発散(お題:くさい躍動)
傍らで死んだように眠り続ける男を見た。私もついさっきまで爆睡していた。肩が痛い。腰が痛い。大腿筋も膝関節も。股関節もめっぽう痛い。どれだけアクロバティックな夜を過ごしたというのか。
終電が終わったどこかの駅で男を拾った。
私も酔っ払っていたし、男も酔い潰れていた。
男は酔い潰れてホームのベンチで寝転んでいた。私は千鳥足でその隣に無造作に座った。素面だったら酔っ払いに近寄ったりしない。酩酊状態が私の中の危険信号のしきい値を上げてしまった。危険に対して鈍感になっていた。
私の財布の中には金があった。駅前のビジネスホテルにでも泊まろうとベンチから立ち上がったら、コートの裾を掴まれた。
「お姉さん綺麗ですね」
酔っ払い男の戯れ言にのせられた哀れな酔っ払い女は、泊まるつもりだったビジネスホテルを脳内でキャンセルした。酔っ払い男を引きずってラブホテルに連れ込んだ。
酔っ払って男を連れ込んで何が悪い。
嫌なことがあったり、虚しくなったり、ムシャクシャした気持ちをセックスで発散して何が悪い。
拾った男はぐでんぐでんに寝ていたくせに、始まった途端に人が変わったようだった。
「ちょっと待って無理無理」
何度も叫んだが無理じゃなかった。
人間すごい。
こんな動きもできるんだ。
あっという間に高みに連れて行かれて「もう止めて」と言っても止めてくれなかった。
「あんたホントは電気で動いているんでしょ?」
と言いたかった。叫んだかもしれない。
とにかく激しかった。
ああ、痛い。体中が痛い。痛くて満足だ。
酒臭い体臭、酒臭い息、その奥に男のにおいを感じた。
くさくて最高だった。
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