2月14日の聖戦
バレンタインデーなので、短編を投稿します
1年で最も長い1日が訪れる。
時計の針がちょうど12を指したところでメールが届く
『今日こそは、全ての悪を駆逐しつくしてやろうぞ』
「ああ、そのとおりだ参謀」
暗い部屋の中で、スマホの光る画面を叩く
「我らに正義あり、これは聖戦なり。っと」
『明日の作戦の時間帯は、朝、昼休み、放課後が肝ですぞ』
「ああ、分かっている」
『それでは、激しい戦に備え、今日はもう眠ろうぞ』
「了解。っと」
布団に入り、眠る。
明日は、いや今日はきっと、素晴らしい1日になる。
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午前8時
アラームで起きれなかった俺は、ベッドから蹴り落とされた。
「いってぇ~」
「おせーよ兄貴」
「お前、何すんだよ」
傷みでじんじんする腰を擦りながら起きる
「今八時。分かるか?家出る時間」
「えっ……嘘だろ?」
「時計見ろよ」
「しまった!!聖戦があ!!」
「聖戦って……
ただのバレンタインデーの妨害だろ?」
無表情で、淡々と……
「ってめぇ。言いやがったな言ってはならないことを!」
「うるせぇよ。ほら、つまんねーこと考えてねぇでとっとと飯食えよ。先行くぞ」
「モテてるお前には一生分かられてたまるか!!」
ムカつくことながらコイツはモテる。
一緒に遊んだ友達の九割に
「弟さん、名前何て言うの?」と真っ先に聞かれたり。
女の子と遊ぶ時に漂う『えー兄貴のほうかよー』感は半端ない。
なにより、コイツが陸上部に入ってから女子マネージャーが二人ほど増えたらしい。
けっ
「俺のが兄貴なんだよ!!」
と叫んだが、既に部屋を出ていったあとだった。
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午前9時
朝ごはんを食べれずに学校に到着する。
学校というものに通いだしてから11度の聖戦が過ぎた。
しかし、聖遺物を貰えたのは僅か2回(内2回は母親のみ)。
一方アイツは…毎回……10個以上…………。
「……殿!総隊長殿!」
「は!?ここは、」
「総隊長殿は自らのロッカーの前で放心状態だったのですよ!!」
目を見開けば、坊主にメガネの我らが頼れる参謀。
2次元を愛し2次元に生きる男の中の男。アドレス帳には男以外は母親のみ。
ああ。裏切られる心配などどこにもない。俺たちは繋がってるんだ。
リア充どものほっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっそい赤い糸より図太く硬い絆に。
しかし、このままボーっとロッカーの前に佇んでいれば、聖遺物を期待したのかと思われてしまう。
これは完全な裏切り行為だ。さっさとロッカーを開けよう
「ああ、お早う。参謀」
ごくり
ロッカーを開けるとなんのへんてつもない上履き。
期待してないからね、貰えないの知ってて期待するとかバカじゃん。しないしないそんなのしない。
そうして、上履きの中のゴミが無いかをチェックしながら、履いた
「ん?総隊長殿。まさか宝物庫の聖遺物を期待したのではありませんよね?」
「ああああたりまえだろうが!!俺は総隊長だぞ!」
「それはそれは失礼しました、総隊長ともあろうお方が聖遺物を望むなどありえん話だなぁ」
コイツ殴ってやろうか。
いや、悪いのは俺だ。落ち着かなくては……
心を落ち着かせればいい、そもそも貰えなんかしないのだ。ドキドキするだけ無駄だ
「た、大変です総隊長に参謀!!」
「む、どうしたんだ?1年部隊の隊長じゃないか」
「報、告です……我が隊は壊滅。聖遺物に目がくらみ、離反に次ぐ離反で疲弊したところを、サッカー部の奴らの気迫に…」
※訳『仲間がチョコ貰ったので、粛清していったら、仲間が少なくなってたけど、邪魔を続けてたら、サッカー部のリア充オーラで、余った味方が卑屈モードになりました』
「なん…だと!?」
「馬鹿な、隊長のクラスは最も勢力を伸ばしていたはず…他のクラスは?」
参謀の質問に、1年部隊隊長は、絞り出すように言った。
「軒並み……壊滅…です。残ったのは私と数人の非戦闘用員(先生にチクる役)だけです。すいません」
「いや、元々1年は敵対勢力(リア充)が多かったんだ、仕方ない。後は我々に任せよ。ほら」
俺は、疲れきった目をした1年チョコレートを渡した
「え?総隊長、ホモなんですか?ごめんなさい」
「ちげぇーわ!!仮にそうだとしてもこのタイミングで渡すかよ!」
「え!?やっぱりホモで…」
「か!り!に!」
コイツ、せっかく人の好意を。
「友チョコってやつだよ。他ならぬ大事な戦友にな」
「総隊長…」
「先輩…」
「黙ってうけとれよ、恥ずかしいだろ……」
「チ○ルチョコって安い戦友ですね」
「ごめんね!金欠で!!」
くそぅ、ケチらずキ○トカット位にしときゃよかった…
そんな事をしていると、予鈴が鳴り響いた
「ほら、予鈴なりましたぞ。速く教室に向かいますよ」
「そ、そうだな。じゃあな隊長。クラスではもう大人しくしとけよ」
「はい、御武運を」
そう言い残して隊長は一年生の教室へ向かった。
俺たちも本鈴に間に合うように走って教室に向かった
教室のドアを開けると、いつも通りの雰囲気だった。イチャイチャしたような空気は一切ない。
なぜなら担任が生活指導の担当だからだ。
「やはり、ここが一番平和だな」
「ですな。それに、例の計略は滞りなく…」
「ああ、流石だ」
ガラガラと扉を開ける音と共に本鈴が鳴る
入ってきたのは生活指導の担当である。担任の先生(通称鬼さん)
「はいおはようさん。今日は授業を始める前に、とある生徒たっての希望により、持ち物検査を行う」
その言葉をよしとしない生徒から批判が飛ぶ。
「えー」
「いつもしないのなんで今日なんすか?」
「別によくない?」
馬鹿め、既にきさまらは術中の中よ
「はーい、いま発言した奴ら。鞄と机の中全部出せ。反論はやましいことがあるって証拠やぞ」
案の定、批判した奴らの持ち物から出るわ出るわ…
甘い甘い。ホワイトチョコレートのように甘い。お前らは既に参謀が考えた作戦に嵌まっている、
さて、俺も机の中のものを出して…ん、なんかある…まさか
「まさか、俺に春が……」
手の感覚で分かる。この箱状に妙なヒモ。やけに手が込んでいる。
まさか……真実の果実(本命チョコ)!?
いや、でも目で確認するまでは。
少しだけ引っ張ってみると、赤い箱に十字に黄色いリボンがしてある
そして、ハートマーク
間違いない、春だ
そうか、立春は過ぎた。こいつらと馬鹿やるのもおしまいだ
横目で隣の席の参謀をみる
「やってやりました」と、満足げな表情だ
ごめんな、参謀。
一足先に大人になるよ。
ヒモをほどき、箱の口を開ける
ここまで、片手で3秒。イメトレのかいがあった。
そして中にある板状のものを引き抜く
バチンッ
指を挟まれた
(いってえええええ!?)
だめだ、喋っては計画が…
「あ、それは対リア充に仕組んだ指パッチントラップ…」
「っっんだよもう!!ややこしいんだよバカァ!!期待しちまったじゃねえか!つか、なんで俺のとこ入れてるの!?うぅ…くそぅ……」
指が、痛い。っていうか心が痛い。
期待、返して…
「おい、そこ」
「なんですか先生!俺は今傷心中で」
「カバンの中身全部出せや」
「え…」
先生満面の笑み、
これが、策士策に溺れる、か…
カバンに入っていた漫画の最新刊を取られました。
「まぁ、これぐらいでええか。お前ら次からは余計なもの持ってくんなよ」
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昼休み
チャイムが鳴った瞬間にクラス内にいる工作員が教室を飛び出す。
昼休みの妨害計画その一
『購買部のチョコ関連の品を買い占める』
これで聖遺物を忘れたリア充共は、泣きを見る。
そんな奴らを見て叫ぶのだ。『ざまあみろ』と、
心の中で。
昼休みの妨害計画その二
『昼休みにかける音楽を失恋ソングにする』
これで、
「どうしよう、サッカー部のあの人にチョコ渡せるかな?」とか、
「初めての手作りチョコ、美味しいかな?」なんて思っている純粋で純朴な女の子達に聞かす
↓
↓
「失敗したら、どうしよう」って思って聖遺物を渡さなくなる
↓
↓
サッカー部のクソリア充共が、純粋で純朴な女の子を汚さずに済む
そして、サッカー部のリア充どもは何時もより聖遺物が少なくて自信を無くす
↓
↓
そして俺は奴らに言ってやるんだ『ざまあみろ』と、
小声で
昼休み妨害計画その三
『買い占めたビターチョコを無料配布する。主にリア充共に』
非常に渡したくはないが、仕方なく、いやホントやだけど、これだけは参謀が考えた計画だから
まずビターチョコをサッカー部の連中に無料で渡す
卑しいアイツらは餌を与えられた豚のように、いや、豚に失礼だ。
とにかく、卑しいアイツらはがっつく
だが、苦いチョコに驚く、甘くないチョコに困惑する。だが公衆の面前だと、いい格好をしたがるので、残すのも悪いという建前の下完食するだろう。
そのあとに、女子から貰った聖遺物がビターなオトナの味ではないかと、困惑する。
そんな奴らが今日聖遺物を食べるだろうか?いや、食べない(反語)
今日食べなければそれはもう、聖なる日の聖遺物としての機能は失われ、ただのチョコと化す。
そこで奴らは後悔をする。
「なぜ、ビターなチョコを食べてしまったのか」、と
そこで俺はそんな無様な奴らに声を大にして言ってやるのさ
『チョコはちょこっとだけにしときな』、と
いや、これ参謀が考えたやつだから、俺のじゃないから、俺はスベってないから。
とにかく、以上の作戦がある限り、作戦は大丈夫だ。
と、考えながら食堂に向かう途中に、先に向かった参謀から電話があった
『総隊長、悪い知らせです』
「悪い、知らせ?」
食堂に向かう歩を早める
「どういうことだ?詳しく」
『フェアですぞ。バレンタインデーのチョコで溢れかえって、我々だけの資産じゃ…足りなんだ』
「まて、フェアなんて聞いてないぞ!」
『なんでも今年からだそうだ、お陰で我々はもうお金もお腹もいっぱいいっぱいだ』
「なぜ、俺に頼ってくれねぇんだ!!俺は、総隊長じゃなかったのかよ!!」
『いや、総隊長チ○ルチョコだったし』
「あ、すいませんでした」
とにかく、今は状況を確認するために、食堂に向かった。
食堂に入ると、ハートマークやもさもさした装飾や、ピンクピンクしたものが目に入った。
しかしカートにはチョコは無かった
「やられたんだ。数十人に買われてしまった」
「参謀…」
隣から歩いてくる参謀
「しかたない、第一の策は折れたが、第二と第三の策がのこっている」
「そうだな、何せ参謀が考えた策も残っているんだ」
『ただいまより、お昼の放送を始めます。連絡事項ですが、』
「始まったぞ」
「ああ」
『以上で連絡を終わります、続いてお昼の音楽を流させていただきます』
ふ、怯えるがいい。この、失恋ソングに
『シャカシャカ、すーてきににちゅーう』
バレンタインデー・チューじゃねぇか!!
あのワンちゃんクラブで有名なあの人のソロ曲じゃねぇーかぁ!!
「なぜだ!なぜこんな曲になってやがる、放送部の1年は何をやってやがるんだ」
「まさか、」
「なんだ参謀!」
「今朝言っていたではないか、『1年は離反者が出た』、と」
「馬鹿な?アイツがチョコだぞ?あり得ない、貰えるはずがない」
今回の放送室への工作員として選ばれたのは、1年でありながら既に百人を越える(2次元での)重婚を済ませた上に、三次元での関わりを一人暮らしによって完全に廃し、今では清掃のバイトで、おばちゃんとどうすればきれいに汚れが落ちるかを議論することが、唯一の異性との接点だという、アイツだぞ!?
「おそらく、好きな人へのカモフラージュに渡された義理に騙されたのだろう」
「馬鹿な、全員に渡したところをみれば分かるだろうそんな事!」
「思ったのだろう、きっと俺のは本命だと…」
「くそ、あの馬鹿」
第二の策も、折れたのか…
「ま、まだだ!第三の策が…」
作戦行動中の隊員を見る
「これ、良ければ食べて」
「お、わりぃなサンキュー。ビターチョコじゃん!俺好きなんだよね。朝彼女にもらったやつもビターで…」
「うぐっ…」
「これやるよ」
「ありがとう、でも今朝彼女に貰ったものがあるから。気持ちだけ受け取っておくよ」
「げふぅ…」
「これ、食べて」
「ノープロブレム、マイスゥィートハニーからチョコレートを貰ったんだ。それでは、アデュー」
「ぐぼぁ…」
隊員が、ひとり、またひとりとメンタルを破壊されていた。
「参謀、もう、止めよう。これは被害がでかすぎる」
「しかし、これを逃せば放課後しか時間が!!」
「しかたねぇよ。ビターチョコなんて作戦に組み込んだせいで、苦い結果にしかならなかったんだよ」
「……」
「……」
「数は我々が上なんですよ!この機を逃せば!」
「皆が、皆の方が大切だ」
そうして、昼休みの激戦は幕を閉じる
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放課後
最後の作戦、それは参謀が用意したという秘策中の秘策。
待ち合わせの校門に向かう。
「参謀、少し遅れた。生活指導の鬼さんがうるさくてな」
「構わないぞ。それよりもこれから行う最終作戦は、最も危険かつ、最も効果的な作戦だ」
「ああ、頼む。こうなりゃヤケだ。残存戦力全てをこの作戦に……ん?あれ?参謀?聞いてる?」
周りを見ると、参謀が見知らぬ女子と話していた
「あの、冬のサークルでは、お世話になりました」
「ああ、アップルさん。どうも。今日はどうしてここに?」
「この前のコミケ、ありがとうございました。お陰様でいい作品が出来て。自信がつきました」
「気にしないで下さい。私もアップルさんのコスプレ姿が見れて目の保養になったのですぞ」
「そんな、私みたいな不細工が目の保養だなんて、冗談止めてください」
「アップルさん。自分を傷付けるのは止めることです。あなたの容姿は充分に優れてますぞ。まぁ、それよりも心の方が綺麗だと思いますが」
え、なにコレ。
甘くね、めっちゃ甘くね。
とゆーか裏切りじゃね?コイツ女子と喋ってんじゃん。しかも同年代の。完全に裏切りじゃん。
「やっぱり、軍曹さんは優しいですね」
「そんな事は無いです。それはあなたから見ればそう見えるだけ、実際に見方を替えれば、私なんてグズです」
「そうかもしれませんね…」
「そうに決まってます」
「でも、私のなかでは貴方はとても格好いいですよ」
誰かビターチョコ持ってきて!!ありったけの!!お願い!!
「そ、そういえば何の用事でここに来たのですか?」
「ああ、そうです。あの…コレ…」
「こ、これは…チョコレート!?」
「これ、義理じゃないですから!!!それでは、失礼します!」
女子は参謀に何かを渡して去っていった。
「こ、これは…チョコレート…」
「参謀」
「そ、総隊長。これは、ちがくて」
「あれは、知り合いか?」
「冬のコミカルマーケティングの時に一緒に同人誌を製作したんです。林檎という名前で、いや…すいません。私は参謀。チョコなど、ましてや本命だなんて…貰うべきでは」
「違うだろ!」
俺は参謀の言葉を遮る
「それはお前が受け取った、友チョコだ。俺のチ○ルチョコと変わらない」
「総、隊長…なら策だけでも!」
「いや、もうやめた。今日は1年に1度の愛を語らい合う、せっかくの機会だ。もういいさ」
「ありがとう。総隊長との友情は永遠ですぞ!」
そう言って参謀は彼女を追っていった。
あの林檎ちゃんも言ってたじゃないか。見方を替えれば、景色もきっと変わる。
参謀には悪いが、彼だってイケメンな訳じゃない。
それでもあんな良い子が出来たんだ。
俺はもう嫉妬しない。
その時、隣を歩いていたカップルが箱を落とす。ハートマークから察するにバレンタインデーのプレゼントだ
俺はそれを拾い上げた
「あの、これ。落としましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「すいません。彼女から貰ったものなのに…」
「……ですね」
「え?」
「末永く一緒に居られるといいですね」
「あ。はい!ありがとうございました」
そうしてカップルは歩き去った。
うん。悪い気分じゃない。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?俺?」
うしろから声をかけられて振り向く
「はい、あの…これ。お願いします!!」
「へ?」
ショートカットの小柄な少女は、俺にチョコらしきものを押し付けて去っていった。
そこには俺の苗字が書いてあった。
ほらみろ、
やっぱり考え方1つじゃねえか
きっと、明るい心をもてば、幸せは訪れるんだ。
俺は小さく呟いた
「ハッピーバレンタイン」
その声は、誰に届くでもなく……
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「ただいま」
さて、貰ったチョコ、開けるか
あ、メッセージカードまで、丁寧だなぁ
『遊さんへ』
「弟宛じゃねぇーーーか!!!」
やっぱりバレンタインデーなんてクソだわ
作者はチョコレートは1個確定してます(母親)