バベルの世界「傭兵」
バベル達とファルシア大国の
戦争が始まり俺達は平民街の
丁度、中間辺りまで圧倒的な
攻撃で攻め崩していた。
「ッ!ま、魔道士隊!早く詠唱を!?」
「弓を撃ち続けろ!早くしッ!?ぎゃああ!」
魔道士の連中が詠唱を始めようと
すればボスが乗った武装ヘリで攻撃し
弓を撃とうとすれば軍用車に設置されている
重機関銃の一斉砲火で貴族の私兵達が
粉々になっていく。
そもそも、この世界の弓や投擲なんて
軍用車に少し傷を付けるだけで
何の役にも立たない。
そして攻撃は何も異世界産の武器に
よるものだけじゃない。
「ゴブリンなどに遅れを取るな!」
「斬れ!そいつ等をたたっ斬れ!!」
無謀にも閻魔に剣を振るおうと
立ち向かう馬鹿達。
しかも、修羅、羅刹、夜叉が一緒に
居るにも関わらずだ。
「大焼炙」
閻魔が呪文を唱えると向かってくる
軍勢の足元から真っ赤な炎が吹き出し
広範囲を完全に焼き尽くした。
うわぁ…閻魔の火魔法えげつな…。
今の一撃で200人以上焼き尽くして
身体が炭になってグズグズだ。
あいつ全属性の攻撃魔法使えるみたいだけど
特に火に関する攻撃を特化してるからなぁ…。
この威力でも大分、抑えているみたいだし。
「ふん。我が主、剣崎様に牙を向けるとは
万死に値する!」
閻魔が絶対強者のオーラを出しまくりだ。
「鋒刃増!」
修羅が聞きなれない呪文を唱えながら
巨大な鉈を地面に突き刺すと無数の
大きく鋭い刃物が地面から出現し
敵達を串刺しにしていく。
あっ!今、貴族っぽい奴の身体に
何十本も刃物が刺さった。
120%死んだわ…あれ。
因みに、修羅が使用している魔法は
土魔法のオリジナルだ。
地面に存在する砂鉄を針や刃物に変えて
攻撃する得意技だ。
大体、半径150mが剣山状態。
「阿鼻鉢特摩」
「摩訶鉢特摩!!」
羅刹と夜叉が修羅に続き呪文を
唱えると辺り一面氷の世界。
その寒さたるや半端では無く
瞬きを一回する前に眼球が凍りつき
皮膚と肉が寒さに耐え切れず
裂け身体中の骨が砕ける程だ。
当然、俺達に被害は無いからな。
あんなもん食らったら俺達でも
死んじまうわ!
しかし…あ~あ~…。
今の閻魔達の攻撃で中間地点に居る
貴族や私兵、全部死んじまった…。
「魔法って怖いわぁー」
そう言う京香だが、まるで自分の
子供の成長を喜ぶ様な顔つきだ。
序でに言うが、閻魔・修羅・羅刹・夜叉は
別名、獄卒と呼ばれていたりする。
「バベル、全部殺したみてぇだぜ?」
「おぉ~、派手に殺ったな!
プーもだが、お前達も俺達より強くなった
じゃねーか。嬉しい事だな!ハッハッハッ」
そりゃそうだろ。
閻魔一人でも下手したら国を落とせる
戦力なんだからよ。
「バベル様!滅相も在りません!
我々は個々の力はありますが、まだまだ
バベル様達の様な戦争の玄人には
敵いません!」
閻魔が言う。
「左様です。我々などバベル様達から
すれば雑草の様な物。
貴方方の兵器と技術を使用されれば到底
太刀打ちなど不可能です」
修羅が、そう言うと羅刹と夜叉の
二人も頷く。
「はっはっはっ!確かに何でも有りの
殺し合いなら、お前達でも皆殺しに
出来るけどな。
まぁ、間違っても、そんな事無いと思うが」
だよなぁ~。いくら閻魔達が強くても
それは此処の世界での基準だ。
いや、あの魔法の威力ならバベルの
世界でも驚異かも知れんが、それ以上に
強力な破壊兵器が存在するからな。
ぶっちゃけ、毒ガスなんて撒かれたら
それで全部終わるし…。
さぁて今の所は順調かねぇ。
貴族の私兵共も殆ど終わっちまったし
後は別に大丈夫だろ。
「よぉ、お前等、後の事は任せたぜ」
俺の後ろに居るアテゴレ地区の
ゴロツキ達に命じる。
「「「任せな!ガル坊!!」」」
「坊って呼ぶなっーの!」
◇ ◇ ◇
「きゃああ!助けて下さい!?」
「お願いします!命だけは!!」
バベル達とガルが去った後に響き渡る
叫び声。
「おーい!女子供は手ぇ付けんなよ?」
「わーかってるって!ちょっと楽しんでる
だけじゃねーか!ぎゃははは」
平民地区の…何て言ったかな?
名前忘れちまったよ。こんな場所に
入るのも初めてなんだからよ。
覚えてる訳ねーだろ。
まぁ…あれだ…丁度、平民街の中間地点って
所だ。
今は、そんな場所で好き放題暴れてる。
バベル様達が本格的にファルシア大国を
ぶっ潰そうとして何処も畏も火の手が
上がって国は滅茶苦茶だぜ。
くくっ!最高に、おもしれぇ!
何でかって?
そりゃあ、そうだろ。
俺達みてぇな掃き溜めの住人が貴族だの
何だのと着飾った馬鹿共を好きな様に
甚振れるんだぜ?
こんな楽しい事ねぇだろ!
「おい!たんまり酒が隠してあったぜ!」
「こっちには腐ってねぇ食物だ!」
他の連中も楽しんでる。
壊し、燃やし、盗み、殺し。
やってる事はスラムと何ら変わり映え
しねぇが規模が違うし身入りが全然違う。
ホント最高だ。
「此処で抵抗する奴は皆殺しにしたんだ。
酒盛りでもするか!?」
俺の言葉に歓声を上げる仲間達。
どうせ、此処等一帯はバベル様達が敵を
全滅させたんだ。
今更、敵なんて来ねぇだろ。
美味い飯に美味い酒!
ゲハハ!良いねー。後は、欲を言えば
女が欲しい所なんだがバベル様に女は
大事な商品だから手ぇ出すなって言われてるからなぁ。
それだけは仕方ねぇか…。
前にバベル様の商品に手ぇ出そうとした
馬鹿がナマス斬りにされたって聞いたからな。
おぉー、こわっ!
せめて、女の敵とかなんかいれば
こっちからも手ぇ出せんだけどなぁ。
そう思いながら酒で喉を潤すゴロツキ。
「…なんだぁ?あいつ」
あん?
ゴロツキの一人が声を上げたので
全員が声を上げたゴロツキの目線の
方向に目をやる。
其処には一人の少女が立っていた。
「なんだぁ?てめぇ」
マジで何だ?あいつ。
こんな状況で一人で俺達の前に現れやがって。
此処等辺の連中は大体縛り上げてたのに
まだ居たのか?
「へへっ、よく見たら相当上玉だぜ?
あの女」
仲間の一人が舌なめずりをする。
確かに、言われてみれば上玉だな。
髪はボサボサだが漆黒の様な長い髪。
健康的な褐色肌に大きな蕾が服を
押し上げて強調してやがる。
歳は…15って所か?ギリギリ成人って
所かな。
多少、眼付きは悪いが、それでも
かなりの美人に入るだろう。
身体に彫られた奇妙な刺青は引っかかるが…。
へへっ、この女を取っ捕まえて
バベル様に献上すれば、それなりの地位に
就かせてくれるかも知んねぇな。
他の連中も同じ事を考えて居たのか
腰を上げて少女に近付く。
「嬢ちゃーん。こんな所に居たら
あぶねぇぜぇ?優しくしてやっから
こっちに来いやぁ」
あっ!くそ!あの野郎、抜け駆け
しやがって!
俺が先に声掛けようとしてたのによ。
下卑た笑みを浮かばせながら
少女の肩に触れようとするゴロツキ。
ドシュ!
「ぐあああああああああ!!」
行き成り男が叫び始めると
腕から夥しい量の鮮血が地面を
赤く染める。
はっ!?一体何が!?
あ、あいつ手が無ぇぞ!何がどうなって!?
「喧しい」
ドシュ!
少女の腕が一瞬消えたと思ったら
先程まで叫んでいた男の首がズリ落ちる。
その光景に眼を見開くゴロツキ達。
良く見てみると少女の手には湾曲した
大きな刃物が握られ血が滴り落ちていた。
その瞬間、ゴロツキ達全員が一斉に
各々の武器を構える。
敵!?この女は敵だ!!
「野郎共!ぶっ殺せ!!」
俺が叫ぶと十数人の男達が武器を振り上げながら
向かっていく。
へっ!馬鹿が!!大人しくしてりゃあ
死にはしなかったものを!!
散々甚振って殺してやるぜ!
「直ぐに殺すなよ!甚振りながら殺し…へっ?」
言葉が止まった。
止まっちまったんだよ…。
だってさっきまで離れた距離に居たんだぜ?
なのに…何で俺の目の前に立ってんだよ?
そう思いながら少女を襲うはずだった
男達に眼を向けると……全員死んでいた。
しかも全て首を撥ねられて。
「な、なん…だ、てめ…」
「我が質問する以外の事を喋るな。
一言でも無駄口を叩けば首を落とす」
15やそこらの少女から信じられないような
冷徹で冷たい言葉に脂汗が吹き出る。
「バベルと言う者は何処に居る?」
「バ…バベル様は…この先に居る筈だ」
俺は素直に答えた。
答えなきゃこの女は確実に俺を殺す。
それだけは確信出来た。
何故かは解らねぇが、この女からは
バベル様達と同じ様な匂いがする。
「あんた…一人でバベル様と戦う気かよ?
あの人間にはスゲェ強い護衛が腐る程居るぜ。
そ、それに…此処にも、まだ俺の仲間が
大勢居る…。へへっ、見逃してくれたら
あんたには手を出さねぇよ」
俺の精一杯の虚勢にも顔色一つ変えない少女。
「仲間と言うのはアレの事か?」
少女が、そう言うと何処に潜んで居たのか
何人もの黒装束に身を包み、女同様に
奇妙な刺青を彫った男達が姿を表す。
「……マジかよ…」
その男達を見た瞬間、俺は青褪めた。
首を持ってる…。
しかも何人もの首を男達全員が
持ってるんだよ。
「…何者だ…よ…てめ…」
「黒狼」
ドシュ!
あぁ…思い出した…。
戦場に現れる死神達の噂を…。
あらゆる戦地で突如現れる傭兵集団。
黒狼一族。
そいつ等は全員黒装束で奇妙な
刺青が彫ってあるって……。
ま…さか……戦場の…匂い…を…
嗅ぎつけ………て…………。
ゴロリッと転がる男の首を見向きも
しない少女の前に一人の黒装束が
近付いて片膝を地に着ける。
「長、この辺りに居たゴロツキ全員
始末致しました。ご指示を」
「バベルの首を撥ねろ。行け」
「「「御意」」」
まるで霧の様に先程まで居た男達全員が
姿を消す。
「我等一族、復興の礎となるがいい」
そう言葉を発し少女も姿を消すのであった。




