孤児院「捕縛」
「フーっ、危なかったぜ!。」
何とか、シドを誤魔化せた。
シドは、この孤児院『グナーデ』で一緒に育った
弟みたいな存在で色々助けて貰ってる。
俺達のシスターが死んじまって、一時は取り壊しまで
行きそうになった孤児院を何とか盛り返したんだぜ。
大した弟だろ?
因みに、言っておくが俺だって頑張ったんだぜ。
まぁ…今の仕事で稼いだ金を寄付って形でだが。
だが、今後は解らない…。
常連だった客が潰されちまったからな。
しかもだ!最悪なのが、俺が裏切った事に
なってやがるって事。
これは、ヤベェ!マジで、ヤベェんだよ!!
相手がチンピラなら良いが、よりにもよって
バルダットファミリーだ。
シドと孤児院の子供達と一緒に逃げようか本気で
考えてるが……逃げるイコール裏切りを認めるって
ならねぇかな?
「なんとか誤解を解かねぇとな。」
うん!やっぱ、逃げるのはマズイ!!
現状が更に悪化するだけだな。
見つかる前に、事情を整理しとかねぇと。
「くっそ!!全部あの馬鹿人間共のせいだ!!!」
俺は、悪態を付きながら早足でシドが、さっき案内
したと言う客の部屋に向かう。
「しっかし、このクソ最悪なタイミングで
何処のどいつだ?。」
俺の、顧客はバルダットファミリー以外にも
何人か居る。
多分、そいつ等だと思うが…。
客が待っている扉の前でフッと嫌な考えが浮かぶ。
まさか…あの人間なんて事ねぇよな…?。
いやいや、まさかな!シドだって獣人の客って
言ってたし、それは無いな。
じゃあ…………。
いやいやいや!!辞めよう!考えても仕方ねぇし!!
しっかり事情を説明すりゃ何とかなる……
…と思う!!
頭をブンブンと横に振り扉を開ける。
ガチャ
「…………。」
暫くの沈黙の後、待っていた客が声を掛ける。
「貴様が、ガルか。」
若い声だが、まるで野獣の唸り声のように低く、
全身から汗が吹き出した。
「シ…シバァールさ…ん…。」
「ほう、貴様のような小悪党にも名が知れてるか。
嬉しくも何とも無いがな。」
最悪だ…嫌な予感が、こんなに早く的中するなんて…。
しかも、シバァールが直々に来るなんて。
ヤバイ!何も言い訳が思いつかねぇ!
頭が真っ白だ……。
「あ、あの…。」
とにかく、ここを何とか乗り切らないとマズイと思い
精一杯 声を振り絞った瞬間、もの凄い速さでシバァールが、
ガルの首元に湾曲した刃渡り50センチ程の剣を当てた。
「黙れ。貴様が喋るのは、此処じゃない。」
ガルの喉元からツーっと血が垂れる。
ほんの少しでも、抵抗すれば喉笛を掻っ切られる恐怖に、
身体が動かない。
「お前を、アジトに連れて行く。そこの
拷問部屋で好きなだけ喋ろ。」
ガルの喉元に刃を当てたまま、後ろ向きにし歩かせる。
これだけ力の差を見せられたら両手を縄で縛る
必要すら無い。
それだけ、ガルとシバァールの戦闘経験に差があるのだ。
そして、そのまま、さっき入った扉から出て行く。
まるで、これから処刑台に連れて行かれる罪人のような
光景を怯えながら隠れて見ていたシドが、そこに居た。




