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おぼろ城主と猫の恋  作者: 朝比奈 呈
思い思われ?
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4話・ふいに抱きしめられて

「おい」

「はい?」

 若者の整った顔がすぐ自分の傍にある。とても魅惑的で息をするのも忘れて、佐保が見とれていると思いがけないことを聞かれた。

「あそこでたむろっているのは、あんたの知り合いかい?」

「たむろってる?」 

「あの団子屋の前で、明らかにいい子ちゃんでなさそうな、兄ちゃんたちが集まってるだろう? あいつらに見覚えは?」

「ぜんぜん知らない人達だわ」

「そうか」

 若者は自分たちのいる場に近い露店の二、三軒先に目をやった。佐保もつられて彼の目線の先にあった、お団子屋を見た。そこには品行方正とはとてもいえない、柄が悪そうな町人の若者が数人集まっていた。隣の彼はまだ団子屋を伺っているので佐保も再び、団子屋へと目をやった。

 彼らは短刀を見せびらかして、団子屋の亭主を取り囲む。団子屋はお代も貰わずに彼らに団子を何本か手渡した。彼らは次々と周辺の露店にも刃物を振りかざし、脅しては商売品や金品を巻き上げていく。

 お団子屋を始め、周りの露店の店主たちも露骨に嫌な顔をしているが、何も言わず彼らがいうままになっていた。どこぞに早く立ち去って欲しい思いがありありと、顔に書かれている。  

 佐保は藩内で奉行として、治安を取り締まっている父から、素行の悪い若者が町に繰り出して、真面目に商売を営んでいる者から脅して金品を巻き上げたり、商売の邪魔をしている者がいると聞いていた。祖母にも気の乱れは、服装や人相にも現れると聞いている。

「許せないわ。あんなことがまかり通るなんて。ひどい」

「確かにやつらのやってることは許せないが、よせ。お姫さんが出て行ってどうなるもんでもない。下手に出て行けば、どんな目に合わされるか分からないぜ」

「だからといって、黙ってみているわけには…」

「待てっ」

「……!」

 憤慨して、彼らにひとこと、もの申してやろうと飛び出そうとした佐保は、若者に肩を引き寄せられ抱きしめられた。若者の突然の行動に何も言えずに固まっていると、背後から間延びした、佐保の良く知る声が聞こえてきた。慌てて佐保は若者の胸を押し返し、彼の腕の拘束から離れた。

「佐保さま~」

「あ、お萩。どうしたの?」

 ふたりの間に、おっとりした感じの少女が割って入った。お萩だ。お萩は佐保付きの侍女で佐保よりひとつ年上。彼女の父親が佐保の父に仕える藩士で、佐保の遊び相手として、幼い頃より傍に仕えてくれている。周囲の侍女たちがみな年上のお姉さま方の中で唯一、佐保に年の近い侍女だ。

 他の侍女には言いにくいこともお萩には何でも言えるので、佐保にとってお萩は侍女というよりも友達に近い部分があった。今回の外出もお萩に頼みこんで、弁天稲荷に願掛けしようと連れてきてもらったとこだった。

 ふと二人が抱き合っていたのをお萩に見られていただろうか? と、気になった。隣に立つ若者の平静さが憎らしい。佐保はさきほどの出来事が気になって仕方ないというのに。荒くれどもに果敢にも無謀に挑もうとした、佐保を止めようとしてあのような形となってしまっただけで、若者にとってはたいした意味はないかもしれない。だが、佐保には若者に抱きしめられた時のぬくもりが背中や腕に残っていて、それを意識するだけで、胸がどきどきしてきた。こんなこと幸平さまにもされたことがないのに。



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