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おぼろ城主と猫の恋  作者: 朝比奈 呈
振り振られ
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11話・綱宗の後悔


 綱宗は後悔していた。惚れている女性を自分の行動で傷つけてしまったのだ。そればかりか抗う彼女を力ずくで組み敷いた。

 男として到底許される行為ではないだろう。かの東北の覇王として名高い独眼竜と恐れられた祖父でさえ、女性には優しかったと聞いている。



────俺はいったい何をしているのだろうな。



 彼女を汚い争い事に巻き込まないように、自分の側から遠ざけようとしたのに、守っていたはずの彼女を自分が傷付けてしまうとは、本末転倒ではないか。彼女が生きていた。無事でいてくれた。それを素直に喜べば良かっただけなのだ。それなのに────。


 自分の取った行動は屑だった。最低だ。二度も彼女を泣かせた。一度目は婚約破棄を言い渡した時。そして今回、彼女が生まれてから秘して守り通してきたものを、無残にも強引に奪い取ってしまった。

 酒に酔っていたとはいえ、非道な行為だった。意識が朦朧とした状態の中で、耳だけは彼女の泣き声を拾っていたが、どこか他人事のように感じられていた。


 彼女の淡雪のような肌に魅せられて、それに触れて溺れることしか考えられなくなった。脳裏に突然、征四郎が浮かび、その彼に対抗するかのように佐保を抱いた。もともと慕ってくれていた彼女に婚約破棄を言い渡し、梅に征四郎になら佐保を託せると勧めたのは自分だ。

 それから佐保には会わないようにし、彼女から距離を取ろうとした。でも、彼女への想いはそう簡単に消えるものでもなく、参勤交代で江戸に来てからは廓通いで気を紛らわせるようにしていた。


 それをどこからか聞きつけたのか、ある日、家綱から「お勧めの場所があるんだけどどうかな?」と、打診され、ほんの付き合いで来たのが陰間茶屋だった。男色には興味がなかっただけに将軍に誘われて驚いた。

 家綱曰く、「立場が立場だからね。子をなさずに欲求を解消するとしたらここが最適なのさ」と、事も無げに言われた。



「きみは知ってるかい? 将軍なんて所詮、種馬扱いなのだよ。大奥なんてね、全然気が休まらない。目がチカチカするほど着飾って、鼻がもげるほど脂粉を顔に叩きまくった女性らが、目をギラギラさせて自分を選んでくれと待ち構えている。あそこは怖い世界だよ」

「家綱さま。そのようないい方をしては……」

「へぇ、きみって意外と真面目なんだね。傾奇者は単なる振りだったのかな?」

「いえ、卒業したので────」



 座敷に通されて、家綱に酌をしていると思わぬことを言われた。家綱は見た目通りの者ではないのかと警戒が沸いた瞬間だった。

 そうなると、自分をここに連れてきた彼の意図が気になった。単なる趣味への誘いではないらしい。ここに連れて来たのには何か理由がありそうだ。


「今日はね、きみに会わせたい人がいるのだよ」


 家綱がそう言った後で、お座敷に二人の花魁が入ってきた。最初に姿を見せた花魁は、男性にしては秀麗で女性にしか見えなかった。その後に続いた女性を見て、頭を金槌で殴られたような衝撃が走った。

 その花魁は着飾ってはいても明らかに佐保だった。彼女に惚れている自分が見間違えるはずがない。思わず家綱へと目を泳がすと彼はにっこり笑いかけてきた。



「やあ、松風太夫。待っていたよ。そちらの太夫はまだこういった場には不慣れなのかな? 初々しいね」

「彼女は若菜と言うでありんす。どうぞ可愛がってやっておくんなまし」



 若菜。どう見ても佐保だと思うのに? でもここは陰間茶屋。やはり佐保に良く似た別人なのか? 悩む綱宗をよそに、松風太夫の促がしで若菜と名乗った彼女は隣に来た。彼女の酌をする手が震えている。不慣れな様子から「佐保なんだよな?」と、訊ねたくなる。

 

 しかし、この場には、将軍家綱の誘いで来ているだけあって気軽には聞けないものがあった。三ヶ月前。佐保が水沢屋敷から消えたと忍びを通して梅から連絡があった。その前には征四郎が失踪したと聞いていたので、征四郎が佐保を連れ出したのか? と、疑ってもいた。


 気持ちの上では今すぐ、仙台藩に帰って佐保を捜したかった。でも仙台藩の藩主となった立場では自分で動く訳には行かず、梅たちに捜索をさせていた。でもその後の報告は芳しくなかった。

 忍びとしては優秀な真田忍軍はここの所、口を閉ざすように、黙秘を続けていた。状況は難航しているのに違いなかった。

 消息が知れなくて心配していた。その相手が現れたのに綱宗の心は晴れなかった。



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