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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
114/248

閑話 「屋台」

~アテゴレ地区アアル区域~


「安いよ!安いよ!ラットットの串焼きだよー!」


アテゴレ地区に響き渡る子供の声。

そこには朽ちた材木を自分で作ったのだろう。

到底、食物を売る様に見えないボロボロの屋台がポツンと

建っていた。


「よっ!そこの兄さん!一本どうだい?

 今なら銅貨1枚だよ!!」


「馬っ鹿野郎!ラットットの肉に銅貨なんて

 払えるか!糞餓鬼」


ちっ!ケチくせぇな!一本ぐれぇ買ったらどうなんだよ!


客が買わないのを見ると小さく舌打ちをする

猫人族の少年。


「お兄ちゃん、また売れなかったねーアハハ!」


そんな少年に満面の笑顔で笑う猫人族の少女。


「ったく!次だ!次!」


くっそー!今日は、まだ一本も売れてねぇー!

何とかして売りてぇけど…この糞マズイ肉じゃなぁ。

ラットットなんて何処にでも居て俺達が住んでいる

アテゴレじゃ定番の肉だ。

ただ、この肉がクッソ不味い!

いや、もう最悪なんだよ。肉は固いし匂いはドブ臭い!

噛めば肉汁どころかドブ汁が滴るって代物よ。

こんなもん誰が買うねん!って思うかも知んねぇけど

こっちも生活が掛かってんだ。


妹のフーカを立派な大人に育てる為に!

稼いだ金で美味い物食わせて雨風凌げる場所に

住ませてやんだ!

けど、こんな裏通りじゃ録に客が居ねぇから

売れても精々5~6本だ。

屋台通りにでも俺の店を出せるなら良いけど

あそこは、昔から屋台をやってる連中の縄張りだ。

何度も頼んだのにショバ代払えの一点張りで嫌になるぜ!


折角、コーネルが死んでショバ代が免除になったっーのによ!

あーーー!!止め!止め!

こんな事考えてると腹が立って仕方ねぇぜ!

今は、串焼きを焼いて売る事に専念しねぇと!


ジューっと肉が焼け辺りに匂いが立ち篭める。


だぁーーーー!クセェ肉だな、この野郎!

何で焼いただけでドブの匂いがすんだよ!

ヒポポ草って言う香草で匂いを誤魔化してるのに全然効かねぇ!

この匂いがすると、いつも顔を顰めるんだよな、フーカの奴は。

んっ?あれ?そーいえば、フーカの姿が見えねぇな?

フーカ?フーカ!?

くそ!フーカの奴、あれ程遠くに行くなって言ってるのに!

フーカは可愛いから変な奴に絡まれてるかもしれねぇ!

下手したら攫われて…。


「お兄ちゃーん!ミルお兄ちゃーん!

 お客さん連れて来たよーーー」


おお!フーカ!無事だったのか!?

しかも、客まで連れて来るなんてやる…じゃねぇ…か。


「嬢ちゃん、美味い屋台ってのは此処か?」


「どんな味だろうねー。私お腹空いちゃって倒れそうよ」


バ、バババババババババ、バベルゥアァァァアア!!?

なな、何でぇえ!?何で、こんな場所にバベルがあぁぁぁぁ!!!

あのコーネルをブッ殺して騎士団に喧嘩を売った極悪人!!

ついこの前なんて、武闘会で騎士の隊長クラスに圧勝した

部下達の親玉じゃねえぇぇぇぇかぁ!!

しかも、その部下のキョウカまで居るしぃぃ!?


「うん!お兄ちゃんの串焼きは美味しいんだよ!

 きっと驚くよ!おじちゃん!お姉ちゃん!」


「おじっ!!?」


ひいぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁ!フーカ止めろ!止めてくれぇ!

その人間は、アアル区域とシボラ区域の支配者だぞぉぉ!!

そして、どんな説明したらラットットの肉が美味いなんて事に

なるんだよ!

そりゃ、驚く味だけどもバベルを驚かせたら

ヤバイんだよーーー!!


「この肉…ラットットの串焼きか?」


ガタガタと震えているミルの目の前に立つバベルとキョウカ。


「は、はひっ!」


うおおお!!怖ぇぇ!超怖ぇぇぇぇ!!

顔なんて完全に極悪人じゃん!しかも薄ら笑いだから

尚更怖ぇよぉぉ。


「一本くれ」


「私は、三本頂戴」


「は、はい…ど、ど、どうじょ…」


だ、駄目だ!手の震えが止まらねぇし噛んじまった!

アテゴレで散々暴れて来た大人や強面の冒険者が

見ただけで震え上がる人間相手だぞ!!

餓鬼の俺なんて気絶しねぇだけ褒めて欲しいぜ!!


「いくらだ?」


バベルが串焼きの値段を聞いてくる。


「い、いえ…無料で……」


いやいやいや!バベルからなんて金を取れる訳ねぇじゃん!

それどころか命を取られちまうよ!!

そう思い無料と言ったのだが、それを聞いたバベルの

眼が鋭くなる。


「趣味で商売してる訳じゃねぇだろう?働いてるなら

 しっかり代価は貰うべきだ。それに払わねぇのは

 働いてる連中に失礼だからな。で、いくらだ?」


「……鉄貨…4枚で…」


「普段売っている値段を言え」


「あの、えっと…4本で、銅貨…4枚です」


恐る恐る値段を告げるとバベルは銀貨1枚を

出して来た。


「あ、あの…銀貨だと…お釣りが…」


今日は、まだ一本も売れて無いから釣銭が払えない。

ミルが、オロオロしているとバベルは、「取っとけ」と

言って来たので、そのまま銀貨を貰う。

銀貨まで貰って不味い肉食わせるんだ。

俺、死んだな…。


「頂きます」


そう言ってバベルと京香が串焼きを食べ始める。

因みに、食っている最中は完全に無言で近くを通っている

大人達でさえ異様な雰囲気に飲まれている。


モグ、モグ。

モグモグ、モグモグ。

モグモグ、モグモグ、モグモグ。


咀嚼が長いのは、それだけ肉が固い証拠だ。

時折、ウッ!?っとバベルが喉に詰まらせながら

噛んでいる。そして、ゴクンっと喉を鳴らす。


「どう?おじちゃん?お姉ちゃん?美味しい?」


満面の笑顔でバベル達に聞く妹は将来、大物になると

思った。この場を生き延びれたらな!


「ハッハッ!クッソ不味い料理を食わせてくれて

 有難うな!それから、俺は、お兄さんだ。解ったか?嬢ちゃん」


「相変わらず、この肉不っ味いわぁー」


ぎゃああああああ!ですよね!そうですよね!

どう頑張っても不味いですよねぇ!!


俺は、速攻でバベル達の前で頭を下げた。

それは、もう頭が地面に減り込むんじゃないかって程に。

勿論、妹のフーカもだ。ただ、フーカは何で謝るのか解って

いない感じだが。


「スミマセン!スミマセン!!お金は、お返しします!

 ですから、命だけは助けて下さい!!」


必死に謝り倒す俺達を、周りの住人は哀れみの眼を向ける。

当然だが助けてくれる奴等は居ない。

バベルに逆らったら、どうなるか全員知っているからだ。


「顔上げろ」


頭上からバベルの声が響き、恐る恐る顔を上げる。


「別に獲って食ったりしねぇよ。まぁ、俺の噂を聞いてりゃあ

 そーゆう態度になるかもしれねぇが飯が不味いぐらいで

 殺す訳ねぇだろ。毒でも仕込んでたら焼肉にするがな」


ひええ…焼肉って…。

でも何とか命だけは助かったのかな?

噂では、冷酷無比の残虐非道って聞いてたけど。


バベルは、別段気にした素振りも見せず妹の

フーカの頭を撫でている。


「肉の味付けは塩を少々か。他の屋台と一緒だが、

 お前の所は香草を使って匂いを消そうとしていたな?

 客の配慮と食物を何とか美味しくしようとする心意気は良い。

 …ちょっと来い」


バベルは、そー言って吹けば飛ぶ様なボロボロの

屋台に入っていく。

勿論、バベルからの呼び出しなので俺も付いていく。

オマケでキョウカと妹のフーカが覗き込んでいる。

何されんのかな…?


バベルは、上着を脱いで腕を捲る。

そして、俺が普段使っているボロボロのナイフを

手に持ち鋭い視線で刃を睨む。


「刃物の刃が大分、潰れているな。これじゃあ肉が

 潰れて上手く切る事が出来ないし肉の組織を傷める。

 砥石が無ければ、河原で石を見付けろ。

 あぁ、荒い石と細かい目の石だぞ。後で教えてやる。

 でだ、今回は俺の包丁を使用する」


バベルが脱いだ上着の裏側から物凄い綺麗に研がれ

かなり使い込まされた包丁を取り出す。


な、なんだ!?見た事の無い形状のナイフだ!!

バベルは、ホウチョウ?って言ってたけど多分、料理専用に

使用する刃物だろう。

キョウカに、「何で、包丁持ってんの?」と突っ込まれて

いたけど。


「良いか?ラットットの肉は硬い。マジで硬い。

 下処理をしっかりすれば柔らかくなると思うが、

 先ずは、分厚く切らずに薄く切れ。

 その後、香草を揉み込む様にして塩を振る。

 それと、焼く時は手間かも知れんが炭を使え。

 そのまま木材使って焼いたら煤で苦いし真っ黒だぞ。

 良いか?炭には遠赤外線が~~~」


と、うんちゃらかんちゃらとバベルが色々と説明

してくれている。

つーか、この男、相当慣れている。

ラットットの硬い肉を薄くスライスして塩と香草を

揉み込んでいるだけだが、手付きが完全に玄人だ。

いや…俺も素人みたいな者だが、その素人から

見てもバベルの手際と技術は凄い。

たかが、切るだけかもしれんが何事も単純な事と

言うのは実は技術が入るのだ。


その後には、刃物の背の部分で肉を叩き、筋を切る。

木材の燃えカスに火を起こし、ゆっくりと焼いていく。

で、完成したラットットの薄切り焼き。


「食ってみろ」


バベルに、そー言われて肉を口に近付け噛み付く。


あっ…少し独特の匂いがするが俺が焼いた肉とは

雲泥の差だ。殆ど匂いは、しない。

そして…肉が硬くない…。多少、歯応えが有る程度で

全然、子供でも噛み切れる。


「おいしい!!」


満面の笑みで、肉を頬張りながらフーカが声を出す。


美味かった。あの何しても美味くならないと思っていた

ラットットの肉が少しの手間で全然違う。


「良いか?料理でも何でもだが手間ってのは大事だ。

 手間ってのは、必然的に必要だから有る。

 それを、怠れば何事も上手く行かんからな。

 そして、考えろ。

 どうすれば美味くなるか?どうやったら売れるか?

 そして、考えたら実戦しろ。失敗を恐るな。

 失敗無き繁栄など有り得ない。

 死ぬまで考え、死ぬまで行動しろ。

 それが出来れば自ずと道が開く」


何だろう。この感覚……胸が熱くなる感覚は何だ?

………あぁ…そうか、俺は嬉しいんだ…。

嬉しくて嬉しくて仕方無いんだ。

だってさ、俺みたいなスラムの孤児に権力と暴力を

持ち2つの地区を支配している大人が真剣に俺の目を見て

言ってくれているんだ…。

これが、どれだけ嬉しい事か…。

スラムに住んでない連中には蔑まれ、スラムの大人達は

まともに話も聞いてくれず馬鹿にされる。


なのに…なのに、バベルさんは俺に教えてくれた。

色んな事を真剣に助言してくれたんだ。

憐れむでも無く蔑むでも無く餓鬼の俺を一人の獣人として。


ミルは涙を目尻に溜めながら俯いていると

バベルは、先程まで使用していた包丁の刃を持ち

柄の部分を向け差し出してくる。


「お前にやるよ」


不意に言われ狼狽しながらミルは断るが

バベルは聞く耳を持たなかった。


「俺の支配区域で不味い料理なんて出されたら

 堪らんからな。これで精進しろ。

 んで、美味い料理出来たら食わせてくれ。

 楽しみにしてるからな」


そう言いながら、バベルは歩き出す。

その背中を見ながらミルは声を出した。


「必ず!必ず、バベルさんに美味い飯を出します!!

 その時は、腹一杯食って下さい!

 本当に…本当に有難う御座います!!」


ミルは深々と頭を人間のバベルに下げた。

バベルは、それに答えるかの様に右手を上げ歩いて行った。


バベルさん。俺、考えて考えて頑張ります!

必ず、貴方に美味い飯を作ります!待っていて下さい!!


ミルは、そう心に決めたのであった。






【次の日】


「美味い飯出来たか?」


「早すぎます!!」


こんな会話がスラム街で、よく耳にする様になった。

 

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