バベルの世界「襲撃」
日が、傾きかけバルダットファミリーのアジトでは、
ポツポツと灯りが点き始めた。
アジトの建物は、元々この地区がスラムになる前の
貴族邸を占領したものだ。
だから、他のチンピラ組織達のアジトと違って
造りも、しっかりしているし見栄えも良い。
そんな立派な造りに、不釣り合いな二人の門番達。
いつもの事なのか緊張感も無く喋っている。
その光景を、スコープ越しに覗き狙撃銃を構える
ガストラが居た。
一瞬、息を止め、引き金を引く。
瞬間、スコープ越しで二人の門番が頭からパッと
血飛沫を上げ音も無く崩れ落ちる。
800メートル先からの消音器付き狙撃銃だ。
相手は、死んだ事も気づかないだろう。
「正面クリアっす。」
「引き続き監視。外に出た障害は、全て排除しろ。
こちらは、裏口から侵入する。」
「了解っす。」
この世界でも無線が使用できるのは、有難い事だ。
まぁ、電界と磁界が振動してるんだから使えて当然だな。
音や光に近いとイメージしてくれ。
しかも、傍受される心配も無いし、そもそも無線なんて
使ってるのは、俺達だけか。
「裏は、一人か…」
ハンドサインで、京香に指示を出し
あっという間に口と鼻を同時に塞ぎ喉笛を
切り裂いた。
そのまま、消音器付きの拳銃とカランビットナイフと言う
鎌状の刃物を構え、裏口から侵入する。
一人…また一人と音も無く始末していく彼らは、
軍人であり、一流の暗殺者だ。
力が人間の何倍も有り、過信している獣人を消すなんて
朝飯前だろう。
また一人、何やらブツブツと一人ごとを言いながら
こちらに、近づいて来る。
「くそっ!他の奴等、何処行きやがったんだ!?
孤児院の襲撃準備で忙しいって時によ!」
仲間が見当たらない事に、不満を吐き出しながら
歩いてくる獣人を口と鼻を塞ぎ横にある部屋に引き込み
気絶させる。
「身体の構造は、人間と殆ど一緒ね。」
「構造が違っても、殺すがな。」
「ボスは、相変わらずね。それに、戦闘になると
教官時代の口調に戻るの何とかしなよ。」
「癖だ。もう治らんし、切り替えに調度良い。」
ハァっと軽い溜息を吐き、気絶しているチンピラに
何やら色々物騒な物を取り付け始める。
取り付けが終了し、チンピラを起こす。
起きた瞬間、何故、人間が目の前に居るのかと思い、
声を上げようとしたが、ボスに口を塞がれた。
抵抗もしたが、人間とは思えない握力で塞がれ、
口の中が、鉄の味で一杯になってくる。
「お前に、大事な仕事をやってもらう。」
人間が笑ってる姿なんて、殆ど見た事無かったが、
こんなに、邪気を含み笑うのかと、心底
恐怖した。
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アジトの違和感に一番早く気付いたのは、ルイスだった。
いつもは、酒を飲んで馬鹿笑いしてる奴や
女を連れ込んでる奴が居るのに、今日は全然
見当たらないし、静かすぎる。
何か、変だ。
孤児院の襲撃で、出払っているのかと思ったが
その程度の襲撃なら7~8人で充分だし、
アジトには、30人近い仲間がいるんだ。
なのに、この静寂。
一応、シバァールの兄貴に報告する為に、一番
奥の拷問専用部屋に向かう。
「シバァールの兄貴。ちょっと失礼…うおっ!
……すげぇ声ですね。」
拷問部屋を開けた瞬間、ガルの咆哮が耳を駆け抜ける。
「五月蝿くて仕方ないわ。あら?ルイス、
どうしたのかしら?」
クウの姉御、相変わらず刺激的な服装と身体だ。
シバァールの兄貴に振り向いて欲しいからって
刺激が強すぎねぇかな。
確か、シバァールの兄貴は、おしとやかな格好が
好きって酔った勢いで言ってたな。
今度、内緒に姉御に教えてやるか。って、
話がズレちまった。
「いえ、ちょっとシバァールの兄貴に
報告があって…大した事じゃないんですが。」
「どうした?」
「ちょっとアジトの中が変なんです。
いや、自分の考えすぎかもしれないんすけど、
静かすぎるって言うか…何か違和感が
あるんですよ。」
頭をポリポリと掻きながら、何とも言えない表情を
するルイス。
「確かに、静かすぎるって言うのは、引っかかり
ますわね。シバァール様。」
無言で頷くシバァール。
ルイスは、戦闘は全く駄目だが、こう言った事には鼻が
効く。
実際、何度か助けられた事もあるから、軽視
出来ない。
「少し見てくる。お前達は、此処に居ろ。」
「かしこまりました。」
「はい!」
ルイスが、入ってきた扉に歩を進めるとキィっと
ゆっくり開いた。
そこには、カチカチッと音がし見慣れない物を括り
つけられ首を抑えているシバァールの部下が居た。
「ジァ…ゴボッ…ル、ザン…。」
上手く声が出せないのか?と思い良く観察すると、
手で抑えている首からは少しずつ血が吹いており
両目は潰されている。
悪寒が走った。
コレを、やった奴は俺の居る場所にコイツを送り込む
為に、やったのだ!。
そして、後をつけて来た!!。
近くに、敵がいる!!?。
瞬時に思ったと同時に、ルイスが駆け出した。
「おいっ!!大丈夫か!?
すぐに、手当してやる!」
「待て!ルイス!近くに、敵が居るぞ!!」
「えっ?」
そう言った瞬間、閃光と今まで聞いた事の無い
爆音と共にドラゴンのブレスなんて比べ物に
ならないくらいの熱風が、シバァール達を襲う。
「か~ぎ屋~。」
起爆スイッチを手に持ちボス達が笑う。




