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おぼろ城主と猫の恋  作者: 朝比奈 呈
振り振られ
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14話・微笑が怖い人


 翌日から佐保は高熱を出し、しばらく寝込む事となった。今までお姫さんには色々な事があり過ぎたから疲れが出たのだろう。と、倫は言って甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたが、佐保は心のどこかでほっとしたものを感じていた。


 これで綱宗に会わなくて済むと。彼にはしばらく会いたくなかった。彼の良い残した「また来る」と、いう言葉が気に掛かって仕方なかった。

 綱宗が来たなら当然、断ってもらおうと思っていたが、幸いにも倫の口から綱宗の名前が出る事はなかった。


 熱が下がってから佐保は暇になった。手慰みに三味線を持とうとしたら倫に「まだ休んでいなさい」と、取り上げられてしまった。何もする事がなくなった。


 暇すぎると愚痴れば「もともとお姫さんは、ここではお客さまだったのだからいいんだ」と、言われてしまうし、何だかつまらない。

 暇を持て余す日々を送っていると、家綱が訪ねて来た。



「やあ、元気になったみたいだね? でも無理は禁物だよ。佐保」

「家綱さま。わたくしがやはり仙台藩に帰ることは無理なのでしょうか?」

「気持ちは分からないでもないけど、どうしてかな?」

「ここにいては皆様にご迷惑がかかると思いますし。今はあの方にお会いするのは辛いんです」


 思い切って言ってみれば家綱は首を横に振った。



「あの晩のことは綱宗どのから聞いているよ」

「……!」

「佐保さま。申し訳ありませんでした」



 倫がその場で土下座する。



「あの日、俺が変な気を回さなければ起きなかったかも知れない事です」

「いいえ。あの状況では何も変わらなかったと思います。倫さまのせいではありません」



 やはりあの晩、布団を二組用意させたのは倫だったのかと思った。暇になったせいで佐保は、じっくり考える時間に恵まれた。

 綱宗にされた事を思えばまだ許せそうにない。でも、思うのだ。あの時、彼はかなり酔っていた。飲む盃を空ける回数も早かった気がする。


 そんな状態で尋常な考えを持つ事など難しそうな気がする。綱宗に沢山飲ませすぎたのは自分のせいでもある。彼の隣に座って酌をしていたのは自分なのだ。そう考えると自業自得のような気もしてきた。

 被害者面する気は無いが、それでもまだ綱宗のことを許せそうになかった。



「倫を責めないのかい?」


 家綱は事情を察しているようだった。綱宗から話を聞いたと言うし、倫からも報告を受けているようだった。佐保は自分の口から自分の身に起きたことを話すことに躊躇いを覚えていたので、その点は助かったように感じた。



「わたくしの警戒の甘さが招いたことですから」

「綱宗どのにたいしてはどう?」

「正直、まだ許す気にはなれません」



 家綱は頷いた。



「正直に言ってくれて良かった。きみのことだから自分も悪かったからともし、彼を庇う姿勢を見せればあいつの首をすげ替えるつもりでいたよ」

「家綱さま。それは公私混同になります」



 佐保はそこまでは望んでいないと言った。綱宗は自分には非道な真似はしたが、藩主としては父も認める優秀なお方ではあるのだ。

 ここで彼を藩主の座から追い落とすと、大変なことになる。父の悩みの種が増えそうな気がして佐保は止めた。


「将軍というものは面倒くさいね。きみの従叔父の立場からすれば、可愛い大事な従姪を泣かせた時点で、あいつは生存している意味はないくらいにとっちめてやろうと思っていたのだけど……」


 この家綱なら無能な振りをして、大老達を唆しやって遂げそうで怖い。佐保は仙台藩が潰れるような羽目になってはと恐れた。



「お願いです。何もしないで下さい。仙台藩にはわたくしの父もいます。父が困るようなことだけは……」

「分かったよ。きみがそういうのなら仙台藩にはまだ手を出さないであげる。その代わり本人にはどのような罰を与えようか?」



 家綱はにっこり笑ったが、佐保は生まれて初めて世の中には、微笑が怖いと感じる人がいることを知った。




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