はじめましてでごめんなさいと彼が言う(お題:見知らぬ税理士)
大学時代からの友人に誘われて合コンなるものに参加してみた。
友人曰くスペックが高い男を取りそろえたらしい。
わたしは勤め先も自宅も都心からは離れたところにあるので、街に出るだけでドキドキしてしまう。
ここにいたら場違いなんじゃないかなって。
医師、弁護士、会計士、なんだかんだ、あんまりよく聞いてなかったけど。
顔もまあ、イイ感じ。一目見て不快感はない雰囲気。
本当に場違いな私。身の置き所がない。
わたしを誘ってくれた友人が「なにキョドってんのよ。もっと堂々としてなさいよ」と小声で叱咤してくれる。
普段野暮ったい服装ばかりのわたしの服をコーディネートしてくれたのも彼女だ。
「本当は美人なんだからもったいないでしょ。今日はそっちを主張しなさいよ」
といつも言ってくれている。本当は美人ってなんなんだ。
お値段の高そうな落ち着いた店で「王様ゲーム!」なんて言い出す雰囲気でもなく、粛々と合コンは進む。隅っこで携帯電話を向かい合わせてアドレス交換。
困ったなあ。やっぱりこの場の乗りに遅れている。
手持ちぶさたをごまかすために目の前のお皿に手を伸ばした。
すると同じように向かい側の席からも手がのびてきた。大きな手。
手の主を見る。目が合った。その途端相手はピシッと背筋を伸ばした。
「あ、あの、税理士やってます」
名前よりも先に職業を名乗るあたり、この合コンの目的もよくご存知のようで。
私は一気に気が緩んだ。見知らぬ人だらけ(友人のぞく)の中の一縷の光。
「知ってますよ。○○研修会に参加されてましたよね。わたしも税理士ですから」
わたしは美人か何かはしらないが、高スペック要員で呼ばれた側である。女だけど。
「知りませんでした」
税理士は朴訥と答えた。その赤い顔ももちろん知ってます。
わたしのことも知ってくださいね。
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