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英雄の火  作者: Oっ3
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エピローグ

エピローグ


 独立十年祭で起きた事件も片付き、一週間が経った。その内二日は病院のベッドにいた。その間に、治安維持部隊からの辞令を持った士官が病室を訪ね、正式な決定を言い渡された。それは、クビを告げるものではなく、勲章と特別手当を授与すると言う内容だった。

 退院後、きららと未だ住み着く不動のいる家に戻った。

私は喧嘩していたきららと仲直りをする為に、戦いの中で見出した、治安維持部隊に居たい理由を告げると、またいつものように接してくれた。

 三日目の夜。それは不動が立ち去る日でもある。

寝ようとしたら、奴はノックしてきた。私に話があるからと言うので、部屋に入れた。

「お別れだ。けど、右手の術式はどうするよ?」

「どういう事?」

 質問を質問で返してしまう。あまりにも突然の提案だからだ。

「原則的に術式は一人一つ。右手か宏誠の奴か、どっちかを封印しないと、お前の身が滅んじまう」

「そんな事できるの? 道具は?」

「舐めんなよ。弟子の術式は俺が彫ってるんだぜ。道具は――」

 不動の人差し指から火が起きる。

「これだ」

「嫌だ」

 色々と不安だし抵抗がある。信じてない訳じゃないのだが。

「俺は、会わなければならない奴がたくさんいる。だから、ずっとお前達に構ってられねぇんだ」

「術式とそれは関係ないでしょ」

「俺の代より、術式は進んだかもしれないが、術式の封印は専門外だろうよ。二刀流なんて無理だからな。純粋な感情一つを術式に込めないと、暴走するから必要なんだ」

専門家でもある不動の懸念に納得し、私は右手にある憎悪の深想出力術式を不動に無効化してもらう事にした。


その間、退屈な私は、奴への疑問をいくつかぶつけた。

「どうして日本へ来た?」

「十年前、弟子達は機械生命体との戦いでほとんど負傷した。俺も含めてな。帝都はその隙に大軍を差し向けた。後は教科書通りだ」

「それは知っている。どうして?」

「俺は一度死んだ。魂は残っていたけどな。十年間、俺は機械生命体の考えを正そうとしていた。人間はあるがままに生きるべきで、まやかしの幸福は間違いだとな」

 孤独を感じた私の隙を機械が突いた。一度体感したから不動の言葉を理解できる。

「機械にも風の噂があるのか、日本に機械生命体が現れたと聞いた。俺は、弟子に日本を託したのに、このザマは何だと思い。いても立ってもいられなくなった」

 不動は、作業しているその手に視線をやる。

「機械の魂共に、人間は捨てたもんじゃねぇと、強引に言い聞かせて、ここまで来たんだ」

「障壁はどうした?」

 露骨に私から目を逸らしている。

「全力で突き破った。けど、傷つくぜ。一瞬で直ったからな。アレ」

 どうりで、治安維持部隊の人間が、障壁が壊れた事を信じなかった訳だ。一瞬なのだから、障壁局の計器が誤差を示したと思ったのだろう。

「とりあえず、機械生命体の危機を脱した。後は、憎悪の術式を封じたら、ここを出て、弟子の誰かに会って、全員集めて鍛えなおしてやる。それだけだ」

「子供になったのに、信じてくれる人がいるの?」

「いるよ。ぜってーいるからな」

 師匠の威厳でもあるのか、とても意地を張っている。私を助けた時の頃でも、彼はこんな調子なのだろうかと疑問に思う。

(失望するな…………やめよう、馬鹿みたいだ)

「オイ、術式が動きそうだ。止めろ、止めろ」

 慌てる不動だが、憎悪した覚えは無い。

「発動させた覚えは無い」

「してる。してるからな」

「だったら、確かめてみろ」

 全く、何を言っているのか分からん奴だ。

「分かったよ。ぁあ、めんどくせぇ」

そう言うと不動は、私のパジャマをめくる。

「……………」

「ああ、発動してる。俺の言うとおりだ」

 不動が悪びれもせずに、私を見上げる。

「どうした、止めろ。今度は憎悪か」

「許さない。わざとか」

 とりあえず、不動の顔面を殴り、腹に蹴りを入れた。


「オラ、終わったぞ」

 不機嫌そうに不動が、作業の終了を告げる。

 憎悪の術式を封印する為に、新しく腕に封印の術式を彫った。

「…………ありがとう」

「どういたしましてー。俺、死にたくないから、とっとと出てくぜ」

 不動は足早に部屋を出ようとしている。

「待ってくれ。話したい事がある。だめか?」

「いいぜ。話を聞かないと、殺されそうだ」

 呼び止めた。どうして、出て行って欲しい奴を呼び止める。昔の仲間に会いたい事を邪魔していいのか、その為に日本に来たというのに。

「まだか?」

「ちょっと待て」

 時間を稼いだが、何時までもつか分からない。

(ここに残って欲しい。どうして、そんな事を思う? やはり命の恩人だからか。そもそも、こんな奴と同居してどうする? かつて日本を救った英雄に弟子入りしたいと言うのか)

 地団太を踏みながら、「あー」と唸っている。落ち着きの無い奴だ。

(その割には、会った時よりも回避率が下がっているし、性格も悪ガキ同然だ。尊敬できる要素なんてまるで無い)

「あのー。術式発動してるんだけど、何? 俺と勝負したいの?」

「そ、そうだ」


 当初の目標とずれたが、とりあえず、時間を稼いだ。

「へっへっへ、見ろ。俺の紙飛行機だ。お前のより良く飛ぶぜ」

「これ、不動のだけど、いいのか、そんな事言って?」

 屋上で紙飛行機を投げる。どっちが遠くへ飛ぶかと言うシンプルな勝負だ。

これに私が勝利したら、言う事を一つ聞いてもらう事にした。自分に生まれた不動と同居をしたいと言う欲求に、どうにかケリをつけてやる。

新旧不動が作った紙飛行機が投げられる。

 飛んでいく紙飛行機。風が吹き、私が大切にしていた紙飛行機が床に落ちる。

「私の負けだ」

「約束は約束だからな。けど、天夢が勝ったら、何をさせるつもりだったんだ」

「ここに居て欲しい。この街は、大日本帝国に近いから、また、ここに侵攻してくるかもしれない」

 不動が近づき、私の肩を叩く。

「自信無いのか? 将校を倒せたんだ。自信持てよ」

 もっともらしい理由を言ったが、駄目かと落胆する。

「……それに、弟子はお前を見ても、分からないと思う」

「会って、殴りかかれば分かる。冗談だと思うだろ、けど、そう思ったんだよなー」

 こいつ馬鹿かと思う。けど、私に無い物をたくさん持っているのは確かだ。とりあえず、不動彰真をここに居させたい理由は、居させれば分かる。その事だけを考えろ。

「ここにいろ。お前みたいな馬鹿は、いずれ噂になる。そうすれば、お前の弟子も不動彰真本人かもしれないと、確かめに来るかもしれない」

 不動は腕組みをする。

「そういう考えもあるのか。なくはないな」

「それにお金はどうする。人の三倍も飯を食うんだ。ここに居ろ。当面は、私がどうにかするから」

負けたら諦めるつもりだったのだが、どうしても食い下がってしまう。

「三人前も、飯は食わねぇし、迷惑はかけたくない」

 私から不動が離れる。このままでは行ってしまう。

(どうする? 力に差はあるが、とりあえず奴の動きを止めれば)

「お前がいなくなったら、二人だけど悲しむ」

 私は不動を羽交い絞めにしていた。

「ぁあッ、殺す気か!! 天夢。本当に死んじまうぞ」

「そんなつもりは………ない……筈だ」

 殺すつもりはないので不動を開放する。思っていたより力が入っていたのか苦しそうだ。自覚は無いが、羽交い絞めに至るまでの速度も速い気がする。

「また術式が発動してやがる。宏誠の術式は我流にも程があるな」

 ため息を零す不動。

「術式を研究するしかないな。とりあえず、しばらく天夢の所に居させろ」

「頼む」

 不動彰真は、ひとまずだが私達と同居する。その間に、こうしてしまった答えが出ればいいのだがと思う。


 そして、現在。治安維持部隊の通信機から、民間人が引ったくりを捕まえたらしく、身柄を引き取る為に現場に向かうと、見覚えのある男の姿が見えてくる。

本当に目立つ奴だとつくづく思う。


終了


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