バベルの世界「学園」
ざわっざわっ。
多くの住人達が、ある1団を見て響めく。
ある者は、まるで珍獣を見る様な眼で。
また、ある者は憎しみや怒りの眼で見ている。
そんな視線に晒されているガルは大きく溜息を吐く。
此処は平民街【ウーノ】
中流階級の平民や貴族の肩書きしかない様な者達が
暮らしている街だ。
多少のボッタクリや軽犯罪は有るかも知れないが
他の国の平民街に比べれば相当治安が良く
住みやすい場所だ。
そんな、平凡な街に俺達が団体で歩いているんだ。
先頭に居るのは国の英雄と言われる【白狼のリヒト】
その少し後ろに元副団長レスタがユニコーンに
跨りバベル達を先導している。
そして、後ろには元隊長達だ。
こんな光景を見れば平民だけじゃなく貴族でも
見に来るだろう。
だって、そうだろ?リヒト率いる国の英雄達が
揃いも揃ってバベル達を引き連れているんだ。
見るなと言われても見てしまう。
それに、平民達だけで無くファルシア大国に住んでいる
者達なら知らない者は居ないと言われている大罪人の
バベルを引き連れているなら尚更だ。
民衆からすれば、大罪人を見せしめとし連行している
場面にしか見えない光景だからな。
「くたばれ!人間!!」
「夫を返して!!」
「子供達を…俺達の幸せを返せ!!」
なので、こーいった言葉が俺達に投げ掛けられる。
当然ちゃー当然だ。
なにせ、バベル達は平民街で無差別攻撃をし
多くの住民を殺害しているんだからな。
「あぁ~、人気者は辛いな。皆、俺達を見ているぞ。
全く嬉しい光景だな?ガル」
「思いっきり憎しみを込めた眼で見られてるけどな」
ったく、尊敬しちまうぐらいの無神経さだよ。
よく、あれだけ憎しみの声を聞いて笑ってられるもんだ。
そもそも、何故俺達が平民街を通っているかなんだが、
勇者のゴタゴタの1件以降に、ある人物が面会に来た事が
原因だ。
【アルフォンス・セドリック】
この国王の右腕とも言われている宰相がバベルとの
面会を希望してきたのだ。
当然、宰相もバベルとの契約を知っているので
敵対しに来たって事は無いと思って面会したんだが
宰相と言われているだけあって中々曲者だったぜ。
だってよ、バベルの顔を見ながら「この国の将来を担う者達を
鍛えてくれまいか?」って言ったんだぜ。
これには、少々バベルも驚いていた。
そりゃそうだろ?犯罪者に国の未来を背負う者達を
鍛えてくれって言ってんだ。
余程の馬鹿か裏が有ると思うのが普通だ。
なので、最初は当然断った。
なのに宰相は顔色も変えずに何故?って顔すんだぜ。
いやいや…何故って…当たり前じゃん。
バベル達の技術は、この国…いや世界には存在しない
戦闘技術だ。
剣や魔法を主体としている国の騎士や兵士に対し
バベル達は銃や爆発物を使用している。
戦闘の根底がまるで違うし、ボス達が使用している
兵器を国に居る者達に配る事なんて流石に無理。
大体、バベルや俺達は貴族や王族なんて最初から
信用なんてしてねぇ。
技術を教えて敵になる可能性だって有る連中に
教える訳ねぇじゃん。
バベルも当然、そう思っていたのか宰相にハッキリ
伝えた…なのに宰相ときたら…。
「この国の兵士や騎士は弱い。国王も、それに対し
大層嘆いており問題視しておられる。
バベル殿は、国王に対し言った筈。
国王の問題はバベル殿自身の問題でも有ると。
国王の問題を解決すると。
まさか、約束事に対し厳しいバベル殿が自ら
反故するおつもりか?そんな筈は無いであろう?
あのバベル殿が言ったのだから」
これには、驚いた。
国王ですらバベルと正面切って話す時は恐怖や焦りが
見え隠れしたのにセドリックと言う宰相は全く臆する
素振りが見えない。
「………確かに…言ったな…」
ピクピクと顔を引き攣りながら声のトーンが
物凄い下がっているバベル。
完全に、切れている。…が言ったのは事実。
流石のバベルも国王の右腕とまで言われている
実質No.2から未来の人材育成を頼まれると
思ってもみなかったのだろう。
後ろに控えているボス達も何とも言えない表情だ。
「解った。条件付きで引き受けよう」
「有難う御座います。バベル殿」
とまぁ…こんな感じで今の状況になった訳だ。
「バベル様、此処の無礼な者達を殺しましょうか?」
「止めとけ。面倒事になるからな」
バベルに対し物騒な事を言っているのは【軍狼】の
リーダー、ビトーと言う少女だ。
今回の学園には年も近いと言う理由で軍狼の者達も
何人か同行している。
ビトーもそうだが他の軍狼のメンバーも数ヶ月では
有るがボスの地獄の訓練を続け獣人特有の身体能力も
合わさって相当強くなっている。
特にビトーは、軍狼の中でも頭角を表し今では
20数人居る軍狼のリーダーだ。
しかも、何故か異常にバベルに心酔しており
よく物騒な事を口走るんだよ。
見た目は、可愛く真っ黒なロングヘヤーが似合う獣人の彼女。
だが、一度実戦になればC級冒険者レベルなら
瞬殺出来る程の猛者だ。
そんな事を思っていると平民街を抜け学園の
巨大な門が見えてきた。
そこには、学院を守る守衛。そして、
【ファルシア聖騎士魔術学院】と書かれている。
「随分と、ゴテゴテした学院だな。本当に、
こんな場所で学ばせているのか?」
「由緒正しい学園だ。本来なら貴様等が
入れる場所では無いのだぞ」
うへぇ~、何だよ、コレ。
辺り一面キンキラキンだぜ。門だけでも相当金が
掛かってる感じだしよ。
バベルが言うのも何だが…こんな場所でマトモな
奴が育つのかってレベルだぞ。
門の前に立っている守衛がリヒトに敬礼をし
中に入っていく。
勿論、守衛達はバベル達を見て鋭く睨んでいたが。
さて、門を抜けると眼に入ったのは広大な土地と
巨大な建物だ。多分、校舎だと思うんだが…
あれは、完全に城だろ…。
スラムからも見えていたが学園だとは思わなかったぜ。
学園の外では学生達が各々行動している。
友達と喋っている者達や貴族だろう生徒にくっついて
風を切って歩いている生徒に自主練だろうか?
何人かは剣を振っている生徒も居た。
「で?俺達は、どーすりゃ良いんだ?」
「待機していろ。私は今から学園長に到着の報告を
してくる。……くれぐれも、問題は起こすな」
「降りかかる火の粉は払うぞ?」
バベルの言葉に苦々しい顔をするリヒトだったが、
直ぐに戻ると言い残して校舎の中に入っていった。
問題を起こすなってリヒトは言っていたけど、
こんな所に大罪人を連れて行けば絶対に問題が
起こるだろ?
逆に何で問題が起きないと思っているんだ?
「おやおや~、何か臭いと思っていたら何故、由緒正しい
学園に下等種族である人間が居るんだ~?」
そう思っていたら早速だよ。
リヒトが、居なくなって速攻だったな。
声を掛けてきたのは何処ぞの貴族の息子だろう。
取り巻き数人を連れて俺達の方に近づいてくる。
「全く臭くて敵いませんね。匂いが移ってしまいますよ?
エドウィン様」
「そうですわ。高貴であるエドウィン様が
あの様な下劣で気品の欠片も無い鼠によって
汚されてしまいますわ~」
取り巻きの連中が何やら言っているな。
一人はガリガリに痩せていて顔色が悪い癖に
やたら服装が明るく眼が痛くなる。
もう一人は、やたら化粧っ気が濃く一々喋り方が
癪に触る女だ。
「君達、彼等は国王陛下の命により技術提供をしに
来たのだ。不用意に近づかない様に」
近づいて来た学生の前にレスタが一歩前に出る。
「これは、これは騎士団副団長レスタ様。それに各騎士の
隊長様ご機嫌麗しゅう。
とゆー事は、彼等が愚かにもファルシア大国に歯向かった
大罪人ラド・バベルですね?」
レスタが、頷くと生徒がいきなり笑い始めた。
「はっーはっはっはっ!どんな奴かと思えば大した事の
無さそうな人間では無いですか。
皆、見たまえ!この知性の欠片も無い人間達を!
こんな人間が我々に技術提供など出来る筈も
ありません。
さっさと処刑すればいいのでは?」
高笑いしながら他の生徒達にも聞こえる様に
声をあげる馬鹿。
その馬鹿の言葉を聞いてクスクスと笑う他の
生徒達。はぁ…今の所、馬鹿しか居ないじゃん。
なのに、この馬鹿は更に煽る。
自分なら一捻りだとか、こんな連中に負けるなど
信じられんとか…まぁ~言うわ、言うわ。
そんなだらし無い身体で、ボス達を一捻りとか
マジで失笑物だ。
テメェなんか瞬殺だわ。阿呆!
まっ!馬鹿がゴチャゴチャ言っているがバベル達は
完全に無視をしている。多分、眼中にすら無いんだろう。
だから、ビトーや軍狼の皆、臨戦態勢を取るのは止めなさい。
あと、レスタ達が気が気じゃなくなっているのがウケる。
そして馬鹿は先程から煽っているが完全に
無視されているのが気に食わなかったのか
徐々に語気を強める。
「先程から何も喋らないが怖気付いたのか?
それとも、言葉も喋れない程の馬鹿なのか!?
痛い目に合わないと解らんらしいな」
馬鹿が、そう言うとガリガリ馬鹿があろう事か
腰に挿してあった短剣を抜く素振りを見せる。
つか何で学園の生徒が短剣なんか持ってんだよ。
「止めなさい!君は学園の生徒でしょ!?
無闇に剣を抜くのは規律違反ですよ!」
流石のレスタや他の隊長達も止めに掛かる。
だよなぁ~、止めるよなぁ~。
だって、ガリガリ馬鹿が剣に手を掛けた瞬間、
明らかにボス達の空気が変わったし、安全装置を解除して
トリガーに指が掛かっているもの。
「ふふん!何を言っているのですか?私はエドウィン侯爵の
息子ですよ?人間なんて殺しても何とでもなります。
そもそも、人間などと言う種族が何人死のうが
誰も悲しみませんよ?
それとも、武闘会の雪辱を隊長方が晴らすと言うのは、
どうですか?汚名挽回のチャンスでは無いですか。
僕達は将来、国のトップとして働くのです。
今の内に媚びを売るのも良いと思いますけどねぇ」
うわぁ……これは非道い…。
何を、どーいう育て方をすれば、こんなロクデナシに
なんだ?
確かに、騎士団の隊長達は人間に負けたけど、
それでも国民から絶大な支持と尊敬を集めている連中だぞ。
その相手に、よくもまぁ言えたもんだ。
レスタ達も、平静を装っているが内心かなり
ブチ切れてるだろ。
もう、バベル達に任せて良いんじゃないか?
事故って事で処理出来るんじゃない?
そんな事も露知らず、ガリガリ馬鹿に指示を出し
あわや大惨事と言う場面で……。
「ラド・バベルーーーーーー!!!!!」
辺りに響き渡る声がした。




