の

背中が見える程、曲がり折れフラフラと

立っている。


ドシャ…。


そして糸が切れた操り人形の様に

倒れた。


「あ…ひゃ…あひひ!あひひひゃはは!

 クルーガーの首が!あっひゃひゃ!

 折れちゃった!折れちゃった!

 あはははははははははははははは!!」


ローズに先程までの気品は無い。

今、眼の前に居る女性は心が壊れた

狂人だ。

眼を見開き涙と涎を流しながら

狂った様に笑うローズを見ると敵ながら

同情してしまう。

仲間を刺し殺し、眼の前で友が

自分で首を折り自害する。

心が壊れない方が異常だろう。


異常と言えばバベル様の異質な能力だ。

姿形を偽り、相手を洗脳し、言葉で敵を殺す。

聞いた話しでは、身体が自壊を選んでしまう程の

幻覚まで使うと言う。

もう化物だ。

戦闘経験とか技術とか関係無い。

逆立ちしたって勝てる気がしないわ。

本当に悪魔に魂を売った気分ね。


「あら?壊れちまったな。ふぅむ…。

 だが、身体も顔も相当上物だからなぁ。

 殺さずに売り払うか。

 幸いガスも少量しか吸って無いみたいだしな。

 ガストラ、念の為、抗コリン剤を打っとけ。

 それとコレを渡しとくわ」


バベルがガストラに何かを手渡す。


「小型カメラに…SDカードっすか?」


「防護服に取り付けてたんだわ。

 毒ガスが獣人や亜人にどの程度の被害を

 出すか今後の為に録画してある。

 まぁ現状を見れば一目瞭然だがなぁ。

 それに面白い映像も撮れた。

 後で俺の指示通りに加工してくれ」


「了解っす」


今後の為ですか…。

バベル様は実戦と実験の為に化学兵器を

使用したみたいですね。

末恐ろしいものだ。


「あっ、そうだ!なぁ、リー」


「ッ!?は、はい!!」


突然、バベルに名前を呼ばれて驚くリー。


「こいつ等、何で俺の事解ったんだろうな?

 防護服とガスマスクしてんのに向かって

 来ただろ?何でか解るか?」


その言葉に少し考える。


「…気配…ではないでしょうか?

 バベル様の気配は皆様とは少し独特です。

 手練なら解ると思います。多分ですが」


「ほぉ~、そーゆうもんかねぇ。

 気配を誤魔化すのは得意なんだがな。

 こんな風によ」


ポンッ


えっ………?


後ろから肩を叩かれた。バベル様に…。

何で?

さっきまで私の眼の前に居て喋っていたのに。

その間、一切眼だって逸らしていないのに…。

何…で?


「そんなに怖がらないでくれよ。

 恐怖の気配を感じるぞ?

 部下に怖がられると結構凹むんだ。

 ガラスハートだからな。くくっ。

 案外、リーも解りやすいな」


ポンッポンッと肩を二回叩きスタスタと

歩いていくバベル。

そんなバベルを見てガスマスク越しで

皆の顔は見えないが間違い無く顔が引き攣って

いるだろう。


リーは、ヘナヘナと崩れ落ちペタンと

地面に腰を落とす。


はは…、ははは!


そーゆう所が怖いんですよーー!!


リーが立ち上がるまで10分程

その場で休憩する事になった。

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