遠くに捨てたい(お題:遠い液体)
僕はいま人生最大の危機に立たされている。
学校の同じクラスの女の子。
ずっと好きでずっと言えなくて、でもこのままクラス替えになって別れてしまうのも嫌だと思って、春休みになる前に勇気を振り絞って告白したんだ。
そしたら何と、彼女も僕を好きだった。
両思いになって、学校はお休みで、デートに行こう。そうしよう。
遊園地の待ち行列で会話が途切れるのも怖いから、映画館に行くことに決めた。
春休みだからラインナップも充実していてガチで面白そうな映画がたくさん。
僕はお小遣いを使い果たす勢いで、映画の開演時間前に売店で食べ物を買った。
ポップコーンとジュースのセット。
どうしてポップコーンもジュースもあんなにたくさん入っているんだろうね。
開演時間を待つまでのあいだに、ポップコーンもジュースも半分以上、僕の腹の中に消えてしまった。
そして映画が始まった。
僕の体内には液体がたまっている。
これ以上にない近くに。内臓、膀胱に。
トイレに行きたい。
でも映画は最高潮に盛り上がっている。
彼女はハンカチを握りしめて涙目だ。
小声で「あとでいろいろ話そうね」と僕に囁く。
僕はトイレに行きたい。
トイレに行ったら映画が見られない。
トイレに行けたら僕はすっきりするだろう。
でもここでトイレに行きたいという勇気が僕にはない。
告白をしたときよりも勇気が必要なことがあるなんて知らなかった。
遠くに捨ててしまいたい僕の中の液体。
映画がを見ていたって、その内容なんて頭に入っていなかった。
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