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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
144/248

バベルの世界「暗示」

「ッハァ!…ハァ…」


バベルが居た所から全力疾走で

走り何とかアアル区域まで着く事が

出来た。


くっそ!はぁ…はぁ…流石に獣人の

俺でも此処まで全力は、キッツイぜ!

騎士団でも、それなりに走ってたけど、

一切足を緩める事も無く走ったのは

久しぶりだぜ。


ウィンザーは汗が滴る髪を掻揚げながら

息を整える。


「人間達は、まだ着いてねぇか」


ウィンザーが周りを見渡すと

見知った者達だけ。

リヒト、レスタ、ウィルにグレイ、

セシル、キャスだ。


へへっ、そりゃそうか。いくらアイツ等が

化物じみた連中でも獣人の俺等に足で勝てる筈

ねぇもんな。


「つ、疲れましたぁぁ!」


「ふぅ…久しぶりに良い運動だったよ」


キャスが地面に腰を下ろし、グレイは

顔を伝う汗を拭う。


だらしねぇな…と言いたいが俺も結構

疲れたからな。今回は大目に見るか。


しかし…腑に落ちねぇ。

何でボス達は、あんなに焦ってたんだ?


「リヒト様、ボス達人間共は何故あんなに

 焦っていたのでしょうか?」


「…私も見当が付かない」


ウィンザーが疑問に思っていると

レスタが口に出してリヒトに問い掛ける。


確かに、そうだよな。

ボス達は何を焦ってたんだ?

どんな状況でも冷静で冷酷なボス達が

あそこまで鬼気迫る顔をするなんて

余程の事だろ。

やっぱ、バベルが何かヤバいのか?

まぁ、バベルがヤバいのは此処に居る

全員が知ってるけど戦闘面に関しては

全然対した事ねぇだろ。

つーか、雑魚だと思うしよ。


うーん…駄目だ!さっぱり解んねぇ!

人間が来たら直接聞いてみっか。


他の連中も全く解らないと首を

捻っているとキャスがボソッと呟く。


「……声…だと思います…」


「声?何か知っているのか?」


おっ?何だ?キャスの奴何か知ってんのか?

雰囲気から見てガル坊も知らない感じだったけど

知ってるなら教えてくれ。


「…私も正解かどうかは解んないです。

 けど、武闘大会の時…私は、バベルの声を

 聞きました。

 あれは…聞いちゃいけない声なんです…」


自身の服を掴みカタカタと小さく震えるキャス。

多分、武闘大会の事を思い出しているのだろう。


「そんなに、ヤベーのかよ?」


「ヤバいなんて物じゃないです…

 一時期私は先輩達ですら信用出来なく

 なったじゃないですか」


あぁ~、確かに、そうだったな。

キャスの奴、武闘会でバベルと戦った後は

精神状態が、かなり危なかった。

部屋に引き篭って俺達が入ろうとすると

烈火の如くキレて大変だったぜ…。

流石に、俺達に化物!って叫びながら

攻撃してくるのは凹んだけどよぉ。


「あの人間の声を聞くと見に見える物が

 嘘か真実か解らなくなるんです。

 世界全てが敵になって襲ってくる様な感覚…。

 倒しても倒しても起き上がって笑ってるんです。

 実際は現実じゃないんですけど…

 肉を潰した感覚、血の匂い…どれも

 本物としか言えないのに実際は何も無い。

 頭が、狂っちゃいそうになるんです」


うぅん?何か、いまいち解んねぇな。

バベルが声だけで相手を洗脳したり

自殺に追い込むってのは何度か見たが

キャスが言ってるのは、それとは違うって事か?


そんな事を思っているとボス達が

到着したようだ。


「っはーーー!焦ったわぁ!!」


「京香!説明しろって!?」


ガルを担いで全力疾走した京香は汗だくだ。

その後ろに居るボスとガストラも汗が

滝の様に流れているが直ぐに息を整える。


「ふんっ!不甲斐ないな、あの程度で

 バテるなど」


ウィルが胸を張りながら鼻で笑う。


「仕方ないでしょお…人間と獣人じゃあ

 身体能力が違うんだから。

 戦闘なら君等なんて瞬殺出来るけどねぇ」


ウィルが、ぬぐぐっと歯を食いしばっている。


はぁ…全くウィルの奴も変わらねぇな。

それに、全力で此処まで走れるなんて人間でも

相当凄い事だぜ。


「やっぱ、ウィンザーさん達は速いっすね。

 尊敬しますよ」


「ふ、ふん!あたりめぇだろ!

 んな事より、どうゆう事か説明しろよ!」


ガストラに褒められてプイッと横を

向きながら説明を求めるウィンザー。


「…そうだな。あそこの店で一息入れながら

 説明するか」


ボスが指を差した先には、テラス風に

なっている酒場だ。

リヒト達、全員が頷く店に入っていく。







◇ ◇ ◇




店に入り一番景色が良い席に座ると

直ぐに水が出てくる。

普通なら、スラムで綺麗な水なんて

高級品だがバベルの支配区域では無料だ。

バベルが井戸の技術を住人達に教え込んで

掘らせたので水には困らない。


「さて…説明だったな」


水の匂い等を確認した後に、口にするボス。


やっぱり、こーゆう所は警戒するんだな。

貴族や王族なら毒味役が居るから必要無いが

この人間達は普段から自分で見極めている。

はぁ…腐っても玄人って訳だ。


その後に煙草に火を着け話し始める。


「俺達の世界には、【ブアメードの血】って言う

 実験が行われていた事がある」


「ブア…メード?」


何だい、それ?

それが今回、逃げた事と関係あんのか?


「都市伝説なんて言われているが

 大戦中に実際に行われた人体実験だ。

 簡単に言えば、どれだけ出血させたと思わせれば本人が

 死んだと勘違いして死んでしまうのかという実験でな。

 実際、怪我をさせて無い状態で刃を潰した

 ナイフで腕をなぞる。

 当然、怪我もしないし血だって出ない。

 だが、血が流れているように感じさせる

 工作をして三分の一の血が流れたと言うと

 被験者はショック死したって実験だ」


えっ?どーいう事だ?相手は怪我もしてないし

血も流して無いのに死んだって?

そんな簡単に?


俄かに信じられないと言う顔をする

ガルと騎士達。


「人ってのは深い催眠状態に陥れば簡単に

 殺す事が出来る。

 しかし、それを行うには準備がいるし

 時間も掛かるだろう。

 それを踏まえた状態で話を聞け。

 バベルは、そんな強烈な暗示を喋るだけで

 相手に掛ける事が可能だ。

 普段、相手を死に至らしめる暗示が、

 それに近い。

 この状態の暗示なら敵対象限定なので

 俺達が掛かる事は無い。

 ……が、今回のは次元が違い過ぎる」


「どー言う事なんだよ」


机を指で、トンットンッと鳴らしながら

ガルが質問する。


「身体が自壊を選んでしまう程の現象を

 引き起こすのさ。勘違いでな。

 暗示、催眠、幻覚を同時に掛ける。

 これが、また最悪だ。

 ただでさえ強力な暗示を掛ける事が

 可能なのに更に強い幻覚まで見せるんだからな。

 実際はナイフで刺されていないのに

 刺されたと勘違いしてしまう程、

 リアルなんだよ。

 ナイフが腹に刺さっていく感触、流れ出る血、

 痛み、ナイフの冷たさ、どれも本物の様な

 感覚だが実際は刺して無い。

 だが、相手は腹から流血し死に至る。

 これが、どれだけヤバいか解るか?」


……おいおい、マジか?それが本当なら

冗談じゃねぇぞ!!そんなの相手が

強い弱いなんて関係ねーじゃねぇか!?

小難しい話は解んねぇけど、バベルが

とんでも無くヤバいってのは理解出来る。

そんな奴…倒すなんて不可能だろ。


リヒト達の方を見ると全員深刻そうな

顔をしている。

特にキャスの顔色が最悪だ。


「実を言うとな…俺も京香もガストラも

 一度だけ経験した事がある。

 そん時はナイフじゃなかったな…何て言えば

 良いか解らんが……。

 強いて言うなら見た事の無い化物が

 沢山出てた。バベルの姿形も化物。

 ハッキリ言うが二度と御免だ」


眉間にシワを寄せながら吸っていた煙草を

乱暴に消す。


「まぁ…現場を見れば解るだろうねぇ。

 どの道、バベルも迎えに行かねぇと

 駄目だしよ。

 ふふっ…護衛対象を置いて逃げるなんて

 本来、懲罰ものなんだがな」


そう言ってボスは席を立つ。


正直な気持ち疑い半分って所だが、

あのボスが此処まで言うのだ。

後は…現場を見て判断しよう。





◇ ◇ ◇


酒場を出たボス達の後ろを付いて行く

騎士団一行とガル。

現場が近付いていく度に何か胸騒ぎがする。

そして…血の匂いが濃くなってきた。


バベルが居る現場から300メートル程、

離れた場所に着くと異様な死体が転がっていた。


「うっっ!?」


上半身が無い。

正確には、上半身だけが弾けとんだ様な

死体が横たわっていた。


どうなってんだよ…。

一体、何をどうすれば、こんな様になんだ?


顔を顰めながら歩いていくと一体…二体と

徐々に数を増していく。

身体が弾け飛んでいる死体、半身を抉り

取られている死体、体中の骨が砕かれ

倍以上に伸ばされている死体。

どれも見た事の無い様な死体だらけだ。


そして…現場に到着。


現場では、木の椅子に座りながら

ラットラとファルルの死体を眺めている

バベルが居た。

それと、同時に胃酸が逆流し強烈な

吐き気と匂いに襲われる。


「うっぐ!?…オエェ!ゲェッホ!!」


「ううぅ…ォエ…」


「ッッ!?うっ…ぷっ!」


そこは、異常な光景だった。

小鳥の囀りが聞こえる程、静かな空間で

椅子に座る人間。

その人間が眺めているのは死体で

辺りに血霧が舞っている。

舗装もされていない剥き出しの土気色は

無く全て真っ赤に染まっていた。

建物も壁もだ。

まるで大量の塗料をぶち撒けた様な光景。

夥しい数の腕、足、肉片に臓腑。

判別が出来ない程、粉々になっている。

血、糞尿が混じった何とも言えない匂い。

血塗れの現場なんてもんじゃない。

地獄が、そこにあるかの様な光景だった。


そんな光景を目の当たりにし堪らず

吐いてしまったウィンザー、キャス、セシル。

他のメンバーも必死に我慢しているが

殆どが蹲ってしまった。

俺達より付き合いが長いガルまで

吐いているって事は相当なんだろう。


はぁ…はぁ…うっ…はぁ…。

な、何…だよ…何だよ、これ…。

巫山戯んな…こんなん、地獄じゃねぇか。

こんな…こんなのって無いぜ…。

吐き気が止まらねぇ…震えも止まらねぇ。


今の俺は、まるで新兵の様に恐怖で

顔が歪んでいるだろう。

そんな俺達を無視しながらボス達が

バベルに話しかける。


「はぁ…派手に殺ったねぇ。

 皆、死んじまってるよねぇ…バベル」


転がっている腕を拾い上げながら

断面を確認し放り投げるボス。


「そうだな。声が届いた範囲の連中は

 全員死んでる」


「相変わらず滅茶苦茶ね。バベってさ」


「超怖いっす!」


まるで日常会話の様に喋るボス達。


こいつ等…どうかしてる。

この光景を見て眉一つ動かさねぇなんて…。

完全に何処か壊れてる。

狂気って言葉は、こいつ等の為にある様な

物だ。

バベルは化物だ。それは、この光景を見れば

解る。けど、俺から見たらボスも京香も…

ガストラも化物だ。

壊れた人間達だ。こんな人間達に一度でも

勝てるなんて思った俺は大馬鹿だ。


勝てる訳無ぇ…。

訓練をしたからとか剣技を極めたとか

関係無い。

根底が違う…格が違い過ぎる。


こんな…恐ろしい人間が俺が生まれ育った

国に居る。

一体…俺達の国は、どうなっちまうんだよ…。

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