勝利の美酒
カラスが運転席に、俺が助手席に乗り込んだ。後部座席からバッグを取り出し、俺に手渡す。
意外に重いな…
が俺の感想…
2100万円とは、これ程の重みがあるのか?
始めて手にする大金に、
まだ体が小刻みにふるえてる。
車のエンジンをかけて、トルコンレバーをDレンジに入れたカラスは、車をゆっくりと発進させた。
ここでカラスが口を開いた。
『後藤さん…今日はアパートではなく、ホテルの一室を借りていますので、
そちらにお泊まり下さい。
流石にスウィートとはいきませんが。』
『そうか…』
先程手にした行動指示書にも、そう書かれている。
細かい…
そんなものか?
全てを、織り込んだ計画とは、そんなものなのか?
ホテルの前に着くと
『明日の9時半に
お迎えに参ります。今日は体をゆっくりとお休め下さい。』
俺は助手席から降りてホテルへチェックインした。
部屋の鍵を貰い、
エレベーターに乗り込み、自分の部屋番号を確かめ、部屋に入ると冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出しプルタブを引いた。
プシュッ!!
小気味良い音を立てるビールの注ぎ口に
口を持って行き。
一気に喉に流し込んだ。
喉を刺激しながら流れ込むビールに一息つく。
『クウ~ッッ!!』
たまんねぇ!!
ビールの刺激で今日の事が現実だと改めて実感した。
急に不安になり、カバンの中身を確かめる。
ちゃんと有る。
自然と顔がニヤつく。この金が全部…
俺のものなんだ。
これからも簡単に金が転がり込むのか?
笑いが止まらねぇ、もう一本缶ビールを開けて煽った。
二本目もうめぇ!
これが…勝利の美酒と言うものか?
俺は浮かれ過ぎて寝付けなかった。
カラスはキッチリ9時半に迎えに来た。
肌身離さすにカバンを抱えたまま、
助手席に乗り込んだ。カラスは黙って今日の行動指示書を手渡す。
中身を読んでみると重要な事は何も無い…悪魔堂の新しいスタッフを一人紹介されるだけだ。
ファミレスに、これも10時5分前に到着しカラスが駐車場へ車を停めに行ってる間に中へ入った。
カモメのおっさんが俺を見つけた。
さっと立ち上がるおっさん、
そして、隣に座っていた若い女も立ち上がる。
この女。女物のスーツに身を包み、
年は余り俺と変わらねぇ。
今年大学を出たばかり位か?
髪を後ろに束ね化粧っ気の無い肌は、
透き通る程に白い。
少し口角を上げて微笑み艶かしさを醸し出している。
俺が座席の側まで近づくと、女は深々と頭を下げた。
『この女は、悪魔堂営業部の紅一点。
貴方の身の回りの世話を致します。
《玉藻》です。