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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
176/248

バベルの世界「暴君」

ボスと黒狼一族が戦っている同時刻。

バベル達が一時撤退した貴族街手前の

場所でも激しい殺し合いが行われていた。


ガキンッ!!


火花散る刃物と刃物のぶつかり合い。

目にも止まらぬ速さで刃物が舞う。

その光景を応援に来た大国軍人達も

固唾を呑んで見守っていた。


本来ならダガールの兵も参入したいが、

その余りにも高度な戦闘と気迫、そして命を

刈取る躊躇の無さに押され誰一人として

動けずに居た。

戦っている京香とダガール以外は…。


「夢でも…見てるのか…」


「ダガール様が強いのは知ってる…けど!

 それに対等で戦っている人間は…

 一体、何なのだ…」


兵士達が、そう呟く。


「ふんッ!!」


京香の正確な急所狙いの攻撃を捌き

強烈な掌底を京香の腹部に打ち込み

距離を取る。


「んふふ、いったーい」


ダガールの掌底を貰った京香は、

何事も無かった様に腹部を摩って

笑っていた。


「軍団長の攻撃を食らって…立ってる…。

 常人なら死ぬし、鍛えている者達でも

 2週間は動けなくなるのに…」


「き、きっと手加減して…」


そう言った兵士がダガールの足元を

見て気付く。

先程、掌底を打った時の踏み込みで

ダガールの地面がガッツリ凹んでいる。

全力…。

紛れもなく先程の一撃は全力だったのだ。

それを受けて尚、薄ら笑いを浮かべている

京香に兵士達は恐怖する。


「やはり、倒れませんか…」


「手加減してくれたんでしょ?ふふっ」


手加減?

とんでもない。今の一撃は全盛期に

比べれば多少、威力は落ちるものの

全力なのだがな。

その攻撃を受けて、あの余裕とは。

困ったものだ。


「ダガール、あんた強いわね。

 こっちに来て戦った相手の中で

 群を抜いて一番よ。

 さっきの掌底…勁に似てる。

 脊髄にピリッと来たから翻浪勁ほんろうけい

 に近いね。

 この世界で此処まで練り上げるなんて

 大したものよ。

 あんた、やっぱり仲間にならない?」


「褒めて頂いた事は感謝するが、

 そちら側になるのは断ります」


全く…とんでもない人間が居たものだ。

あの一撃だけで此処まで解るか…。

京香が言っている勁や翻浪勁と言う

言葉は聞いた事は無いが、あの攻撃は

私が戦場で戦っている時に編み出した

攻撃だ。

分厚い鎧を着ていようと関係なく

内部破壊を引き起こす技。

意図して、この攻撃が出来るまで5年

掛かったものだ。


「…そう。残念ね」


そう言いながらツカツカと石造りの

家の壁まで歩いていく京香。


「?」


コツッと壁に拳を当てる。


「まだ、強くなれたのにねぇ」


そう言った瞬間、京香の肩、腕、拳が

ほんの数ミリ動くか動かない程度のブレが

生じた。他の見ていた兵士達は全く動いてない様に

見えただろう。


だからこそ理解出来なかった。

京香が先程まで触れていた石造りの壁が

粉々に崩れ落ちたのだから。

一部では無い。

壁一面が粉々になったのだ。


「ッッ!?」


その光景に、ダガールですら眼を見開く。


馬鹿な!!

彼女は、私が達していない高みに居ると

言うのか!?

人体の一部を内部破壊する技術に5年も

費やしたと言うのに、まだ若い

この娘が、これ程の威力をッッ!!


「この技術は、【勁道を開く】必要があるの。

 私は、まだ、その境地に達していないけど、

 このぐらいなら出来るわ。

 まぁ、私の流派では無いし身体の構造が

 人と少し違うからね」


まさか…これ程とは…。

本当に厄介な相手だ。

長年、戦場で戦ってきたが此処までの

強者は居ただろうか?

居たとしても数える程度…。

しかも、彼女は私が今まで経験した事の

無い様なナイフ術を使う。

似た技術で言えば黒狼一族が使用する

刃物の扱いに似ているが、京香の

技術の方が、より洗練されている。


そして何より恐ろしいのは、

彼女の異常なまでの怪力だ。

この人間の力は間違い無く我々、

獣人を凌駕している。

恐らく一撃でも、モロに貰えば

只では、すまんだろう。


ふふっ…笑えてくる。

此処までの力を持っている者が

誰かの下についているなどな。


「さぁて、身体も温まったし馬力

 上げても大丈夫かなぁ」


ミシッ…ミリッミチッ!


そう言うと、京香の身体が徐々に

赤みがかり筋肉が更に凝縮し太い血管や

細い血管まで鮮明に浮き上がり、まるで

皮を剥がした剥き身の様に身体が

悍ましい姿に変わっていく。


「…信じられん……」


ダガールは、ゴクリッと生唾を呑んで

ポツリと呟く。

それ程、ダガールにとっては信じられない

光景だったりだ。


あれだけの怪力が通常状態だと

言うのか?

それより、まだ上があると言うのか!?

私は一体、何者と戦っているのだ!?


ダガールは臨戦態勢のまま

滝の様に汗を流している。

その光景を見て京香の口元が

釣り上がる。


「ふふっ、こっちでは、初めてのお披露目ね。

 今の私は最高の気分よ~。

 脳内麻薬のβ-エンドルフィンや

 ドーパミンが、ドバドバ出てて

 痛みですら快楽に感じる様になってる。

 うふ、うふふふ。

 もう、止まらないし止められない。

 アッハ!此処に居る連中、全員

 ぶち殺す。アハハハハハハハハハ!!」


姿勢を低くしたと思った瞬間、京香が

もの凄い速さでダガールとの距離を

詰める。

その速さは既に人間の域は当然…

獣人の域を超えていた。


「ぬぐっ!?」


その速さに驚きつつバックステップで

回避しようとするが間に合わない。


ゴキャバキッ!ボキッベキッ!!


およそ人体を殴った音とは程遠い音が

辺り一面に響き渡りダガールが、

100m程吹き飛び石造りの家に

ぶつかるが、その壁すらも砕き

突き破る。


ガラガラと崩れる壁を見ながら

戦いを見守っていた兵士達が絶望に

染まっていく。


「ば…化物だ…」


「あんなのに…勝てっこねぇ…」


「ダ、ダガール様…」


誰もが、もう駄目だと思った。

そう思わせる程、京香の攻撃は

馬鹿げていたのだ。

初老でも筋骨隆々で獣人の中でも

トップクラスの強さを持つダガールが

100m以上吹っ飛んだのだ。

身長も体格も違う。

性別も違う人間の女の攻撃でだ。


次は、我々が蹂躙される…。

兵士達は諦めかけていた。

しかし…。


「アッハ!すっご!今の私の状態って

 素手で羆やグリズリーを簡単に

 解体出来るぐらいなのよ?

 よく死ななかったわねぇ~」


京香の言葉に兵士達が顔を上げる。

そこには、ダガールが立っていた。


「うおおおお!ダガール様ぁぁ!」


「流石、我等の英雄!」


兵士達は叫び、涙を流している者達も居た。


「……ゲハッ!!」


ビチャ、ビチャと声援を受けている

ダガールが夥しい量の血を吐く。


「んふふ、でも、立っているだけで

 精一杯って感じねぇ。ふふ」


京香の言う通りだ…。

今の私は立っているだけで精一杯。

いや、そもそも立っていられるのが

不思議なくらいだ。


ふふっ…咄嗟に短剣を盾にして

腹部を守った事により絶命だけは

避けれたか…。

しかし、致命傷だな…これは。


カランッとヒビが入った愛用の

短剣を落とす。


ミスリルの粉を混ぜ合わせた

合金製の短剣にヒビか……。

ぐふっ!…ハァ、ハァ、内蔵を

保護する骨が殆ど折れている。

それが、いくつか内蔵に刺さっているな…。

もう下半身の感覚が無い。


朦朧とする意識の中で影が挿すのを

感じて、ゆっくりと顔を上げる。

そこには、満面の笑みで京香が立っていた。


「上級ポーションが、あれば

 一命を留める事が出来るんじゃない?

 勿論、仲間になればだけどさ。

 最後よ。ダガール私達の仲間に

 なりなさい」


「失望しましたね。貴方は敵に

 情けをかける程、優しいのですか?

 此処は戦場だ。

 敵に情けをかけるな!

 さっさと殺しなさい!」


ビキッ!ブチッ!


ダガールの言葉で京香の眼が充血する。

怒りの余り眼の毛細血管が切れたのだ。


「解ったわ…ならアンタは完全に敵よ。

 私達を敵に回した事を後悔させたげる。

 この、糞爺が」


…私も此処までか。

今まで幾度も戦場を経験し強者達と

戦い勝ってきた私が、よもや人間に

敗れるとはな…。

くくっ、人間が脆弱などと言う考えは

もはや捨てるべきだな。

ミュー…ジーン…後は任せたぞ。


そう思い眼を瞑り京香の攻撃を待つ。

だが、直ぐに眼を見開く事になるとは

ダガールは思っていなかった。


「ぎゃああああ!!」


!?


耳を劈く様な叫び声を聞きダガールは

瞑っていた眼を見開く。


「なっっ!?」


開いた目線の先は…悪夢の様な光景だった。


「ダガール様ぁ!助けっ!?」


ゴキャ!


「うわあぁあ!嫌だぁぁぁ!」


ベキンッ!!


ゴキンッ!ベキャ!ボキッ!

ボゴンッ!メシャ!ゴキッ!


嫌な音と自分の部下達の断末魔が

響く。

プレートアーマーを身に着けている

兵士達が京香によって蹂躙されていた。


やめろ…やめてくれ…あの光景を

また私に見せつけないでくれ…。


ダガールは感覚のない足で踏み出そうと

するがバランスが崩れ倒れてしまう。

それでも這いながら声を出そうとする。


「ゴボッ…逃げ、ろ。ガボボッ!

 逃げて…ぐれ…」


必死に叫ぶが吐血が止まらなく

上手く声が出ない。

その間も京香の蹂躙が続く。


京香が腹を殴る。

兵士のアーマーが有り得ない程

ひしゃげ目玉が飛び出し、臓腑が

口から、ぶち撒ける。


京香が頭を蹴る。

頭が身体から引きちぎれる前に

粉々に砕け散り地面に脳漿を

ぶち撒ける。


京香が腕や足を掴む。

只それだけで、兵士達の手足が

バキバキと音を出し折れる。

正確には、骨も筋肉も一気に圧縮した様な

有様で殆どちぎれてる。


刃物も使用せず銃も使用せず

只、只素手で兵士達を蹂躙する様子は

暴君そのものだった。

戦場での生殺与奪を絵に描いた様な

光景を眼にしてダガールの眼から

悔しさで涙が零れ落ちる。


思い出させないでくれ…。

あの光景を……。戦場での地獄の日々を…。

私が守る、この国で……。

同じ光景を見せないでくれぇ!


「ざまぁないわね」


そんなダガールを見下す様に

京香が見ている。

その両手には兵士の頭を持ち今にも

握り潰そうとしている。


「アンタ言ったわよね?此処は戦場と。

 そう!貴方の言う通りよ。

 此処は常識の理から外れた狂った世界!

 そこでは、何でも許される!

 あっははは!

 ゾクゾクしちゃう!

 生殺与奪の権利が私だけに有る世界よ。

 この為に生きてる!

 相手が絶望と恐怖に引き攣った顔を

 見る事だけが生きがいなの!!

 その為なら、親、兄弟でも殺すわぁ!

 アッハハハハハハ!!」


「………哀れな…」


「…は?」


京香の言葉を聞きダガールは、ありったけの

呪いの言葉を投げかけるつもりだった。

しかし、口から出た言葉は、哀れみだった。

自分の部下を殺している、この人間に対し

怒りや憎悪では無くだ。


彼女は…戦場で自分を見付けてしまったのだ。

数多くの戦場……私などよりもっと多く、

そして悲惨な戦争を経験しタガが外れて

壊れてしまったのだな…。

もう戦場無しでは生きていけない身体に

なっている。


私も一歩間違えれば…ああなって

いたのかもしれん。


本当に…哀れな人間の娘だ。


ダガールは京香に哀れみの眼を向け

苦笑いする。

対して京香は、下唇を噛み締め

ワナワナと震えている。

先程の余裕な表情は無い。


「私を!そんな眼で見るな!!

 あいつと同じ眼で見るんじゃねぇ!

 この糞ゴミがぁぁ!!」


両手で掴んでいた兵士を投げ飛ばし

俯せになっているダガールの頭を

踏み潰そうと足を上げる。


「なぁぁにしてんだ!?てめーー!!」


不意に聞こえた声に振り向くと

京香の目の前でジャンプしている

一人の少年。

そして、そのまま強烈な蹴りが京香の

顔面に叩きつけられた。


蹴りを喰らった京香は20m程

吹き飛ぶ。


「お…おま、え達…!?」


ダガールが驚愕する。


そこには、頭から2本の角を生やした少年。

そして下半身が蛇の美女がダガールを

庇う様に立っていた。


 

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