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おぼろ城主と猫の恋  作者: 朝比奈 呈
振り振られ
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15話・体調不良


 それから二月ばかりのんびりとした日々を送った。時間を持て余すような日々の中、倫に申し出て本館の掃除を手伝わせてもらうことにした。

 本館にいる男娼たちは実は本職があり、忍のものと知った時には驚いた。皆、倫の配下でこういったお酒が入る場になると、お客の口が滑りやすくなるらしく、情報を手っ取り早く手に入れるためにも必要なのだと聞いた。

 つまりこの陰間茶屋は情報を探る事や、操作する場でもあるらしい。


 倫の配下の者たちは佐保に優しく、やはり皆が倫の呼び名を真似て「お姫さん」と、呼ぶものだから少し気恥ずかしい気はするけれど、慕ってくれて悪い気はしなかった。


 綱宗には会っていなかったけれど、倫からは仙台藩の状況は聞かされていた。先代の藩主が亡くなり、後を継いだ綱宗が年若く頼りないとして、その叔父の一関藩主の伊達宗勝が後見役を申し出ているらしい。

 一関藩主と聞いて顔を顰めた佐保の反応に倫が聞いてきた。



「お姫さん、知り合いか?」

「知り合いってわけじゃないけど──以前、お会いしたことがあって……」



 佐保は先代藩主が存命の折りに、次期藩主さまのお披露目の花見の宴の事を思い出した。あの日の事は昨日のことのように思い出せる。

 花見の宴で酔っ払った男に目を付けられ絡まれた。それが一関藩主の伊達宗勝で彼は相当酔っていた。

「自分の隣で酌をしろ」と、言ってきたので断ったら、「おまえの名前はなんだ? この一関藩主の誘いを断るとは生意気な」と、言い出し彼の側にいた取り巻きの藩士らは「素直に宗勝さまのご好意を受けろ」と、言ってきた。


 宗勝は「いい体をしているではないか」と、言って佐保の肩に触れてくる。気持ち悪く思われて、その手を払いのけたら藩士に睨まれた。



「良いではないか。減るものではないし。わしの好意を受けたなら悪いようにはしない」

「お断りします」



 宗勝の執拗な手が着物の上をまさぐり始め、中に入り込もうとしていた。助けを求めようにも他の藩士たちは見て見ぬふり。

 相手は一関藩主。仙台藩主とは兄弟である。そのような高位の御方相手に不興を買いたくはないと、皆が黙ってしまったのだ。


 誰も助けてくれないならば、自分で自分の身を守るしかない。佐保は宗勝の腕を捻り上げた。その一件で佐保は彼からの心証が悪くなったが、別に後悔はしていない。ただ、父に対する宗勝の動向は気になるところだけれど。



「気持ち悪い男だな」

「えっ?」



 倫から返事が返ってくると思わなかった佐保は驚いた。自分でも気が付かないうちに話し出していたようだ。倫は宗勝を許せないと言っていた。



「だからか……。納得がいった」

「どういうこと?」

「一関宗勝は綱宗公とお姫さんの婚約を強く反対していたくせに、その反面、水沢さまには綱宗公との縁談がなくなった娘御はこちらで貰い受けてやろうかと言ってきていたらしい」

「そんな話、初耳です」

「宗勝は自分の妾にもらい受けようかと、水沢さまにもち掛けていたらしい。そんな話、お姫さんには聞かせたくなかったと思うよ」



 お姫さんは恐らくその時から目を付けられていたんだろうよ。と、倫はため息交じりに言った。




  翌朝。本館で食事の支度をしていた佐保は炊き上がった釜の匂いを嗅いで具合が悪くなった。


「……!」


 厠に飛び込んで落ち着いてから戻って来ると、井戸水で軽く口の中をすすぐ。胃の中のものが競りあがってきて気持ちが悪かった。



「お姫さん。大丈夫か?」

「ごめんなさい。心配かけて」

「なんだか顔色も悪い。少し休んでいた方がいい。食事の用意ならなんとかなるから」



 その時、一緒に食事の用意をしてくれていた夕顔が気遣ってくれたのでそれに甘えた。もしかしたら昨日、不快な相手のことを思い出したせいなのか胸がまだもやもやしていた。

 急に脱力感を感じて畳の上に行儀悪くも横になりいつしか寝入ってしまったようだ。誰かが部屋の外から声をかけてきたような気がして、障子を開けると縁側の向こうに一人の若い藩士がいた。綱宗だった。



「綱宗さま」

「佐保」



 何だか頭の中がまだぼんやりしているようで、気持ちが悪かった。再び、競りあがってくるものに気が付いて口元を手で押さえると、綱宗が上がりこんできた。




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