バベルの世界「真実」
~リヒトside~
私達、騎士団は国で悪行を重ねた大罪人。
我々が、もっとも警戒している犯罪者、
ラド・バベルと言う男に金で買われた。
この男は、国と言う形態事態を潰し国土全体を
商会の様にし運営すると国王を脅して来たのだ。
当然、拒否する事も出来た。
だが、バベルは拒否すれば国土全土を巻き込んで
力尽くで潰すと言うのだ。
普通の人間が、こんな事を言っても世迷言にも
ならない戯言だ。
そもそも、そんな大それた事を言う人間など
存在しない。
しかし…この人間達は違った。
私達が見た事の無い武器、聞いた事も無い知識、
信じられない程の戦闘能力と、恐ろしい程の冷酷さ。
バベル達は、信じられない速度で悪所と言われている
アテゴレ地区の荒くれ者共を従え逆らう者は女であろうが
子供であろうが殺して来た。
今では、シボラ区域とアアル区域の2つを支配している
支配者だ。
勿論、国の兵士も我々騎士達も楽観視などしている
つもりは無かった。
いや…楽観視はしていないつもりだったと言った方が
正しいな。
多分、何処かでバベル達を人間だからと言う理由で
油断していたのだろう。
その結果は甚大な物だったがな。
騎士、2670人。兵士、4850人。
これが、何を示す数字か解るか?
この数字は、バベル達によって殉職した者達だ。
それに対し、バベル達の死傷者は殆ど0に近い。
これは、異常所の話では無い。
相手は700程の戦力で殆どが魔物達で構成
されている成らず者達。
そんな者達に我々は1万に近い戦力を失ったのだ。
信じられなかったよ。
我々、誇り高きファルシア大国の勇士達が
此処まで苦戦するなど。
その結果が、コレだ。
捕縛する立場の私達が逆に捕縛され金で買われたのだ。
全く笑えない事だ。
そんな我々だが、バベル達が根城にしている場所に
案内され驚きを隠せなかった。
バベル達の根城には、ゴブリンと言う魔物が敷地内外を
警備している。
私が知っているゴブリンは劣悪な環境で品性の
欠片も無い様な魔物だ。
だが、此処に居るゴブリン達は全員屈強で見た事の無い
装備を身に付け言葉を喋り軍隊の様に統率が取れていた。
最初に見た時はオーガだと思った程だったよ。
此処のゴブリン連中を相手にすれば、普通の冒険者や
兵士では倒す事など不可能。
そんな者達が500程存在しているのだ。
中でも、閻魔と言われているジェネラル・ゴブリンと
山王と言われている冒険者殺しのバブーンと言う魔物は
桁違いの強さを誇っており、既にSランクに認定されていると
聞いた。
Sランクなど国に侵入する前に大規模な討伐作戦が
行われる程の驚異だと言うのに、そんな者が数体存在し
それ以上の魔物もバベル達、人間に従っているのだ。
だが、これは序の口だったよ。
バベルに案内された我々は、その余りにも信じがたい
光景に驚愕した。
松明も魔光石も使用していないにも関わらず洸々と
明るい室内に厳重な警備体制。
別な場所から監視出来る魔道具に誰かが、その場に
居るだけで感知する事が出来る装置。
馬車や早馬よりも速く移動出来るクルマと言う乗り物。
一体何をどうやって使用するのか解らない武器の様な物に
城を襲った時に使用した空飛ぶ乗り物。
それだけでは無い。
我々に宛てがわれた部屋はシンプルながらも
清潔で塵一つ無く柔らかな布団、シワ一つ無いシーツ。
この部屋にもランプなど使用せずとも明るくなる
魔道具が使用してあった。
食べ物もだ。
私達は今の地位に居た時から、それなりの物を食べて来たが、
バベルが出して来た料理は今まで食べてきたどの料理よりも
素晴らしい出来だった。
ナイフを入れると何の抵抗も無く切れる肉に
ソースが掛かっており口にした時は思わず眼を
見開いた。
セシルやグレイなどは、まるで信じられない物を
見るかの様に愕然としていたな。
新鮮な野菜、具が沢山入っているスープに、
フワフワの柔らかいパン。
どれを食べても一流の味だ。
まぁ、一番信じられなかったのは、この料理を
バベルが作ったと言う事なのだが。
そんな事を経験し見てしまったものだから
我々一同は、頭を抱え打ち拉がれているのだ。
「リヒト様…我々は、とんでも無い場所に来てしまったのですね」
憔悴仕切っているレスタがリヒトに声を掛ける。
「その様だな…」
斯く言う私も理解の範囲を超えた光景に頭が
追いついて来ない。
此処の水準は何から何までもファルシア大国の上を
行っているのだ。
まさか、人間が此れ程までに高水準な環境に
居るとは思わなかった。
「大まかな説明は終わりだ。後の細かい事は、その都度
聞いてくれ。何か質問が有れば受け付けるぞ?」
質問が有れば?だと。全く、この男は何を素っ頓狂な事を
言っているのだ!質問しか無いでは無いか!
解らない事だらけだ!
魔物の事、武器の事、魔道具の事、乗り物、
技術の事、知識の事、奴隷の事、今後の事!
聞きたい事は山程有る!!
だが、それよりも重要な事を聞かなければならない!
「バベル…貴様達は一体何者なのだ?」
これだ!これは、何よりも重要な事だ。
バベル達の出生や住んでいた国が解れば秘密裏に
使者を送り国に有益な情報が掴めるかも知れん!
だが、バベルは私達が思っていた事を言わなかった。
いや、それ以上の事を言ったのだ。
「俺達は異世界の人間だ。この世界の住人じゃない」
「ッッ!!??」
何だ?この男は何を言っている?
異世界?今、異世界と言ったのか?
私同様に、隊長達も何を言っているのか理解出来ていない顔を
している。
「まぁ、信じる信じないは任せる。ただ、間違い無く
我々は、お前達の世界水準の数十倍は上を行っている。
生活も技術も戦争も…な」
信じられん…いや、しかしバベルが言う通り
此処の水準は大国を遥かに上回っている。
なら…事実なのか。
「この世界によ、俺達みたいな人間って居なかったのか?
異世界から来ました~って言う奴等」
「そんな人間が居る訳無かろうが!!」
バベルの言葉に食って掛かるウィル。
「………いや、居る…」
リヒトが、そう発すると隊長達が、えっ!?と言う
表情になり固まる。
バベルも一瞬だが、眼が鋭くなりリヒトに顔を
向ける。
「今から、3年程前にセイント王子主導の元で
異世界召喚の儀を行って3人の勇者を召喚している」
「ま、待って下さい!姉様!!一体、何の話なのです!?
そんな話、一度も聞いた事が有りません!!」
リヒトから発せられた言葉に驚きの表情を見せる元隊長達。
しかし、この事は極秘事項に指定されており、如何に騎士の
隊長だからと言って知らされる事は無かった。
元々、国力の戦力増強の為に行われた儀式の為、
この事実を知っている者は国王とセイント王子。
他には、軍団長のダガールと私だけだ。
「すまない…国の重要な案件の為、言う事が出来なかったのだ」
自分の部下達に頭を下げるリヒト。
「い、いえ…其れ程の事だったのでしょう…。
リヒト団長を責めるつもりは毛頭有りません。
……しかし、そうなると……」
レスタが、バベル達に眼を向けると一斉に他の者達も
バベル達に眼を向ける。
「この者達も……勇者…?」
「冗談だろ?悪魔の間違いじゃねーか?」
「こんな顔付きの勇者が居たら驚くね」
と隊長達は口々にバベル達を見て呟く。
「おいおい、勘違いするな。俺達は一般人だ。
あんな、勇ましい者と書いて馬鹿と呼ぶ様な連中と
一緒にするな。不愉快だ」
全く、この男には呆れてしまう。
この世界でも絶大な支持が有る勇者を馬鹿扱いだとわな。
「所で、そんな機密を俺達に漏らして大丈夫なのか?」
「民の命が掛かっているのだ。隠し立てはしない。
それに万が一、私が言わずに貴様の耳に入っていたら
何をしでかすか解らんからな」
そう、そこが問題だ。
ケイト王女は私達とバベル達の立場を知っているが
セイント王子は知らない。
万が一、セイント王子がバベル達に無理難題を言って
状況が悪化したら最悪だからな。
「へぇー!異世界勇者って事は強いのー?やっぱり
チートとか?」
ケラケラと笑いながら話しかけてきたのは、
剣崎京香。
武闘大会で私の部下のグレイを完膚無きまで叩き潰した女だ。
「ちーと?貴様が言っている事は解らんが弱くは無いな。
召喚した時には既に、いくつかの能力や全属性の中級魔法の
特性を持っていた。
ただ、剣技に関して当然素人同然だったぞ。
まぁ、3年前の話だがな」
召喚した当初、等の本人達は大分動揺していたが
我々の勇者召喚で呼ばれたと聞かされて直ぐに状況を
飲み込んだのは大した者だった。
ただ、一番驚いていた事は勇者達が口々に、
尻尾が有る!?獣耳が有る!?などと言っていたのは
多少気になったが今となっては大した問題では無いか?
「……今、何処に居る?」
バベルが発した言葉に場の空気が一気に変わるのが
感じ取れた。
さっきまでヘラヘラしていた男の口調と声では無い。
間違い無く、こっちが素だろう。
異様な変わり様にキャスが後ろに隠れてしまった。
「…今は、この国に居ない。全員、冒険者として各国で
活動している」
私の言葉にバベルの鋭い眼付きが更に鋭くなる。
本当に眼で睨んだだけで相手を殺しそうな程に。
その姿には、あれ程、噛み付いていたウィルもレスタも
固唾を飲んで静かにしている。
「リヒト、そいつ等の容姿、性別、年齢、性格、仲間や知人の有無、
恋人の有無、得意な魔法、攻撃方法…諸々と知っている事を
全て教えてくれ。
それと、ボス、京香、ガル。今回の件は我々の最重要案件とする。
相手の強さが未知数だけに弊害と成る可能性が捨てきれない。
使える者は全て使って情報を手に入れろ。
情報の提供に拒否反応を示す者は拉致し出来なければ殺せ。
ガストラにも、この件と防衛強化の徹底を伝えろ」
その言葉に、バベルの側近達は無言で頷く。
バベルは自身の部下達に的確に指示を出している。
今の会話だけでも、この者達が戦いにおいて
どれだけ情報を大事にしているかが解るな。
しかも、これだけの強さと戦力を持ってしても僅かな
不安要素を排除しようとする徹底さ。
もし、今回バベル達と全面対決になっていたら…。
リヒトの背中にゾクッと戦慄が走る。
此処まで徹底する男だ。自分に敵対する様な者達は
間違い無く消していくだろう。
いや、下手をしたら王族貴族を皆殺しにするかも知れない。
そんな事を考えていると不意にバベルが声を掛ける。
「リヒト。今回の件は非常にデリケートだ。
嘘偽り無く喋ってくれ。万が一、俺達を騙そうとした場合
国王との約束は白紙に戻す。
それが、どういう事か解ってるな?」
今までで一番の重圧が伸し掛ってくる。
ぐっ!この男、本当に人間なのか?私に対して此れ程の
重圧を向けるなど今まで居なかったぞ!
リヒトの頬にツツーっと汗が流れる。
その後ろでは、バベルの圧に当てられたのか元隊長達が
尻餅を付いてガチガチと震えている。
「な…何だよ、あれ…」
「うぅ……」
「ふ…ふふっ…これは…参ったね…」
「こんな、人間が……居るのですか…」
他の者達も一様に顔を青褪めている。
「解った…。では、話そう」
この男には嘘を付けない。いや…言えない。
そう心に強く思い重い口を開くのであった。




