バベルの世界「基礎」
皆さん、新年*。:.゜アケマシテヽ(´∀`)ノオメデトウ゜.:。+゜
今年も、どうか宜しくお願い致します(*゜▽゜*)
「ぜぇ!はぁ!…はぁ!」
修練場の片隅で3列に並び
腕立て伏せをする団体が居る。
既に150回を突破しているが
生徒達の前に立っている教師役の
人間は一切辞めさせない。
「な、何で私が…こんな事を!」
「喋るな。もう50回やれ」
その言葉に絶望するが生徒達は
一切反抗しない。
いや、出来ないと言った方が良い。
ぐうぅ…何故、ウェディング子爵家の
私が、こんな肉体労働などしないと
いけませんの!
もっと優雅に礼儀作法や魔法こそが
私に似合ってるんじゃなくて?
なのに、今の私は泥塗れになって
野蛮な筋力強化と称した拷問を
受けていますわ。キッツイですわ!!
「お前等は自分の身体能力を過信し過ぎだ。
基礎体力が全く成ってない。
そんなんで俺達に勝てると思ってんのか?」
勝つか負けるかなんて私どうでもよくってよ!
とゆーか別に戦いも挑んでませんし、
完全にとばっちりでは無いですの!?
確かに、人間風情が私達の指導なんて
100年早いと思いましたし、身の程を
知りなさいと思いましたわよ。
なんなら、人間に実力を見せつけて
土下座させて頭をグリグリしてやろうとも
思いましたわ!私、お嬢様ですからね。
けど、私達の前に現れた人間を見た瞬間、
「あっ…無理ですわ」って思いましたの。
だって!だって!その人間って私が敬愛する
騎士団ウィル隊長をボコボコにした人間
なんですもの!
人間風情が騎士団隊長をボコボコですわよ!?
普通、信じませんわ!冗談にもならない
与太話だと思うのが普通なんですわよ!
で、実際会ってみたら怖いなんて者じゃない。
何ですの!?あの方!身長も高いし筋肉隆々で
傷だらけですし、眼付きなんて完全に
殺人者の眼ですわよ!!
あんな眼付きでひと睨みされたら私、確実に
気絶しますわ。
とゆーか、一回意識が無くなりました。
普通、私みたいな美人でエレガントな女性を
見たら蝶よ花よと煽てて犬の様に働くのが
普通だと思いません事!?
なので私、勇気を振り絞って物申したの。
「わ、私…もっと、ゆゆゆ優雅なな」
「死にたいか?」
ですわよ!?もっと、こう…ありません事!?
一言目に「死にたいか?」なんて言われたの
生まれて初めてですわ!
しかも、眼がガチなんですもの!
あそこで「殺れるものなら殺って…」なんて
言ったら今頃、天に召されてたでしょうね。
多分、言葉を言い終わる前に瞬殺ですわね…。
そんな事を考えながらも何とか指定された
回数をこなして地面に倒れこむ。
う、腕が…全然動かないわ…。
今まで、短剣より重い物など持った事の無い
私にしてみたら地獄過ぎますわ…。
他の生徒達も息を荒げて苦痛に顔を歪めていますし。
で、でも、これだけ頑張ったのですから
もう終わりですわよね!?
淡い期待を持ちながらチラッとボスに
眼を向ける。
「チッ!腑抜け共が」
舌打ち!?今、確実に舌打ちしましたわよ!
こんなに頑張った生徒達を目にしてあんまりです!
筋力強化をする前は、あんなにニコニコしながら
丁寧に教えてくれましたのに今では見る影も
無い程、辛辣で泣きそうですわ。
「お前等は瞬発力は中々だが、如何せん
持続する筋力が圧倒的に足らん。
その為に筋力の増加として訓練しているが
たかが200回程度でへばりやがって。
よく、そんなんで人間より優れてるなんて
馬鹿な事を思うもんだなぁ」
「ん、んだと!?」
ボスの言葉に我慢が出来なかったのか、
此処に居る生徒達の中で一番体格の良い
生徒が声を荒げる。
あらは確か…学年で一番素行不良な生徒ですわ。
普段から、ガラの悪い方達と付き合っていたので
近づきたくも無いと思っていましたけど、
中々、胆力がありますわね!
やっておしまい!
そして、私達に平穏をプリーズ!!
カギッ、ズドッ、メキャ!
ドサッ。
ほぼノーモーションで、声を荒げた生徒の
顎を突き上げ脳震盪を起こした瞬間に腹に一発。
その衝撃で体が前のめりになり頭を掴んで
口に強烈な膝蹴りを叩き込む。
あー…あ、あら…!?一体、何が起きましたの?
速すぎて全然解らなかったんですけど。
「もう一度言うぞ。
お前等の何処が優れているんだ?」
鋭い眼付きで生徒達を見回すボスに生徒達は
下を向いた状態で顔を上げる事が出来ない。
そして下を見ていると必然的に先程やられた
生徒が目に入る。
生徒はうつ伏せのままピクリとも動かず
血溜りが地面を侵食していく。
怖い…怖い、怖い。
何ですの?一体、何なんですの!?
私達が一体全体何をしたというんですの!!
ガタガタと震える生徒達を見ながらボスは
煙草を取り出し火を着ける。
「質問は無視か?なら一人ずつ聞くぞ」
そう言ってボスは生徒達に近付いていく。
余りの恐怖に誰しもが、自分の所に来ないで!
と願っていた。
そして、ある生徒の前に立ち止まると
ギャリン…と金属が擦れる様な音がした。
来ないで下さいまし…どうか…どうか…。
そう願いながら、ほんの少し目だけを上に
向けると見た事の無い靴と刃が欠けた
血生臭い鉈の様な刃物が目の前でユラユラと
揺れていた。
「ヒッ!?」
それを見て小さく悲鳴を上げる。
「お前等の何処が優れているんだ?」
ピタッと首筋に刃物を当たられ先程と同じ
質問をされる。
どどどどうすれば、良いですの!?
なんて答えれば正解かサッパリ解りませんわぁ!
獣人の私達が優れている事なんてズッと昔から
言われてきた事なんですし今更、そんな事言われても…。
けど、何かを答えないと本気で命が無くなりそう。
ええっと…んんっと…。
「わ…私達は人間様より、耳も鼻も良いですわ…
それに、えっと…体力も力も上ですし、その、
と、兎に角、身体能力が優れていますわ!」
「……」
何で喋らないんですの!?無言は辞めて下さいまし!
それとも…私…失敗しました?
殺されてしまうんですの?まだ、やりたい事も
沢山あったのに。あぁ、お父様、お母様
お許し下さい。
「そうだな。確かに優れている」
「えっ!?」
半分、諦めかけていた所にボスが言葉を
発し刃物を下ろす。
「お前等、獣人は嗅覚も聴覚も人間より優れている。
動体視力、力も人間より上だ。
だが、その優れた身体能力のお陰でお前等は
致命的なミスを犯している」
「ミス…ですか?」
「そうだ。お前達のミスは慢心だ。
優れた身体能力のお陰で録に訓練もせずに
人間に勝てると言う思い上がりが有る。
そのせいで基礎が全く出来ていない。
いくら身体能力が優れていようと基礎がしっかり
出来ていない者が実戦を経験している者に
勝てる筈が無いんだよ」
……確かに言っている事は理解出来ますわ。
今までなら特に訓練なんてせずとも人間に
負けるなんてありえなかったですし、戦いの
初心者の私でも余裕ですもの。
けど…そのせいで私達は無条件で人間に勝てると
思い上がり訓練も疎かにして来た事も事実。
実際、今、目の前に居る人間は私達が束になっても
勝てない程の強者だと思いますもの。
「俺は努力もせずに思い上がる様な奴等が
死ぬ程嫌いだし、そんな連中を何百と殺してきた。
人間を下等生物と言う貴様等も正直快く思っていない。
いや、正直ブチ殺したいぐらいだ」
ちょっと!もう少しオブラートに包んで
言って下さいまし!
そんな露骨にぶち殺したいとか言われる此方の身にも
なって下さいな!
汚い話オシッコが漏れそうですわ…。
「もし、人間に舐められたくないんなら
死ぬ程、努力しろ。お前達が人間に無条件で
勝てる時代は俺達が来た瞬間、終わったんだ。
努力し考え、工夫しろ。
俺が教えられる事は、それだけだ」
努力し考え、工夫…ですか。
今まで考えた事も無かったですわね。
この人間も私達が想像出来ない様な努力を
してきたのかしら?
いえ、間違い無く努力して来たのでしょうね。
でなければ、獣人に勝つなんて無理でしょうし
隊長クラスに勝つ事自体、ありえません。
私も…少し考えを改めなければいけないかも
しれないですね。
顔を上げ真っ直ぐにボスの顔を見る。
その目には何かを決意したかの様な強い意思が
感じられる。
私、努力しますわ。
これ以上、人間に舐められない様に
考え工夫し強くなってみせますわ!
ウェディング家に恥じない様に!
「じゃ、これからはもっと厳しくしていくからな」
「へっ?」
この後、修練場では阿鼻叫喚の声が響き
努力を決意した生徒達に深い深い傷後を残すのだった。




