閑話 「ガストラとウィンザー」
もう少しで、ほのぼの回が終わりますヽ(´▽`)/
私の小説をブクマしているコアな皆様、もう少しお待ち下さいヽ(*´∀`)ノ
ファルシア大国の外れに有る深い森。
木々が生い茂げ緑葉が広がり
暑い日差しを遮ってくれる。
そんな森の中を一人の人間が
歩いている。
「ふーっ、この辺で良いっすかね」
愛用のサングラスを外し背負っていた
荷物を地面にドサッと置く。
んふふ~、今日は久しぶりの
キャンプっすねぇ。
いやぁ~、最近、忙しくて中々纏まった
休日を取れなかったけど、バベルさんから
一週間の休みを頂いて趣味のキャンプに
来たっすよー!
しかも異世界でキャンプとか心躍りますね!
まだまだ、この世界は発展なんかしてないから
自然も豊かで最高っす。
ガストラは森の空気を思い切り吸い
ゆっくりと吐き出す。
はぁ~!新鮮な空気っすね。
近くに水場もあるみたいだし、
此処を拠点としますか!
ふんふふーん!
鼻歌交じりに落ちている枝を拾い
ながら同時進行で拠点となる住まいを
作っていく。
キャンプと言えばテントやタープなんかを
使えば良いんすけど、自分は、その場に
ある物を知恵と工夫で製作っすよ!
そっちの方が楽しいってのも有りますし
自分好みにアレンジ出来るから便利
なんすよね。
ガストラは手斧を使用し
倒れた大木を加工し植物のツルで
器用に縛っていく。
これを、こーして…ほい!完成。
ふぅ…と息を吐いているガストラの前には
小さな家屋が出来ていた。
見た目で言えば遊牧民達が使用する
ゲルと言われている住居に似ている。
本来なら、ヒツジの毛でつくったフェルトを
被せるのだが、そんな物無いので葉が付いた
枝を何層にも重ねてある。
後は、室内に大きな葉っぱを広げて
焚き火が出来る様に少しスペースを
空けて……おぉ!良いじゃないっすか!
これなら中で料理出来るっすねぇ。
さぁて、水場で水汲んで一旦、休憩
しましょうか。
2分程、歩くと目の前に小川が流れていた。
手で掬うと水は冷たく澄んでいる。
水量も充分っすね。
まぁ、一週間ぐらいしか居ないんすから
多少、水量が少なくても問題無いんすけど。
それに、滞留もしてないし水が
腐る心配も無いっす。
サバイバルで水の確保は基本。
様々なやり方があるが一番は水源を
見つける事。
それが出来なければ、植物から採取したり
朝露を集めたり、湿った土を絞ったりと、
まぁ、色々有ります。
何かしら一つでも覚えとくと身を
助けますよ。
さぁて、煮沸してコーヒーでも
飲もうかなぁ。
ガストラはケトルで水を汲み
拠点に歩いていく。
ガサッ!
ザッ!ジャキッ!!
不意に草むらから音がし反射的に
2歩後退し肩に背負っていた
フルオートショットガンを音がした方向に
向ける。
此処は魔物が闊歩する異世界だ。
何が出てくるか解らない状況なので
護身用にフルオートショットガンと
拳銃。
それと狩猟用の狙撃銃を今回のキャンプで
持って行っている。
魔物っすかね?
食える魔物なら良いんすけどねぇ。
鋭い眼付きで銃を構えていると
同じ方向から、また音がする。
どうやら、近づいて来ている様だ。
獣の類じゃない。
二足歩行の足取りっすね。
ゴブリン?それとも、オーク系?
いや、異世界なら盗賊って可能性も
有るっす。
どちらにせよ、敵意が有る者なら
殺せば良いだけっすわ。
徐々に音が近づき、ガストラが引き金を
引こうとした瞬間。
「待て!待て!ガストラ!俺だよ!
撃つんじゃねぇよ!!」
草むらから出て来た者は、見知った
人物だった。
「ウィンザーさん!?」
◇ ◇ ◇
「どうぞっす」
「おっ、悪いね」
ガストラが対面に座っている
ウィンザーに煎れたてのコーヒーを渡す。
初めて見るドス黒い液体に顔を
顰めながら、ゆっくりと口に含ませる。
「ニッゲェ!んだよ!?これ!」
コーヒーの強烈な苦味で口を押さえながら
苦しんでいる。
「コーヒーって言われてる飲み物っす。
慣れれば病みつきになりすよ」
ガストラの言葉を聞き、疑惑の目を
向けるウィンザー。
「しかし、どうしてウィンザーさんが
此処に居るんすか?」
こんな森深くに一体なんの用っすかね?
それに、隣にあるデカイ猪みたいな
動物は何すか?
やっぱ、狩りとかっすかね。
ウィンザーの横に置いてある体長2m程の
大きな猪。
その猪には大きな傷が付いている。
「訓練と狩りだな!身体を動かさねぇと
鈍っちまうしよ。
んで、森に入ってブラック・ボアを
狩ってたらガストラの匂いがしたから
追ってみた」
ブラック・ボア…確かに真っ黒な
毛並みで中々綺麗っすね。
てか、匂いで追ってきたって
猟犬じゃあるまいし、そんな事出来んすか?
後、自分の匂いって言ってたけど…。
まだ、加齢臭とか出る年齢じゃないと
思うんですけど…。
ガストラは、自分の匂いを確かめる様に
腕をクンクンと嗅いでみる。
「あっはは!ガストラ~、忘れてんのかい?
俺は獣人だぜ?
人間の嗅覚よりも獣人の嗅覚の方が
鋭いんだよ。
中でも俺は騎士団で一番鼻が
効くからねぇ」
ケラケラと笑いながら得意気に話す
ウィンザーにガストラは苦笑いする。
「しかし、ガストラも変わってるね。
何を好き好んで、こんな森で野営
なんかしてるんだい?」
そ、そんなに変っすかね?
自分的には健全な趣味だと思うんすけど。
「自然が好きなんすよ。
自分達が居た世界では中々ゆっくり
出来ませんでしたし、こんな綺麗な
森も無かったっすから」
「ふ~ん、そんなもんかね?」
「そんなもんっす」
その言葉を最後に、お互い沈黙する。
いやぁ…こう言っちゃなんすけど、
結構気まずいんすよね。
武闘大会では、自分、鼻噛まれてるし
イス区域制圧の時は、見損なったって
言われてるし…。はぁ…。
ガストラは沈黙を誤魔化す様に
懐から煙草を取り出し火を着ける
「あ…、アンタも吸うんだ?
ガストラが吸う所なんて初めて見たよ」
「たまにしか吸わないっすからね」
禁煙しようと何度か頑張ったけど
出来なかったんすよねぇ。
まぁ、いつ死ぬか解らない仕事してんのに
健康とか気にしても意味無いっすし。
そして、また沈黙。き、気まずい…。
何か話題を…、あっ、ウィンザーさんが
狩ってきた猪を料理するとか?
おぉ!それで行こう!
「ウィンザーさん、腹減ってません?
良かったら、そのブラック・ボア俺が
料理しますよ?
調味料とか色々あって美味しく出来…」
「ガストラ」
「…はい?」
自分の言葉を遮る様にウィンザーさんが
声を掛ける。
「嫌だったら答えなくて良いんだ。
…その…ガストラも、ボスみたいな…、
辛い経験をしてきたのか?」
…急に、そんな事を言われたもんだから
一瞬、思考が停止する。
「俺は、ガストラの事を何も知らない。
どんな過去があったのか?
どんな経験をしてきたのか?
子供時代は?初恋は?
楽しかった事、悲しかった事、
色んな事を知りたい。
もう…何も知らない癖になんて
言われたく無い」
あぁ…ボスさんの事件っすか。
確か、あの時、バベルさんが珍しく
マジ切れしたらしいんすよね。
それで、騎士団の方々も完膚無きまで
叱られたとか。
でもなぁ…自分の過去なんてボスさんに
比べたら……。
「いやいや、そんな真剣に捉えなくても!
まぁ、ボスさんの時は仕方ないですし
自分の過去なんて聞いても面白くも
何とも無いっすよ。
そんな事より、もっと楽しい話題を…」
そう言って話しを濁そうとしたのだが、
ウィンザーの瞳は真っ直ぐガストラの眼を
見つめていた。
ぐっ…、こーゆう真っ直ぐな眼は正直
苦手なんすよね。
なんか全てを見透かされている様な
気持ちになるっすから。
ガストラは堪らず眼を背けると…。
「そんな事じゃない」
「えっ!?」
「俺にとっては、そんな事なんかじゃない!
好きな奴の事を知りたいと思うのは
普通だろ!?
……けど、ガストラが答えたく無いなら
別に良い。…諦める」
騎士団一男勝りで身体も大きい
ウィンザーが尻尾を膨らませて
顔を紅潮させながらプルプルと
震えている。
反則でしょう。
そんな子猫みたいに眼を潤ませながら
そんな事言われたら断れないじゃないっすか…。
仕方ないっすねぇ。
「あぁ、いいぜ。話してやるよ」
いきなりガストラの口調と声質が
変わり眼を丸くするウィンザー。
「んな、ビビんなよ。これが俺の素だ。
ガルや他の連中には言うなよ。
素を出して話すなんてバベルさん、ボス、
京香以外ウィンザーが初めてなんだからよ」
「いやいや!アンタ口調が変わりすぎよ!?
へっ?これがガストラの素なの!?」
「んだよ?幻滅したか?」
「幻滅なんてしないけど…」
ウィンザーは、ガストラの余りの
変わり様に驚きを隠せないでいた。
当然だ。
今までのガストラは礼儀正しく
優しい口調でバベル達のグループでは
一番まともな感じだったのだ。
なのに今のガストラはまるで
チンピラの様だ。
驚くなと言われても無理だろう。
「なら、良いけどよ。
あぁ、それと俺の話しを聞くなら
条件がある」
急にガストラから言われた条件付きと言う
言葉にウィンザーはゴクリと喉を鳴らす。
「ウィンザーの過去も全部教えろ。
子供時代の話、初恋の話。
どんな家庭で育ったのか?
苦手な科目、好きな食べ物、
騎士団時代の話、楽しかった事、
苦しかった事、初体験は有るか?
何処が感じるか?性感帯は?
とにかく全部言ってもらうぜ」
「な、何で、そんな事まで言わないと
いけないんだよ!!
別に俺の事なんて良いじゃん!!」
「好きな女の事を知りたいと思うのは
普通だろーが」
ウィンザーは先程、ガストラに言った事を
そのまま自分に返されて血液が沸騰したかの
様に全身が熱くなる。
「此処には2人しか居ねぇ。
だから、俺も素で喋ってんだ。
何も恥ずかしくねぇだろ」
「………解った!俺も女だ!
喋ってやろうじゃねぇか!!
…た、只さ……えっと…」
「んだよ?」
「……何処が感じるとか…そんなの
自分で……………探せ…よな…」
消え入りそうな声だがハッキリと
ガストラの耳に届いた。
その言葉を聞いたガストラは小さく
笑った後に呟いた。
「…オリビア…俺の事を好きになって
くれるモノ好きが居たぜ…」
そして2人は朝日が昇るまて語り尽くした。




