バベルの世界「怪力」
アテゴレ地下のアアル区域露店市。
此処では様々な物が売られている。
鮮度が悪い野菜の様な物、筋張って半分腐っている肉、
粗悪な武器に密造酒等だ。
中には明らかに違法な薬物や材料、違法採掘された鉱物に
盗品から人間まで何でもござれだ。
もっと暗部まで行くと更にヤバイ物まで手に入る。
堅気の奴なら近づかないが物珍しい物や違法な物を
手に入れる為に訪れる者達も少なくない。
そんな露店市では現在、ピリピリと張り詰めた空気に
満ち溢れている。
事の発端は、勇者セータ率いる冒険者達がラド・バベルの
捕縛の為に情報収集から始まりアテゴレ地区の住人と
揉めていたからだ。
そこに偶然、通りかかった京香と俺が、それを見つけ
話を聞いて発覚した。
勿論、京香と俺はバベルに雇われている身なので
勇者になんて会わせるつもりは無い。
まぁ…正義感なんて糞喰らえ!みたいな奴ならバベルも
興味を持つかも知れないが相手は、そんな感じじゃねぇしな。
さて、どうなるか…。
「もう一度言うけど、バベルって人には会わせてくれ」
「無理ね」
ハッキリと拒否する京香に若干、勇者の後ろに居る
女性冒険者達が不満気な表情をする。
「ちょっと、セータ!もう力尽くで聞いちゃおうよ!」
気が強そうな女性が我慢出来なかったのか口を開く。
「レローナ、でも相手は女性なんだから穏便にさぁ」
「もう!セータは女の子に優しすぎ!こーいうのはガツンと
一発やった方が良いのよ!」
レローナと言う女性冒険者が、そう言うと周りの者達も
頷いている。
「セータ殿、キツイ言い方かも知れぬが相手は犯罪を
犯した者だ。脅迫されて仕方なくと言うなら情状酌量も
有るが見ている感じ本人の意思で動いているのだろう」
「ギルナの言う通りですわぁ~」
「うぅ~む…でもなぁ、男の俺が女性に手を出すのはなぁ」
確かに、京香の事を知らない連中からしたら男が女に
手を出すのは躊躇してしまうのは解る。
実際は、素手で屈強な冒険者やゴロツキを殴り殺せる
猛者なのだが。
「うむ、では、拙者が捕縛しよう。
同じ女子同士だし卑怯では無かろう?」
「う~ん…それなら、大丈夫かな。でも必要以上に
痛めつけたり殺したりしない様にしてね?」
「心得た!」
おお!何か話が纏まった感じで一人の女が出て来たな。
あれは…鬼人か?あんま見た事ねぇけど剛力で敵を
薙ぎ払うって聞いた事あんな。
そーいえば、武闘大会で審判していた現軍団長の
豪鬼のダガールも鬼人族じゃなかったか?
あれ?オーガ族だったかな?まっ、どうでも良いか。
それにしても、京香と戦おうとしてる鬼人族の女…。
何か凄ぇ余裕そうだな。
背中に背負ってた大剣まで仲間に渡して素手で
戦うつもりか?
まぁ、それだけ自信があるんだろう。
なんせ相手は人間だからな。ただの人間…な。
けど、勇者って名乗った奴だけは、真剣な眼付きで
京香を見ている。
しかも、いつでも割って入れる様に剣に手を掛けて。
ガルが相手を見定めていると不意に笑い声が聞こえる。
「アハハ!アハハハハ!素手なんだぁ!アハハ!」
この笑い声を聞いた瞬間、背中に嫌な汗が流れる。
バッと振り向いて京香の顔を見たら笑っている。
ヤ、ヤベェ!!?
その笑顔を見た瞬間、大分前の冒険者ギルドでの
騒動を瞬時に思い出す。
その事件とは、京香達が初めて冒険者ギルドに入った時に
周りの冒険者から罵詈雑言を浴びせられ京香がブチ切れて
施設内に居合わせた冒険者達を何人も殴り殺した事件だ。
それ以降、冒険者……少なくともアテゴレ地区で活動している
ゴロツキ冒険者達は京香を見ると縮こまって地面を見ているか
媚びへつらうかだ。最近は、京香の姐御肌なのかサバサバしている
性格のせいか知らんが徐々にファンが増えているらしいが…。
残念ながら、こうなったら京香を止める事は出来ねぇ…。
バベルなら大丈夫だと思うけど俺に、そんな度胸は無い!!
「この様な場面で笑うとは…。極力、手加減してやろう。
なので、怯える事は無い。一瞬で済む」
「アハハ!手加減なんて要らないわよー。
全力で来なさいな」
手加減すると言っている鬼人の女冒険者に対して
手加減無用と啖呵を切る京香。
と言うか、京香の奴笑いながらこめかみに青筋が
凄い浮き出てんだけど。
鬼人のギルナが、はぁ…と溜息を吐くと同時に凄い速さで
京香に強烈なパンチを繰り出す。
なのに、京香は避けもせず悠然と立っているだけで
動こうともしなかった。
誰もが、京香にギルナのパンチが当たると思い眼を
背ける。
ガシッ。
ギルナが繰り出した拳は京香に当たるどころか
掠りもしなかった。
いや、正確には京香の身体の一部には触れている。
片手で受け止められていると言った方が良いかな。
「ッッ!?」
それに対して鬼人のギルナは信じられないと言った
表情をし京香の顔と掴まれている手を何度も見返す。
「アハハ!こんな物なんだー?鬼の力って!!」
そう言いながら京香は右手の拳を握り締め思い切り
ギルナの腹部を殴りつける。
ズドム!!バキッ!ベキッミシ!ボキッ!
殴られた瞬間、大柄のギルナの足が宙に浮く。
しかし、京香が、もう片方の手を掴んでいるので
直ぐに引き寄せられる。
相変わらずヤベェ怪力だな…おい。
あんなデカイ女がパンチ一発で宙に浮くのも大概だが
明らかに素手で殴った音じゃねぇだろ。
音を聞く限りだと骨が何本か折れているし内蔵も
損傷してんな、ありゃ。
それに、京香が掴んでる手なんだけどよ……あれって
どう見ても握り潰してるだろ。
掴まれている拳から骨やらなんやらが出て
グチャグチャだ…エグい…。
「ゲホッ!!ゴッホ!ガッハァ!!」
ギルナは、掴まれている状態で膝を着き口から尋常では無い
量の血を吐血している。
「「「ギルナ!?」」」
そんな光景を見た勇者率いる冒険者チームが
慌てて駆け寄ろうとするが、悪いが邪魔はさせねぇ。
「村正狐!!」
ガルが妖刀【狐火丸村正】を抜刀すると青白く轟々と燃え上がる
3匹の狐が勇者達の前に現れる。
「なっ!?」
「聖獣!?」
狐達を見た冒険者達は立ち止まり驚愕の表情に染まる。
『小童よ、まだ我を含めて3体か。もっと精進せい』
3匹の中で一際大きく激しく燃えている狐が開口一番で
こんな事を言ってくる。
「うっせ!これでも成長したんだよ!大体テメェ等召喚するだけで
どんだけ精神力持ってかれると思ってんだ!アホ!」
『ふん!口の減らぬ餓鬼じゃな』
この偉そうな奴は【村正狐】と名乗っている。
因みに聖獣でも何でも無い。じゃあ、何?と聞かれると
俺も良く解らん。
狐が言うには元々の妖刀に狐憑きという呪い?の様な物から
生まれたと言っているが詳細は不明。
今は、何とかギリギリ俺を主と認めて力を貸してくれている
存在だ。
俺が召喚した狐を見た連中は眼が点になっている者から
口を限界まで開いて驚いている者達と様々だ。
勇者一行だけは武器を構え臨戦態勢だ。
『して、小童よ。あれが敵か?灰にして良いのか?』
「殺しは待ってくれ。足止めだけで良い」
『難儀な事よ』
そう呟くや否や物凄い速さで冒険者達に襲い掛かっていった。
「京香!こっちは俺が足止めするぜ!」
「ガルちゃん!成長したわね!お姉さん嬉しいわ!好き!」
「っ!余所見してねぇで戦いに集中しろって!!」
ギルナは、ガルの方向を向いて余所見していた
京香に渾身の力を振り絞り拳を振り上げる。
だが京香は相手を見る事無くギルナの掴んでいる拳を引き
バランスを崩させ向かって来た拳に肘鉄を叩き込むとベキンッと
何とも言い難い音が響く。
「アグッ!?」
悲痛な声を上げ何とか京香から離れようとするが
異常な怪力で身体を引き寄せられると同時にギルナの
脇腹に拳を叩き込む。
ギルナも、それを察知していた様で腕で防御するが
京香の拳はギルナの腕諸共骨を砕く。
「力自慢だったみたいだけどねぇ、私も力には自信が
あるのよ?鬼だからって力で勝てると思ったら大間違いだわ
このダボが」
膝を着き力無く項垂れているギルナの顔面を
力一杯殴るとベキャ!と言う音と共に鮮血が地面に広がる。
その一撃でギルナの片方の角と牙が折れ吹っ飛んでいき
片目が飛び出している。
一体、どれだけの力で殴れば鬼人に対し一発で、これだけの
怪我を負わせる事が出来るのか。
京香の強さを知っているアテゴレ地区の住人達は
改めて京香の強さと、その京香を従えているバベルを
心の底から畏怖するのであった。




