バベルの世界「情報」
アテゴレ地区・裏街
『パンッパンッ』
アテゴレ地区の裏道に乾いた音が響く。
「ヒッ!ヒイィッ!!」
チンピラの男は、情けない声を上げ道端に転がってる
3人の仲間の死体を眺める。
人間のくせに上等な服を来てやがったから、
ちょっと痛めつけて金を頂き、酒場でエールを
引っ掛けようと思っただけなのに…。
なのに…一瞬で、仲間が殺された。
ブルブルと震えている男に、3人を瞬殺した男が
目の前に立つ。
「ガルくんってぇ、知ってるぅ?」
「た、助けて!誰か、助けてくれよ!!」
チンピラは、遠巻きに見ているアテゴレ地区の住人に、
助けを求めるが誰も手を貸そうとしない。
当然、金にもならない人助けなんてするお人好し
は、アテゴレには居ないし、
そもそも、さっきの現場を見た住人は、その場に居る
人間に怯えきっていた。
当然だ。
転がっている獣人の死体は凄惨そのもので、
最初に殺られた奴は、右腕と股間を同時に潰され壁に
叩きつけられた瞬間、頭を膝蹴りで潰された。
次に、短剣を持っている奴の肘と手首を返し、
腹部に刺させ、崩れ落ちそうになった相手の後ろに
回り込み自分の盾のように捻り上げ、同時に
手に持っていた黒い魔道具のような物を中心に居る奴に
向けた瞬間、乾いた音と共にチンピラの頭が、
吹き飛んだ。
最後に、盾にされていた奴の頭を捻った瞬間
『ゴキョ』
と何とも嫌な音がし、首がおかしな方向に曲がっている。
そんな光景を見せられたら、助けろと言われても
無理な話だ。
「誰も、助けてくれないねぇぇ。」
ボスは、拳銃をチンピラに向けたまま再度
質問する。
「ガルくんってぇ、知ってるぅ?」
同じ質問、同じトーンで質問するボスに震えながら
声を絞り出す。
「ガ…ガルって、あれだろ?バルド達を
敵にまわしたって奴だろ?
噂を聞いただけで何処に居るかは…
し、知らねぇ。」
「はい~、お疲れぇ。」
「ま、待っ!!!!」
『パンッ』
乾いた音が響いた瞬間、チンピラは頭から血と
脳漿をぶちまけながらビクンっと痙攣した後、
動かなくなった。
「まぁ、ゆっくり探すか。」
首を、コキンっと鳴らしながら煙草に火を着ける。
「ねぇ、ねぇ、バベ!御飯食べようよ!
私、お腹空いたなぁ。」
引き締まった腹部を摩りながら、バベルに
訴える京香を、何を呑気な事を言っているのかと
住人全員は、青い顔をしながら京香を凝視する。
「確かに、腹が減ったな。だが、この国の
金が、もう無いぞ。」
「う~ん…確かに、食い逃げは心が
痛むよね!…あっ!?ちょい待ち!!」
そう言って先ほど処理したチンピラ達に駆け寄り胸元を
弄る。
「ほらっ!お金見~っけ!!おおっ!金貨が
2枚と銀貨が11枚あるよー。」
ファルシア大国の兵士が、見たら間違いなく盗賊と
思われる行為を平然とする人間に恐ろしさを隠せない
住人達。
そんな事、全く気にする事無く和気藹々と歩き出した
時、右手の路地から何者かが飛び出した。
『ドンッ』 『ガラッガッシャーーーーン!」
盛大に、路地から飛び出して来た者とぶつかり、
バベルは壁に激突し、その衝撃で上に置いてあった
木桶が頭に、スッポリとハマる。
まるで、コントのようなシーンを見て、住人達は
唖然とし、そして、こう思った。
「「「「死んだな…あの小僧…。」」」」
ぶつかって来た者は、まだ若い獣人の少年だった。
「ご、ごめんなさい!!急いでて!あの
お怪我は、無いですか!?。」
尻餅を着きながら、必死に、ぶつかった相手に
謝罪する。
「大丈夫だ。少年は、怪我して無いか?」
「よかっ…わあああぁぁ!?」
頭に、木桶を被った姿のバベルを見て思わず
叫んでしまった。
住人達は、バベルの意外な言葉に眼を丸くする。
「どうしたの?そんなに、慌てて。」
(きゃあああ!!この子、かわええぇ!!)
下心を必死に隠しながら、シドに質問する。
「あっ!は、早く兵士さん達を呼ぼうとして!!」
その兵士と言う言葉に、京香・ボス・ガストラは
一瞬だけ眼を細め、京香は腰に装備している鎌のような
形状のナイフに手を掛け、いつでも抜けるようにしている。
もし、バルド達の一件で兵士を呼ぼうとしてる
良い子ちゃんなら面倒事になる前に消す方が良いと
思っているからだ。
それに、チンピラにも見えない少年が訴えれば
万が一と言う事もある。
「どうして、兵士さんを呼ぶの?
何か、あった?」
京香は、笑顔のまま、また質問する。
「早く、早くしないと、ガル兄さんが!!」
その言葉を聞き、京香は満面の笑顔を見せ、
ボスとガストラに目配せをする。
驚異では無く、情報源と認識したボスは、バベルの方向に
顔を向ける。
そこには、木桶を被ったままフラフラと歩き、
壁にぶち当たっている雇い主を見て深く深く
溜息をついた。




