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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
153/248

バベルの世界「雑魚」

バベル達がイス区域内で

大暴れしている最中、国から

外に出る事が出来る検問所でも

動きがあった。


「はぁ…暇でやんすねぇ~」


そう独り言を呟く身長2m程の

魔物が一匹。山王だ。

その周りにも、同じ魔物が数人居り

検問所の前に居座っている。


「もう挑んで来る奴は居ないでやんすか?」


山王が門に居る者達に聞くと

一同が青ざめ首を横に振る。


はぁ…ちょっと、初めから飛ばし過ぎた

みたいでやんすねぇ。

しかし、人間より強いなんて言われている

獣人共も全然対した事無いでやんす。

正直、拍子抜けっすわ。

こんな雑魚共がバベルの旦那や剣崎の姉さん達に

喧嘩売るなんて愚かの極みでやんす。

馬鹿でやんすよ、馬鹿。


そう言いながら腰を下ろす山王。

椅子など無い。そこにあるのは

山積みにされた屍の山だ。


腕に自信が有る冒険者、兵士、商人から

ゴロツキまでもが無残な姿で積まれていた。

門に着いた最初の頃は、山王を魔物と

判断して討伐しようとする冒険者が

何人か居たが全員の首を撥ねて撃退。


そして、山王の目的として此処から

誰一人出さないと口上を述べてからは

早かった。

魔物が喋る事事態に最初は驚いていたが、

国から出れないと聞いた者達が激怒し

山王達に襲いかかる。


元々危険度で言えば山王はAランクの

魔物。

それが、京香達の部下になり

この世界では存在しない技術と訓練を

経て今では一国を驚異に晒す事が

出来ると言われているSSランクにまで

上り詰めているのだ。

数だけの有象無象が勝てる筈も無い。


しかも、山王の部下のバブーンも

数人引き連れているのだ。

因みに、山王の部下達は全員Aランク。

勝ち目など無い。


100人程、切り刻んだ所で

山王達への襲撃は収束した。

京香から貰った鍛造ナイフから

ポタリッ…ポタリッと血が

滴り落ちる。


これだけの人数を斬っても刃零れもせず

形状を保っている。

それどころか、斬る事に切れ味が

上がっているのでは無いかと思わせる程、

艶やかさと鋭さが有るナイフ。


変わった形状の刃物で、ククリと

呼ばれる湾曲した形状の刃物だ。

これは、元々京香が住んでいた世界の

戦闘民族のグルカ兵が好んで使用している

ナイフをベースに鍛造した一本物だ。


大きさも山王に合わせて有る為に

かなりの大型になっている。

山王は、このナイフを手にしてからは

血の滲む様な訓練をして今では

バベルの部下達の中で5本の指に

入る程のナイフ使いになっている。


そんな山王が戦い現在に至るのだ。


くわぁぁ~と大きな欠伸をし

眼を擦る。


つまんねぇでやんすねぇ。

これなら、剣崎の姉さんに

付いていった方が楽しかったと

思うんでやんすけど…バベルの旦那の

指示じゃあ仕方ないでやんすよね。


でも、暇でやんす~。

誰か、強い奴とか居ないでやんすか?


そう思いながら自分達の

目の前に居る雑魚共に視線を

向けると一人だけ、おかしな奴がいた。


フードを深く被った少年とも少女とも

見える獣人。

他の連中に紛れては居るが

見る者がが見れば明らかに

異質な者。


足運び、目配せ、身に纏っている雰囲気。

そして、血の匂い。


スラム街なのだから血の匂いが

する連中なんて大勢居るが

この獣人は匂いが濃すぎる。

多分、かなりの人数を殺している奴だと

山王は直感した。


「そこの獣人、前に出るでやんす」


急に魔物に指を射されたフードを被っている

獣人は一瞬ビクッと身体を震わせながら

おずおずと前に出て来る。


「フードを取って顔見せるでやんす」


「な、何でですか…?」


ふーむ…声からして多分、男でやんすね。

けど、女とも言える様な可愛い声だから

正直、自信無いでやんす。

バベルの旦那なら一発で見破ると

思うけど、自分もまだまだっすねぇ。

まぁ…洞察力やら何やらで言えばバベルの

旦那は異常なんすけどねぇ。

けど、今は、こっちを集中でやんす。


「気になるからでやんす。

 バベルの旦那からは怪しい奴は全員

 生け捕りにしろと言われてるでやんす。

 お前、兵士とも冒険者でも無い感じっす。

 どちらかと言えば、暗殺の訓練を

 詰んだ暗殺者っぽい感じでやんすねぇ」


山王の言葉に周囲が響めく。

一つは、この魔物がバベルの指示で

動いている事。

もう、一つは背格好から見ても

10代前半にしか見えない子供が

暗殺者の疑いが有ると言う事でだ。


「そんな!?暗殺者なんて酷いです!

 僕は、只の商人見習いです!

 近くの村に行商に行く所だったんです!」


「腰に差して有る短剣、随分

 使い込まれてるでやんすね?

 護身用でやんすか?

 それにしても、靴や腕にも

 仕込みナイフを仕込んでるなんて

 随分、物騒でやんすね」


その言葉に、フードを被った獣人が

身を強張せる。


「怪しいんで拘束するでやんす」


山王は立ち上がりナイフを取り出す。


「ま、待って!!僕は、嘘なんか!?」


獣人の少年が弁明しようとするが

山王は、その言葉を無視して

走り出し一瞬で間合いを詰め、

横一閃にナイフを振るう。


フォン!!


山王がナイフを振るが空を

斬る音だけが周りに響く。


「…やっぱり、只者じゃ無いでやんすね」


ナイフを持っている山王の太い腕に

3本の釘の様な物が突き刺さり

地面に血が落ちている。


「うっわ!本気で最悪!いきなり

 襲うとか無しっしょ!?

 しかも、僕みたいな可愛い子相手にさぁ!

 魔物が調子に乗んなよな~!」


余りの言葉使いの変わり様に

周辺にいる者達の動揺が隠せない。

そんな事、お構いなしに深い溜息を

吐きながらフード付きの外套を

脱ぎ捨てた少年。


少年の顔は、まるで少女の様に

中性的な顔立ちで女装をすれば

女性と勘違いしてしまうのでは

無いかと思う程の美少年だった。


長い髪は一つに束ね、目は大きく

澄んだ海の様なブルー。

日に焼けた肌に引き締まった身体。

そして、眼を引くのは頭部から出ている

2本の角。

ドラゴニュートの特徴的な角が

生えていた。


「ドラゴニュートでやんすか。

 この辺りじゃ珍しいでやんすね」


ドラゴニュート。

確か、辺鄙な場所に住んでいる

戦闘民族でやんすね。

荒事を得意としている奴らで

場所によっては蛮族なんて

呼ばれてるでやんす。


「そっちこそ、珍しいじゃん。

 人間に尻尾振る魔物なんて

 初めて見たぜ。

 マジ、ダッセ!」


「言葉遣いが随分悪いでやんすねぇ」


見た目は絶世の美少年から出るとは

思えない程の口の悪さに山王が苦笑いする。


「うっせぇよ!口の悪さは元々だっーの!

 つーか、早く国外に出たいから

 もう、殺して良い?」


そう言葉を発した瞬間、少年の姿が

消えた。

実際は、物凄い速さで移動した

だけなのだか。


次に姿を表した時は、既に山王の

背後に居り首筋にナイフを突き立てようと

している所だった。


ガキンッ!と既の所で山王がククリナイフで

少年のナイフを弾く。


「へへっ!中々やるじゃん!

 でも、こんなもんじゃねーぞ」


速度を落とす事無く山王に攻撃する少年。

攻撃が弾かれれば一旦距離を取り、死角に入り

また攻撃。

一切手を休める事無く攻撃は続き、

気が付いた時には、山王の体には

うっすらと傷が、いくつも付いていた。


「はんっ!対した事ねぇな。

 強い強いなんて言われてるみてぇだけど

 所詮、魔物じゃん。

 はぁ~、やっぱ、人間と殺ってみたかったなぁ。

 なぁなぁ!

 俺と人間…なんて言ったかな。

 ケンザキ?だっけ?後、ボスとガスなんちゃらと

 戦ったら、俺とどっちが強ぇ?

 やっぱ、俺かな?なぁ、なぁ!」


「十中八九、アンタが雑魚でやんすよ」


「…あっ?」


無邪気な顔で山王に問い掛けていた少年の

顔が怒りに染まる。


「僕が雑魚?その雑魚に手も足も出ねぇ

 テメーは何なんだよ?カスか?

 もう、いいや。さっさと殺すから」


少年がナイフを構え足に力を込めて

移動しようとした瞬間…。


ドッゴ!!


「ゲッハァ!?」


少年が急に吹き飛んだ。


「ゲホッ!ゴッホ!?ッッ!?」


一体何が起こったのか理解出来ずに

少年は口から血を吐き腹部を抑えている。

周りで見ていた者達も何が起こったのか

全く解らない。


「軽いっすねぇ。ちゃんと食ってるでやんすか?

 こんな攻撃、自分の主ならビクともしないで

 やんすよ?」


「なんッッゲホッ…だと!?」


はぁ…めっちゃ睨んでんすけど

威嚇のつもりなんすかね。

自分からしたら子猫が必死に威嚇してる

ぐらいにしか見えねぇでやんす。

こんなレベルで剣崎の姉さんと戦う?

馬鹿も休み休み言って貰いたいでやんす。

ボス教官やガストラ教官より強い?

舐めてるでやんすか?この糞餓鬼。


「アンタみたいな雑魚が、あの3人と戦うなんて

 笑い話にもならないでやんす。

 ハッキリ言って大馬鹿でやんすよ。

 純粋な殺し合いなら、あの人達に

 勝てる連中なんて居ないでやんす」


山王の言葉に信じられないと言う様な

顔になっている少年。


「当然でやんす。それに、あの人達

 滅茶苦茶怖いでやんすよ~?

 もう雰囲気が全く違うでやんすから。

 それに比べるとアンタなんて

 話にならないでやんす。

 雑魚っす!雑魚」


ボス教官もガストラ教官も素手なら

もう勝てないなぁ…なんて笑ってたけど

全然、勝てる気しないでやんす。

ましてやボス教官から戦闘訓練を

受けてる連中なら教官に勝てないと

思うでやんす。絶対!

ガストラ教官が銃を手にしてたら

自分達なんて死んだ事にも気付かずに

頭を吹っ飛ばされるでやんすよ。


それに、剣崎の姉さんなんて……ブルルッ!

うぅ、寒気が…。


「ふ…巫山戯んな!俺が魔物より雑魚だと!?

 人間より雑魚だとぉ!!」


シュン!


憤慨した少年の目の前から山王が

消える。

先程、少年がやった様にいつの間にか

背後に回ったのだ。

ただ、違う事が一つ。


「ガアァァアアアアァア!!?」


辺りに響く叫び声。

ビチャビチャと吹き出る血。

それを見て笑う少年の左腕を

持つ山王。


少年は、片腕を切り落とされていた。


「自分の教官の異名知ってるでやんすか?

 【サイクロプスの狂人】と、もう一つが

 【腕斬りホバック】っすよ。

 そんな人の訓練を受けてれば腕斬りなんて

 十八番みたいなもんでやんすよ~」


ポン、ポンと腕を宙に上げている山王。


「どっち道、教官達に会えるんで

 安心して下さい。

 嫌って程、解るでやんす。

 そして、それ以上に恐ろしい方も

 待ってるでやんすよ。くっくっ」


山王は蹲っている少年の顔を

思い切り蹴り上げる。

まるで、糸が切れた操り人形の様に

宙に舞う少年。


ドチャっと鈍い音が聞こえ少年は

ピクリとも動かなくなった。


「はぁ、やっぱ、アンタ雑魚でやんすよ」

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