バベルの世界「傑作」
おひょひよ(*゜▽゜*)またまた、ブクマしてくれた方が!!
ありがたや~、ありがたや~!!
最高傑作…。
私が生まれて物心付いた頃から、
屑は、そう言い続けた。
ミオスタチン筋肥大と言う特殊な
奇病によって産み落とされた私は、
常人の何倍もの筋力を持ち、1歳で
懸垂を50回し林檎を握りつぶせる
握力があった。
屑は大層、喜んだ。
普通なら何らかの支障が出る所なのに、
私は何も支障など無かった。
医師の話では身体の構造自体が
常人と違い並外れた骨密度と筋繊維を
持ち、強靭な内蔵を保有しているからだと
言われた。
その御蔭で私は3歳で屑の家系が代々
継いでいる【骸流暗道】と言う武術を
教わる。
歪んだ英才教育。
恐怖と暴力が支配する世界だった。
毎日毎日…訓練に明け暮れ屑の愛情など
一切受けずに育ってきた。
血反吐を吐くなんて生易しい訓練じゃない。
特殊な奇病に罹っているにも関わらず、
骨が折れ、内蔵が破裂した。
それでも訓練を辞めさせてくれなかった。
私が7歳になった時、屑が3人の
男を連れてきた。
目隠しをされ両手を縛られた男達。
怖かった…。
これから何をするのか解らなかったから。
小刻みに震えている私に向かって
屑は口を開いた。
この3人を殺せ。
元々、裏社会の知り合いが多かった屑だ。
仕事と私の訓練を兼ねているのだと思った。
私は足が竦んだ。
屑に出来ないと泣きながら頼んだ。
けど、許してくれなかった。
屑は鬼の形相で叫びながら私を
殴った。
お前は最高傑作なのだ!!
情など必要ない!!
そんな感情など捨てろ!!
そう言いながら私を金属の棒で何度も
殴った。
痛くて悲しくて仕方なかった。
けど…屑には逆らえない。
私は泣きながら…謝りながら3人の
男達を殺した。
初めての殺人は7歳だった。
屑は満足したように薄汚い笑いを
浮かべ私を褒めた。
そこからは酷いものだ。
訓練は実戦も取り入れるようになり
苛烈を増した。
言葉では言い表せない様な訓練と
実戦を繰り返し人を殺し続けた。
屑には政界の者や警察関係にも顔が効き
私の殺人は表に出る事無く処理されていた。
地獄だった…。
捕まって死刑にでもなれば楽に
なれるのにって何度も思った。
自殺も考えた。
けど……出来なかった。
一度、自殺未遂が屑に見つかり母が
酷い折檻を受けたのを見たからだ。
一歩間違えたら死んでいた。
私の母は屑と違い良心的で優しかった。
少し内向的な性格だけど私みたいな
人殺しでも優しく抱きしめてくれた。
私は母が大好きだった。
暗く狂った世界で唯一、母だけが
光だった。
そんな母を私のせいで死なせたくない!
だから、どんな事でも屑の命令で
殺してきた。
その度に母は私を抱き締め泣きながら
謝った。
こんな身体で貴方を産んで御免なさい。
こんな家に産んで御免なさい。
もっと普通な女の子として生きて欲しかった。
友達を作って、好きな子を作って幸せに
生きて欲しかった。
御免なさい…。
謝らないで、お母さん。
私、幸せだよ!お母さんが居るから。
だから泣かないで…。
歪な環境だったけど、母が居たから
私は何とか我慢が出来た。
いつかは捕まってしまうかも知れないけど…
それでも、それまで、お母さんと一緒なら…。
そう思ってた。
けど、12歳の時に母が死んだ。
屑が殺したのだ。
いつまで親子ごっこをしている!
お前は、最高傑作なのだ!
親子とて情など必要ない!!
顔の原型が解らなくなる程、母を
殴ったのだろう。
道場は血飛沫が飛び散っていた。
その後は…記憶が無い。
気付いた時は、スーツを来た数人の
男達に囲まれていた。
多分、裏社会の人間だろう。
その内の一人が私に教えてくれた。
君の父親は、500程のパーツに分割されて
原型が一切無い状態だった。
その近くに母親を抱きしめている君が
居たから保護した。
信じられん力だな…僅か12歳で、
あそこまで人体を破壊出来るとは…。
屑を殺したのは私らしい。
だが、心底どーでも良かった。
今まで殺して来た人達ですら少しでも
良心の呵責があったけど、あの屑には
何の感傷も無い。
死んで当然だ。何度でも殺してやる。
あの屑は私から大切な人を奪ったのだから。
それから私は本格的に裏社会の住人に
なり国外問わず動いた。
中でも私が取り憑かれたのは戦場と言う
特殊な場所だった。
恐怖と暴力が絶対の世界。
私が育った環境と一緒だった。
日本という平和な世界で地獄を見てきた私は
嬉しかった。
戦場に居る者は皆、等しく地獄を見ている。
それが堪らなく嬉しくて満たされた
気分になった。
その後、私は傭兵になり後に民間軍事会社に
就職し各国の戦地に向かい戦った。
戦地では色んな人間が居た。
私よりも悲惨な境遇の者、私よりも強い者、
本当に色んな人種が居た。
日本では諦めていた友達・戦友も出来た。
私の体質を見ても怯えず、蔑まず、
むしろ頼ってくれた。
少しの間だけど恋人も出来た。
私が戦地で負傷してるのを必死に背負って
銃弾飛び交う場所から助けてくれた。
普段は部隊でも臆病で頼りがいのない兵士の
男が誰よりも速く私を助けてくれた。
嬉しかった…。
本当に嬉しかった。
子供の頃に母から、おんぶしてもらったのを
思い出す。
特殊な奇病のせいで人より強い握力で
肩を握られても一切顔に出さず微笑んで
くれた母。
彼も、私に微笑みながら運んでくれた。
そんな彼に恋をして付き合い始めた。
私の様な人殺しが、こんなに幸せに
なって良いのか?と思った程、私は
幸せだった。
けど、神様は残酷だ…。
しっかり、お天道様は見ているものだ。
恋人が戦死したと聞いた時は絶望し
随分、取り乱した。
やっぱり私みたいな人間が幸せになんて
なれる筈がない。
当然だ…沢山、殺したんだから。
自殺なんて考えない。
自分で死ぬなんて都合が良すぎる。
なら、せめて…恋人が戦死した様に
私も戦って戦場で屍を晒し腐ちていきたい。
それが良い。
恨まれている相手に殺されるなら
本望だ。
◇ ◇ ◇
だからダガールに殺されても文句は無い。
彼は強かったなぁ…あはは。
最後に自爆するなんて、異世界では
考えられなかった。
あれ?異世界?
ふふ、私何言ってんのかしら。
異世界って(笑)
ラノベ見すぎたかしらねぇ…。
「……じょ…!?」
何だろ?何か聞こえる。
「お…嬢ッ!お嬢!?」
お嬢?それって私の事?
何だろ?身体が凄い暖かい……。
それに、この揺れ…何だか懐かしい様な。
「剣崎の御嬢!!起きてくれ!!」
!?
バチッと眼を開ける京香。
「…声……ポポロ…?」
「うわあぁ!御嬢!御嬢!?良かった!!
眼を開けてくれた!
死んだかと思ったぁぁぁ!!」
何だ?今は、どーゆう状況だ!?
身体が動かない…てか身体中、いてぇ…。
「御嬢!動かないでくれ!
一応、応急処置したんだけど下級ポーション
しか持ってなくて全然傷が治らなくて!!
今、バベルの旦那達の所に運ぶから!」
そう言われ京香は自身の身体を見る。
ありゃりゃ…こりゃあ酷い。
両腕がグチャグチャだ。
感覚的に内蔵も損傷してるし身体の
半分が焼けただれている。
あぁ…思い出してきた。
確か、ダガールに両手を掴まれて
退避出来なかったんだ。
それで咄嗟に両肩を外して少しでも
爆風を受けないように屈んで…。
そっから記憶が飛んでるわねぇ。
「御嬢、すまねぇ!もっと速く助ける事が
出来れば、こんな怪我しなくても良かったのに!
俺、怖くて物陰から見る事しか出来なくて!
うう…情けねぇ…情けねぇ!!」
涙を流しながら京香をおぶさり必死に
走るポポロ。
あぁ…そーだったんだ…。
私、助かったんだ…あはは。
ポポロが助けてくれるなんて意外ね。
獣人に酷い事、沢山したのにさ…。
ガチャ、ガチャ!
「居たぞ!!反逆者達だ!討ち取れ!」
急にポポロの前に、国軍兵士達が
現れる。
「げげっ!!こっちは急いでんのに!
御嬢、ちょっと遠回りするぜ!」
ポポロは、裏路地に入り逃げる。
「…ポ…ポロ…私は…捨てて、行き…
なさい…。このままじゃ……ゲホッ…
アンタも…捕まる、わ」
「へへっ!いくら、御嬢の命令でも
それは聞けねぇぜ!!
惚れた女捨てるなんざ男がする事
じゃねぇって!!」
そう言った後に、しまった!!と思う
ポポロ。
顔が真っ赤になっている。
「アンタ…私に、惚れて…んの?」
「ッッ!?ええ!惚れてますよ!
悪いですか!?
御嬢は綺麗だし強いし良い匂いするし!
胸デカいし格好良いし頭も良い!!
最高の女ですよ!!
惚れるに決まってるでしょ!!」
もうヤケクソになっているのだろう。
ポポロは自分が思っている事を全て
ぶちまける。
「………そう…なんだ…」
「御嬢?」
京香は何も言わずポポロの背中に
頭を傾ける。
ポポロが私にねぇ……。
顔は、強面で先祖返りが強く出ている為、
頭は犬みたいだ。
身体もゴツくて漢って感じ。
職業も冒険者なんて収入が不安定な
仕事してて確か30代後半。
そんな男が私に惚れてるのかぁ…。
異世界だからショタとか美少年とかが
良かったけどなぁ…。
そっかぁ…惚れてんだぁ……ふふ。
いやぁ…何だろね…。
ふふ…顔が熱いなぁ……。
半分、顔が焼け爛れてるからじゃないよねぇ…。
「ポポロ…」
「はい?何すか?御嬢。
あっ!?バベルの旦那の所に、
もうすぐ着きますよ!!」
「私…子供は10人ぐらい欲しいなぁ」
「ぶふおぉぉお!!」
ポポロが不意に言われた言葉で
吹き出した。
決してボロボロになった京香の両腕が
ポポロの首筋を強く圧迫した為では無いと思う。
うふふ…全く…。
思い出しちゃったじゃない。
お母さんの暖かい背中…。
戦死した恋人の背中…。
まさか、次は獣人の背中なんてね…。
あはは。
あーー、暖かいなぁ。
バベル達が居る場所まで京香はポポロの
背中に顔を埋め堪能したのであった。




