3話・やっぱりばれていました
「そうか。無事に母ちゃん見つかるといいな」
と、言いながら若者は狐の面を外し顔の横にずらした。若者の素顔がさらされて、佐保は自然と彼の顔に目が向いた。お面の下から覗いた顔は、綺麗過ぎるほど整っていて、栗色の瞳に笑みを浮かべるとこわく的で、目が惹きつけられた。魅入っている佐保の前で彼は、しゃがんで少年の頭をなでた。少年もまんざらでない様子だ。この若者はそう悪くない人なのかも知れない。
佐保は気さくに、迷子の少年に話かける若者から目が放せなくなっていた。
「そんなに珍しいかい?」
「えっ?」
ふいに話しかけられて、佐保は戸惑った。
「風車だよ。熱心に見てただろ?」
「どうして?」
「俺も見てたから。あんたを」
「えっ?」
自分を見ていたという相手に対し、どういう意味か図り損ねた佐保の顔の前に、朱色の風車が差し出された。参詣帰りのひとが行きかう往来の向こう側で、幾つもの風車の羽が回っているのが見える。露店の風車が風に煽られ、一斉に回っていた。
佐保は差し出された風車を手にとって弄ぶ。
「気に入ったかい?」
「ええ。まあ。朱色が鮮やかで綺麗だと思うわ」
「あげるよ」
「ええ。いいの?」
素直に感想を述べると、彼は気を良くしたのか、少年に紙に包んだ物を差し出した。
「どうだ。食べるか?うまいぞ」
「何?わぁ。餅串。ありがとう。にいちゃん」
「よく噛めよ。そんなに慌てて食べると喉につまらせるぞ」
少年は紙包みを開いて、目を輝かせた。出てきた餅串を口いっぱいに頬張ったと思った途端ぐっ。と、喉を詰まらせた。
「ほらほら。言ったこっちゃない」
若者は少年の背を叩いてやり、撫でさすった。面倒見の良い青年なのだろう。年下の子供の相手がしなれている気がする。少年が食べ終えて三人で談笑しているとこちらに向けて、妙齢の女性が声かけてきた。
「平太!」
「かあちゃんっ」
どうやら少年の母親らしい。少年の母が駆けて来た。
「良かった。平太。どこにいったのかと思った」
「ごめん。母ちゃん。ごめんよう」
少年を母は抱きしめ、少年も母親に会えた安堵で目に涙が浮かんでいる。
「このお姉ちゃんが…母ちゃんが来るまで…ここで待ってようって…だからおいら…」
言葉にならない声で平太は母親に伝えようとする。母親は平太の言おうとしたことが何か分かったようで、佐保に頭を下げた。
「ありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」
「そんな迷惑だなんて。良かったわね。平太。お母さんに会えて」
平太ははじけるような笑顔を佐保に見せた。
「もう迷子にならないように気をつけるのよ」
平太は母親に連れられて、ふたりに蔓延の笑みを向け、帰って行った。親子が去ってから派手な若者が笑って言う。
「次はあんたの番だな?」
「わたくしは人を待っているだけです。迷子じゃありません」
やっぱり彼は、佐保も迷子なことを分かっていたのだ。佐保はなんでもお見通しのような顔をして彼女を見る若者をけん制した。佐保の横にいる若者はおかしそうに笑った。