バベルの世界「犯人」
ブォンッ!ブォンッ!ブロロロ!
ゲインが支配しているイス区域に
2台の装甲車と4台の軍用トラックが
土煙を上げながら走っている。
その光景をイス区域の住人達は
奇怪な物でも見る様に見ている。
当たり前だよな。
鉄の箱が馬やユニコーンが引かずに
馬車の何倍もの速さで
駆け抜けていくんだからよ。
「此処が、スラムと平民街の出入り口だ。
閻魔は境界線で指示通り待機しろ」
「了解しました」
閻魔が、そう言うとゲインのアジトに
向かう道を逸れて平民街に通じる門の
場所へ方向を変更し走り去る。
「閻魔の奴、車の運転上手いな…」
「当然でしょー!私が直々に教えてんだから」
それにしても魔物が車を運転って
どうなんだ?
だって魔物だぞ?
この国の住人達ですら車なんて
運転出来ねぇし見た事無い連中が殆どだ。
俺だって運転出来るようになるまで
それなりに時間が掛かったんだぞ?
なのに、閻魔や山王達はアッという間に
乗りこなしちまってよ…。
釈然としねぇな。
「京香の部下は全員、優秀だからな。
しかも変な固定観念が無いから
新しい事は直ぐに吸収しちまう。
良い傾向じゃねぇか」
確かに、良い傾向だけどさ。
バベルの下に付いている魔物が全員
運転出来るってヤバいよな。
因みにだが、運転を覚えるのに
手間取ったのは、俺とリーとツヴァイだ。
意外かと思うがリー達は何気に、この世界の
常識が染み付いているせいで大分
苦労したな。
車を4台廃車にしたし。
「さて、山王。お前も指示通りな」
「了解でやんす」
閻魔達と別れて少し走った辺りで
次は山王が進路を変えて走り去る。
さっきから何故こんな指示をバベルが
飛ばしているかと言うと…俺も良く
解ってないんだよなぁ。
俺が知っている情報は、ゲインに
会いに行く事とイス区域に存在している
4つの検問所を固めるって事だけだ。
閻魔が向かった平民街に抜ける門。
イリスが支配しているイリオス区域に行く門。
俺達が通ったアアル区域に行く門。
そして、国の外に出る門。この4つだ。
この門一つずつにバベルの部下達が
向かっているって事ぐらいだな。
何でかは解らんが…多分、録でも無い事だろう。
そうこうしていると、俺達は目的地に着いた。
軍用車が停車した目の前には
スラムでは不自然な程、大きな屋敷が
立っている。
外壁は、石とレンガを積み木造部分は
綺麗に塗装してある。
豪華さは無いが洗練された建物だ。
そして、その屋敷の周りには柄の
悪い者達が俺達の周りを遠巻きに
取り囲む。しかも全員、武器を
手にして。
その中から鎧で全身を覆った一人の
男が前に出てくる。
「此処は、ゲイン様の縄張りだ。
出てけ」
言葉少なく単刀直入にいう男の眼は
不快感と敵意が見て取れる。
身長は2m程の大男。
髪は短めで頬に大きな傷が有り
背中に背負っている大剣は戦いで
使い古されている感じだが異様な
迫力が有る。
「ゲインを出せ」
大男の敵意を向けた眼付きに怯む事も無く
バベルも言葉少なく言葉を発する。
「消えろ。殺すぞ」
「殺ってみろ。ボケ」
大男とバベルの間の空気がドンドン
悪くなっていく。
他の住人達もピリピリしており
既に臨戦態勢だ。
因みに周りには100人は居る。
それに対し俺達は、バベル、京香、ガストラ。
そして俺だけだ。と言っても車内には
まだ、居るんだが…おっ!
出て来たな。
車内から出て来たのは身長2mを越し
筋骨隆々で着ている服がはち切れそうだ。
額からは2本の角を生やし手には
大木ですら一刀両断出来そうな程の
巨大な鉈を持っている。
ハッキリ言って鬼にしか見えねぇ。
「威嚇するかと思って車内に残させたが
そっちがその気なら受けて立つぞ?
なぁ、修羅、羅刹、夜叉」
「バベル様のご指示一つで此処に居る者共を
皆殺しに致しましょう」
低い声で大男と住人達を睨みつける修羅。
その余りにも凶悪な風貌と鬼と間違えて
しまう程の雰囲気で先程まで武器を
持っていたゴロツキ達の顔が青褪める。
「な…何だ…こいつ等!?」
「ゴブリンだよ。但し、ジェネラル・ゴブリンって
奴だがな。因みに全員な」
バベルの言葉を聞き大男が大きく
眼を見開く。
ゴロツキ達からも「ジ…ジェネラル…」言う声が
聞こえてくる。
ヒビるのも当然だ。
コプリンの中でも最強種と言われている
魔物が3体も目の前に居るんだ。
一体でも街を壊滅まで追いやる事が
出来る災害級の魔物達だぞ。
余談だが閻魔は、ジェネラル・ゴブリンの
覇王種となっているので、修羅達より強い。
閻魔、修羅、羅刹、夜叉。
この4体が居れば小さな国なら余裕で
滅ぼせる程の戦力だ。
此処まで来ると大国と言われている
俺達が住んでいる場所でも手遅れに
近い。
バベルが滅ぼすと言えば、それは
最早、比喩では無いのだ。
修羅が巨大な鉈。
羅刹が巨大な剣を2本持ち、夜叉が金棒。
京香から昔見せて貰ったニホンの
地獄絵図に居る鬼そのものだ。
流石の大男も顔色が悪い。
あんなデカい武器で攻撃なんてされれば
盾で防ごうが鎧を来てようが全く
関係ねぇからな。
多分、一瞬でバラバラだ。
「最後だ。ゲインを出せ。
断れば力尽くで引き摺りだすぞ」
「ッッ!?」
大男は背中に背負った大剣を抜き
構えた……その瞬間、大剣が一瞬で
粉々に砕け散る。
そして、いつの間にか間合いに入って居る
3人の鬼達。ゴブリンと言わないのは
もう、ゴブリンに見えねぇからだよ。
後、相手の武器を破壊したのは夜叉だな。
しっかし……全然動きと攻撃が見えねぇ~…。
あんな巨体なのに何っー動きすんだよ。
因みに、タイマンの肉弾戦なら
ボスもガストラも勝てる気がしなーい!と
言っていた。
殺しの技術云々じゃなくて全てが
規格外って言ってたわ。
序でに京香は、この3体相手でも無敗だ。
閻魔とは最近、引き分けになった。
間違い無く、この国で人間最強なのは京香だろう。
まぁ、純粋な力勝負ならって事だがな。
そんな3体が大男に武器を振り下ろそうと
した時に聞き覚えのある声が鳴り響く。
「止めなさい!!」
その言葉が聞こえた瞬間、金棒と鉈と双剣が
男の頭スレスレでビタっと停止する。
「バベルさん、アポを取って貰わないと
困りますね」
「ちと、急用だったんでな」
バベルの前に立つ、この男こそ
イス区域の支配者ゲイン・セドリックだ。
髪はサラサラで中性的なイケメンで
周りの女達も黄色い声援を送っている。
「急用ですか…なら、仕方ありませんね。
そこの君、此処にイスを持って来て下さい」
「おい、此処でか?」
「別に良いでは無いですか。それに此処に居る
者達も貴方達に興味があるようですし、貴方が
何の用で来たのかも聞きたいでしょう」
薄ら笑いを浮かべながら余裕の態度を
崩さないゲイン。
バベルも別に気にした様子も無く
ゲインの部下が用意したイスに腰掛ける。
「それで?ご要件は?」
「2つ聞く。勇者を匿っているなら出せ。
それと、俺の部下が殺された。
殺した奴等は此処の出身らしいが
何か知っている事が有れば教えろ」
「何の事か解りま…」
「言っておくがな」
ゲインの言葉を遮るようにバベルが
言葉を発する。
いつもの軽い感じの言葉では無く
とんでも無い圧力を掛けて。
「俺は仕事柄、様々な連中を見て来た。
商品が人間や獣人だからな。
だから俺は誰よりも相手を見る。
…嘘は、解るからな」
バベルは、ただ喋っているだけ。
なのに…この空気の重さは洒落にならない。
あの修羅達ですら、ゴクリッと生唾を
飲む音が聞こえてくる程、緊張している。
「答えろ」
「勇者は匿っておりません。
それと、此処の出身者がバベルさんの
部下を殺害したので有れば謝罪致します。
ですが、そこに我々が関わっている事は
絶対にありませんよ」
バベルは真っ直ぐゲインを見ている。
前にバベルから初歩的な嘘の見破り方を
教わった。
人は嘘をつく時に必ずと言って良い程
挙動に出ると言う。
例えば、目が左右に動く。瞬きが急に多くなる。
1秒以上目を閉じる。利き手の反対側の下を見ている。
他にも沢山あるが、こんな感じらしい。
バベルの様な熟練者になると見た瞬間に
それらを観察し瞬時に見抜く。
素人眼の俺から見てもゲインに不審な点は
見当たらなかったけど…。
バベルは、どうだろう?
「ははっ、嘘は付いて無いな」
「信じて頂いて良かったです」
そう言ってゲインが立ち上がろうとする。
「おいおい、折角、足を運んだんだぜ。
久しぶりに会話でもしよう」
バベルの言葉に対し、溜息を吐きながら
席に戻るゲイン。
そうか…ゲインは嘘を言って無かったのか。
ちっ!なら振り出しだな。
バベルは、ゲインと他愛も無い会話を
続けている。
どのぐらい時間が経っただろうか?
一通り会話を楽しんだバベルが立ち上がる。
「さて、そろそろ帰るが一つ頼みがある」
頼み、と言う言葉にゲインが
眼を細める。
「そんな警戒すんなよ。なんて事は無い。
少し喉が乾いてな…飲み物を買いに
行きたいんだが生憎手持ちがねぇんだ。
奢ってくんねぇか?」
「それなら、紅茶を出しますが?」
「流石に、お前の縄張りで出される
飲み物は怖くて飲めねぇよ。
だから、飲み物代だけ頼む。
別に良いだろ?
そんぐらい出してくれても」
全く…マジかよ。手持ちが無いからって
別の支配者から金をせびるってよぉ。
周りの連中も笑ってんじゃねぇか。
こっ恥ずかしな!
ゲインも呆れた様な顔をしていたが
所詮、飲み物代だ。
諦めたのかゲインが懐から
貨幣が入っていると思われる
コインケースを取り出した。
上等な蛇の皮を使用し、この世界の
技術では作る事が難しい見覚えがある
コインケースを…。




